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オピニオン

2012年7月

朝倉次郎

ASF総会に出席して

日本船主協会 副会長
川崎汽船 代表取締役社長
朝倉 次郎

東京では173年振りとなった金環日食を見逃しました。5月22日に開催された第21回ASF(アジア船主フォーラム)総会に出席するため会場のケアンズに向かっていたからです。次に日本で金環日食を見ることが出来るのは2030年まで待たねばなりませんが楽しみは先に取っておきます。

さて、ケアンズは皆さんもご存知のとおり豪州クイーンズランド州に位置し、青い空と海に熱帯雨林など本来は環境に恵まれた長閑なリゾート地なのですが、我々が過ごした3日間のうち晴天は一日のみで些かがっかりしました。かつて香港駐在時代に暇さえあれば東南アジアのリゾートに出かけては、海辺のデッキチェアーでビールを片手に、潮風に吹かれてボケッと一日を過ごすのが何よりの楽しみでしたが、ケアンズではそんなささやかな願いも空しく雨に降り込められ、急落するユーロや欧州危機のニュースをホテルの部屋で見ながら居眠りすることと相成りました。

27年振りの歴史的低水準にまで落ち込んだ海運市況、過剰債務問題に揺れる欧州の混迷、バランスシート調整に手間取る米国経済、減速傾向を見せ始めた中国経済など、一向に改善の兆しの見えない事業環境のなかで始まったASF総会では、船員問題、海賊問題、環境規制問題など各国船主協会に共通の問題に活発な意見交換がなされました。特に今も海賊に拘束されている245名の船員の苦痛、その家族の深い悲しみをASFとして共有し、メンバー一同が各国政府に素早い解決に向けてより強力な働きかけをすることを改めて確認いたしました。

また、現在多くの海運会社が直面している困難な状況については、5常任委員会の一つであるSERC(Shipping Economics Review Committee)が、リーマンショック後の海運業界が経験した事象をレビューすることの重要性を説き、パナマ運河庁に対する突然の7月1日よりの値上げ提案の撤回および通航料政策の見直しを求めていくことに合意し、これがASFの総意としてプレスリリースされました。

足元ではコンテナ船やバルカーのスクラップが急速に増えていることや、大型コンテナ船の発注取り消し合意など各船主の需給改善への自助努力も見え始めましたが、4年前に既存船隊の60?70%にまで膨れ上がった新造船のオーダーブックが実際に建造され大量に竣工して来るという現実を目の当たりにしては、需給均衡への戦いが長期化することは避けられません。一方世界経済に目を転じれば、リーマンショックを境に欧米が嵌まり込んだ陥穽から抜け出すために主要国が協調して危機に対応することが必要ですが、このところやや足並みの乱れが見え始めたのは気懸かりです。ユーロからの離脱を望まないにもかかわらず、ギリシャ国民が反緊縮財政を掲げる政権を再選挙で選択することになれば、通貨同盟の条約や協定の信頼性が損なわれ、些か身勝手が過ぎるとして、他のEU諸国からの支援が滞ることになりはしないか懸念されるところです。欧州も海運も、現在直面している危機から脱却するには更なる自制と団結が必要ではないでしょうか。欧州がリセッションに陥ることは最早免れない状態のようですが、4年前と同じような金融危機の再来は絶対に阻止するという強い決意で世界のリーダーたちにはこの事態に対処して欲しいと思います。円が再び急騰するようなことになれば海運業界はおろか日本経済は空洞化を通り越えてメルトダウンしかねません。日本政府、通貨当局には断固たる対応を強く望みます。

総会からの帰途、たまたまケアンズ空港のリカーショップで一本500豪ドルのペンフォールドグランジを見つけました。普段なら高すぎて手が出ませんが、日本円にすると割安感もあり、つい買い占めてしまいました。といっても在庫は2本しか有りませんでしたが。円高は決して悪いことばかりではないという某エコノミストの説にもこの時だけは肯いてしまいました。取って置きのこのワインは何か特別な日に空けることにします。先ずは最初の一本を四半期決算が経常黒字に転じた時と決めました。一日も早くグランジを空ける日が来ることを願っております。

(注)本稿は5月31日に執筆。

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