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オピニオン

2015年7月1日

関根常任理事

東京の杜

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
関根 知之

鬱蒼たる森、先日明治神宮境内に足を踏み入れたときそう感じた。いろいろな草本、木本が生えている。中にはかなりの大きさの木もあることから、明治神宮の創建当時、都内にかろうじて残っていた原生林を利用して明治神宮の森を造ったと思っていた。しかし、事実は全く逆である。最近みた番組によると、創建当時の明治神宮の森周辺は畑と荒地で、木はほとんど生えていない。“永遠の森造り”すなわち“東京の本来の植生を取り戻し、ヒトが手を加えなくても永続する原生林を人工的につくる”という壮大なテーマのもと、当時の林学者達が知恵を出し合い300種以上、10万本以上の木々を植えたらしい。そして植樹後は木々を伐採しないのはもちろんのこと、土壌の養分となる落ち葉を決して森から除去しないなど、厳格な管理方針が貫かれているようだ。

創建から約100年が経ち大規模な学術調査が行われた。創建当時に植えた荒地で生育可能なマツなどの針葉樹が役割を終えて枯れていき、その後にシイやクスノキなどが成長することで遷移が進んでいる。当時の林学者達が思い描いたとおり、森は順調に成長して人工林から原生林に育ちつつあるようだ。

さて、明治神宮の森と比ぶべくもないが、昨年11月に当社飯野ビルディングの2期工事が完了し、日比谷公園側の公開空地に“イイノの森”を造成した。在来の32種を中心にして140本の中高木の植樹を行い、皇居、日比谷公園よりイイノの森に至る緑の回廊、いわば生物の通り道を作るのが目的だ。造成して間もないため、木の大きさという点ではまだまだ子供だ。しかし、森全体が新緑、そして深緑に覆われ、皇居や日比谷公園から鳥や昆虫がイイノの森を訪れ、定着してくれれば、当社の生物多様性保全の取り組みも少しは役立つだろう。明治神宮の森ほどではないが、イイノの森も長期的な視点に立って育てていきたい。

生物多様性の保全に長期的な視点が必要なのは、森だけでなく海でも同様だ。今後、NOx規制、SOx規制・バラスト水規制といった環境保全を目的とした規制が本格的に施行される。これまでの海運業への規制は、事故などの非常事態発生時の環境への負荷を低減するための規制が主だったが、これらは平常時の環境負荷を低減させることを目的とした規制だ。長期的な視点に立つと、新規制が環境保全に資するのは明らかである。

100年前、東京の真ん中に永遠に続く人工の森をつくるという明治神宮での取り組みは、自然と共生する社会の在り方の一例を、今も我々に語りかけている。

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