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オピニオン

2015年9月1日

栗林常任委員

「なかなか舵を切らない国」

日本船主協会 常任委員
栗林商船 代表取締役社長
栗林 宏吉

今年も7月2日に福岡で、日本船主協会九州地区船主会と九州地区船員対策連絡協議会の共催で人材の確保・育成に関する懇談会が開催され、日本船主協会の内航委員長という立場で出席した。
 この懇談会は九州・沖縄地区の各教育機関の代表の方と、主に九州地区の内航海運事業者の方々が、深刻な内航船員問題についてお互いの立場から意見交換するという非常に貴重な場となっていて、今年で第7回目の開催となった。
 船員問題は絶えず内航海運の重要な問題ではあるが、7年前と現在では問題の質が違っていて、不景気な内航業界にいかにして新卒の船員さんを採用してもらうかが当初の議題であった。その後景気の波を乗り越えて時が経つにつれ、現在では船員の高齢化による大量退職の時代を迎えている。各社はその補充に追われて新卒の採用は非常に順調で、ここ数年参加する多くの教育機関から内定率100%の報告を受けている。またそればかりか、各教育機関への入学希望者も順調に推移しており、高い入学倍率を維持しているのは嬉しい限りである。
 今年特に懇談会で話し合われた問題は、逼迫する船員不足に追われる各社がいかに即戦力の人員を求め、それを教育機関に望んでいるかであった。ただ教育機関側としては、学生を教育して免状を取らせるまでが役割と認識しており、その新卒の船員を各社のカラーに合った一人前の船員に仕上げるのは、それぞれの会社の仕事であるとして、即戦力問題の解決は先送りとなった。
 このように内航の船員不足は、大量退職者を新卒だけでは埋めきれないという構造的な問題となっているが、これは広く日本中に観られる現象で、結局は20年以上前から指摘されていた日本の少子高齢化による労働人口不足が、随所で顕在化して来たにすぎないし、この10年以上担当大臣まで置いて少子化問題に取り組んでも、何の効果も無かったことの証明である。
 日本の官僚は優秀であるとよく言われるが、一度決めた政策を再評価して抜本的に見直すというのは苦手なようで、効果の無い時代に合わない政策もそのまま続いている例が散見される。ただこの人口減少問題だけは放置するにはあまりにも大きく、最優先で対応しなければならない。このままでは経済活動全般に影響が生じ、現在の日本の国の在り方や、広い意味での安全保障にもかかわるという認識が、政権中枢にまで伝わっているか心配である。
 若者が結婚や出産、子育てを大変なリスクと考えずに子供が普通に生まれる社会、そんな当たり前の世の中に戻すために、早く大きく舵を切ってほしいと願うばかりである。

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