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オピニオン

2013年3月

小畠 徹

国際競争条件均衡化へ向けて

日本船主協会 副会長
五十嵐 誠

 トン数標準税制(以下「トン数税制」)の拡充がほぼ決まりつつある。4年前の日本籍船への導入開始を「ホップ」とするならば、その着地点、すなわち「ステップ」への踏み切り地点まで来ることができた。これで、日本海運企業をめぐる税制面での国際競争条件はさらに一歩改善することとなる。これまでに到る、立法、行政を始めとする各方面のご理解、ご協力に心から謝意を表したい。また同時に、トン数税制を適用する海運会社の裾野の拡大により、日本籍船増加のスピードアップも期待したい。
 しかしながら、これでも5年後の時点で、ようやく日本商船隊の10数パーセントがトン数税制の恩恵を受けるにとどまり、且つ、日本籍船の確保・増加義務、日本人船員の雇用・教育訓練義務負担も大きく、既にトン数税制適用範囲を運航船隊全体に拡大している、欧州を始めとする海運先進国との税制上での負担の格差は依然大きい。日本トン数税制の受益者として、日本の経済安全保障に貢献することは当然のことではあるが、そのバランスも国際標準で大きく劣ることのないような配慮が必要である。
 世界の海運市場で現在繰り広げられているのは、成長市場での商権確保を巡る熾烈な競争である。これまでの日本の顧客を中心とした、どちらかといえば静的な市場と異なり、中国、インド、ブラジルを始めとした成長市場では、まさしくドライでダイナミックな競争が展開されている。そこでの競争相手は、当該国海運会社はもちろんのこと、欧州を始めとする主要海運会社群であり、トン数税制をフルに享受する彼らに打ち勝つ競争力がわれわれにも求められている。
 運航に係る技術力、信頼性、財務的安定性などは日本の海運会社の最大の武器だが、逆に最大の弱点はその収益力の低さとなっている。
 日本の海運会社のROE(株主資本利益率)の低さは、日本での相対的コスト高もあるが、最大の要因は税率の高さにある。税引後純益がその分子になる以上、同じ経常利益もしくは営業利益を上げても、最終的な純益に大きな差が付き、当然ROEは低くなる。
 ROEの低さは、投資家にとっての相対的な魅力低下ももたらすが、最も懸念されるのは、彼らが許容できる入札もしくは提示条件が、相対的に低いRの水準を前提としてオファーせざるを得ない日本の海運会社にとって、赤字入札となるリスクが大きい(すなわち競争に負ける)ということにあり、それが成長市場での日本海運会社の長期的な敗退をもたらす懸念につながる。
 他産業は、生産地、営業拠点のポートフォリオを調整することにより対応可能だが、海運会社は原則本社所在地ですべての税を払う仕組みになっており、自助努力には限界がある。まずは今回のトン数税制拡充をしっかりと定着させることが先決ではあるが、長期的には継続的な国際競争条件改善への理解も求めて行きたい。

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