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オピニオン

2015年10月1日

村上副会長

「誰のための大型化か」

日本船主協会 副会長
川崎汽船 代表取締役社長
村上 英三

世界初のコンテナ船が竣工してまもなく60年を迎える。アメリカのSea-Land社の前身であるMcLean社が、1957年に沿岸輸送のため就航させた『Gate City』という本船の積載コンテナ数は226TEU。現在 河川輸送に使われる艀とほぼ同じサイズだが、半世紀を経た2013年にはその80倍の大きさとなる18000TEU型大型コンテナ船が登場。
 川崎汽船も1968年に就航した初代のコンテナ船『ごーるでん げいと ぶりっじ』が716TEU型。今年、欧州航路に投入した日本籍初の大型コンテナ船である『まきなっく ぶりっじ』の積載能力が14000TEUとなるので、そのキャパシティーは20倍を超えた。

 『Gate City』竣工と同じ1957年に始まった初の本格的なジェット機による定期航空便に就航したのがボーイング707。その乗客定員数は200名弱。半世紀を過ぎた2005年に総2階建ての史上最大の旅客機であるエアバスА-380が登場するが、その最大収容数は850名と4倍強に過ぎない。比較すると、加速化してきたコンテナ船の大型化の流れが如何に凄まじいか改めて実感する。

 リーマンショック後の大型船発注も一巡、一旦は落ち着いたように見受けられたコンテナ船大型化の流れだが、ここに来て再度動きが活発化している。今年に入り、初代コンテナ船と比べ100倍となる20000TEU型のコンテナ船の発注が続いた。竣工済みの本船に発注残を加えると18000TEU型以上の船隊は、総勢103隻、約2百万TEUと足元の総運航船腹19.4百万TEUの1割を超える量となる。

 コンテナ一個当りの運航費単価削減を追求してここまで進んできた大型化だが、一方需要の方も大きく様変わりしつつある。世界の一大生産拠点と化した中国からの輸出も、WTO加盟から毎年二桁成長を記録した2000年代からは一服し、当面一桁台の荷動き成長率を前提とするのが現実的だろう。東南アジアを中心とした生産拠点の分散、多頻度要請などに対応した物流など時代の変化への対応も求められている。

 合理性の追求という観点から邁進してきたコンテナ船の大型化は曲がり角に近づきつつあるのでないか。運航費単価の削減効果は一面であり、更なる大型化は、大型船を受け入れる港湾施設の大水深化、荷役機器の大型化などインフラ整備が不可欠。全体最適からみた効率化追求が求められる。コンテナの箱回し、貨物の組み合わせなど規模が大きくなるほど複雑なオペレーションを要求されるコンテナ船事業において収益を確保するためには、収入面からのアプローチも加えた重層的な管理が必要な事は論を俟たない。何よりも顧客の視点に立ち、輸送頻度、サービス品質の向上による顧客利便性の改善も念頭に置いた事業運営が必要ではないか。

 旅客機については2005年のА380就航以降は、大型化の波は止まっており、利便性を考慮した中型機による省燃費開発に重点が移っているという。巨艦主義の様相を呈しているコンテナ船の大型化競争についても、何が最適かじっくり見極める時期が来ているのではないか。

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