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オピニオン

2012年11月

栗林 宏吉

日本クルーズ市場の活性化に向けて

日本船主協会 副会長
日本郵船 代表取締役社長
工藤 泰三

都会の喧騒を離れて悠々とした時間の波間に身を委ねるクルーズは一度味わうと忘れられない。そしてクルーズは乗船客に限らず周りの人も笑顔にする。昨年7月、東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた岩手県大船渡港に震災後初めてクルーズ客船飛鳥Ⅱが寄港した際、まだその傷いえぬ地元の方々から「来てくれて嬉しい」、「復興に向けて大変勇気付けられる」と大歓迎を頂戴し、クルーズ客船が持つ「人を幸せにする力」をあらためて認識した。その飛鳥Ⅱが今年11月にも東北の復興を願って応援クルーズを行う。今回は「東北を知って、訪れて、食べて、飲んで、買って」と銘打って様々なイベントを組み込み、飛鳥Ⅱの船の上で、また訪問先で東北の魅力を存分にお客様に味わっていただきたいと思っている。そうした日々の営みの中で東北の観光振興を通じて復興のお役にたてれば大変ありがたい。

世界でクルーズが最も盛んなアメリカではクルーズ人口が1千万人を超えている。それは全人口の3%に達し、クルーズ産業がアメリカにもたらす経済効果は3兆円規模にのぼる。欧州や南米、豪州でもクルーズ市場は成長の一途をたどっているなかで、日本のクルーズ人口は20万人弱と全人口の0.1%に留まっている。しかしこれまで低迷してきた日本のクルーズ人口も団塊の世代がクルーズ適齢期に入ることや外国の大型クルーズ客船が大挙して日本に寄港することから今後大きく成長しようとしている。クルーズ客船一回の寄港が地域経済に与える波及効果は数千万円と言われており、今年一年間で日本全国のべ1千回を超える寄港が地域にもたらす経済効果はあわせて数百億円にも及ぶ。人を幸せにしつつ地域経済にも貢献するクルーズ市場の活性化は今の日本に希望の光を与える。

その一方で懸念材料もある。世界のクルーズ外航客船は安全面、環境面や労働基準でIMOなど国際機関が定めた厳格な規則を満たせば世界中いずれの地域においても外航クルーズを提供することができる。しかし日本籍クルーズ客船に対しては日本政府職員による船舶検査や船舶部材の認証、また外国人船員配乗の制約など国際規則に加えて日本独自のさまざまな縛りがあり、外国籍クルーズ客船との競争において著しく不利な立場におかれている。日本籍クルーズ客船の存続が危ぶまれるなかで、今後も和のおもてなしを求めるクルーズ旅行者にそれを提供できるよう、日本籍クルーズ客船が外国籍船と同じ土俵で健全な競争が行われるような規制緩和が強く求められる。それは事業者のためのみならず日本におけるクルーズ市場の活性化に欠かせないものである。

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