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2012年12月

薬師寺 正和

技術から技能へ

日本船主協会 常任委員
第一中央汽船 代表取締役社長執行役員
薬師寺 正和

技術大国として世界経済をリードしてきた日本が怪しくなってきている。

円高とか政治の貧困とかの問題でもないようである。何故だろうか。

技術が全てを律するとの錯覚から、それを踏まえた技能を磨くことを余りに軽視してきたためではないだろうか。

技術とはあくまでマニュアル化しうる範囲の技と言える。技術を進歩させても、マニュアル化されれば、時間差はあろうが他の人にすぐにコピーされるものである。そこに技術の上に、伝統・経験を加味し、いかなる状況にも対応できる技能と言うものに真の価値を求めることが日本として進むべき道ではなかろうか。

これは製造業に限ったことでもない。世の中、技術の名の下にマニュアル文化の氾濫である。学校教育からして個を捨ててマニュアル化された人間を育てることに執心している感がある。これではマニュアルの上を行く技能を身につける人間は育たない。

食の世界でもそうである。冷凍技術・加工技術の進化で画一的な外食チェーンが隆盛となり料理人が腕を磨く機会が減っている。日本の食文化は衰えるばかりとなろう。

住の世界も設計技術・プレハブ技術の進歩で最近はどこに行ってもレゴを組み立てたような個性のないビル・住宅だらけで、味気のない町並みが増えてきた。カンナ・ノミを自在に扱える技能を売りにする大工さんも少なくなってきたと聞く。

農の世界では土壌・施肥・農薬等々、細切れの農業技術に基づく農協主導の押付農業となり農家の技能を磨く道が失われているのではないか。農業は夫々の土地柄、天候に対応する技能があって健全な農産物の生産が可能となるものであろう。

さて翻って、わが海運業ではどうだろう。管理技術の向上、技術を保証する物としてマニュアル化の波が押し寄せている。技術の向上、マニュアル化を否定するのでは毛頭ない。ただし、マニュアル化すれば事足れり、それ自体が目的になってしまうが恐ろしい。海の世界はそれこそ予想外の出来事が起こり得る仕事であり、その時に適確に対処できる技能を持った人間の集団であるべきであろう。海運大国としての歴史、伝統、経験を生かし、マニュアル化に留まらず、それを踏まえた卓越した技能を誇る日本海運であってほしいとおもう。

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