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2014年9月1日

関根常任委員

深海の環境変化

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
関根 知之

日本の地図に新しい島が加わる可能性がある。小笠原諸島の西之島付近で海底火山が噴火し、波で消失しない程度まで大きくなっているようだ。この新しい島は海面から飛び出した部分こそ非常に小さいが、実は富士山に匹敵するほどの高さのある海底火山の噴火口の一部である。陸上で暮らしていると、海の中がどうなっているのか、深海の地形などは想像もつかないが、そんな深海が関東のすぐ傍らに広がっている。

一方、日本一の高さを誇る富士山のある静岡県は、その海も日本一深い。駿河湾は世界有数の深い湾で最深部は2,500m、深海魚達の楽園である。このように本州のすぐ南に深海が広がり、深海サメやタカアシガニといった不思議な生態をした動物がいると思うと楽しくなる。

今や地球上の陸地は車・鉄道、上空は飛行機、海上は船舶で自由に通行可能だが、深海含めた海中は、水圧や無酸素という人間にとって克服し難い環境が待っている。深海は、未だ宇宙と同じ未開の地、それゆえに多くの人を魅了し続けているのであろう。

深海はその学問的な面で人を惹きつけるだけでなく、経済活動にも大きく影響している。海流は船舶の安全運航や効率的な航海のために馴染みが深いものだが、実は海流のほかにも深海から海面への海水の流れである湧昇流(ゆうしょうりゅう)というものがあり、これが太平洋赤道域東部の海水面の温度を大きく変動させるラニーニャ現象・エルニーニョ現象の発生に一役買っているという。これらは世界の農産物の収量に大きく影響し、ひいては海運市況にも大きな影響をあたえるため海運会社としてはその発生消長に注目せざるをえない。一般的にエルニーニョ現象・ラニーニャ現象が発生すると世界的な異常気象となり、世界的には農作物の収量が減少するといわれている。ただ、地域別・農作物別にみると収量が増える地域・作物と減る地域・作物があり、一概に収量が減るとはいえないようだ。大豆を例にとるとエルニーニョ現象によってインドでの収量は落ち込むが、一方で北米・南米では収量が増えるとの研究結果もある。エルニーニョ現象は太平洋の一海域の海水面の変化にとどまらず、地球全体の気象変化に影響しているということがよくわかる。

最近、日本近海でのダイオウイカの水揚げ報道などを聞くと、深海も地球温暖化で海水温が上昇している影響かと思ってしまう。近年、NOx規制・バラスト水管理条約など海運業に対する環境に関する社会的な要請は高くなっている。1隻では影響は小さくても、世界中を航行している全船舶を合わせると環境に対する影響は大きなものとなるだろう。

海運業に携わる一員として、環境への負荷軽減に取り組み、環境保全に努めることの大切さを改めて感じている。

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