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オピニオン

2015年4月1日

佐々木副会長

フィリピンにおける船員教育

日本船主協会 副会長
国際船員労務協会 会長
佐々木 真己

昨年6月、国際運輸労連(ITF)との中央交渉で、2015年から2017年までの3年間の船員の労働協約の世界的な枠組みが決まった。その後全日本海員組合(JSU)との間で地方交渉が行われ、日本商船隊に乗り組む外国人船員の労働協約が纏まり、12月にマニラにおいて調印式が行われた。ITFとは前回の会議の積み残し案件の検討が続いているが、2年後の協約改訂まで暫くは厳しい交渉は予定されていない。国際船員労務協会(IMMAJ)の活動の柱である外国人船員の労働協約に関する作業が一段落した今、事務局はもう一つの柱である外国人船員の福利厚生と教育訓練に力を注いでいる。

IMMAJの重要な役割として外国人船員全体の質を向上させることがあるが、ここでは日本商船隊と特に関係の深いフィリピン人船員に関して、船舶職員となる学生の教育を主体に、既に雇用されている船員のブラッシュアップのための訓練とともに紹介する。何れも船主が拠出する基金を使用した活動であり、キャデットの採用や船員の訓練に活用していただきたい。因みにフィリピン人船員は、日本商船隊に乗り組む船員の75%以上を占め(約37,200人)、IMMAJ会員の90%以上の会社に雇用されている。

学生の教育に関しては、2009年にアジア・太平洋海事大学校(MAAP、フィリピンの最大の船員組合であるAMOSUPが1998年に設立)の敷地の中にJSU-IMMAJ Campusを建設し、ここに全国各地で行われる選抜試験に通った学生を集め、卒業までに掛かる全ての費用を基金で負担してキャデットとして送り出している。当時、日本の船隊が拡大して船舶職員の不足が深刻になったことに対応したプロジェクトであり、学生数も初年度は200名、その後毎年250名に増やして卒業生を日本商船隊に送り込んで来た。しかし、近年、船隊の拡大が一段落すると共に各社が独自に育成する方針が進み、卒業生全員の就職は継続しているものの年々状況は厳しくなって来ており、2013年度は200名、2014年度は150名と入学者数を減らして就職難に対応している。充実した施設の中で高度な教育を受け、全寮制で規律を重んじた学生生活を送った卒業生は将来船舶職員として有望であり、MAAPからキャデットの採用実績のない会員会社においても採用を検討していただければ幸いである。

船員の訓練に関しては、マニラ近辺の関連各社の研修施設に各種シミュレーター(原油タンカー、LNG、ケミカルタンカー、ディーゼルプラント)、係船装置、電子海図等を設置して無償で研修を行っている。本件は研修を効果的に行うために進めている「総合トレーニングセンター」構想、およびJSUと協力して取り組んでいる「アジア海事センター」構想とともに別の機会に改めて紹介させていただく。

現在のフィリピンの船員社会は、海技免状の更新に長期間の研修が必要となったことへの対応や、教育制度の改革で2020年と2021年は商船大学の卒業生がゼロとなる可能性があることへの対応等、種々問題を抱えている。しかし、これまでも幾つもの難問を乗り越えて来た逞しい社会なので、これらの問題にも適切に対処できると信じている。IMMAJとしても質の高い船員を育成する環境の整備を目指し、関係機関と連携して積極的な活動を続けて行きたい。

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