JSA 一般社団法人日本船主協会
文字サイズを変更する
小
中
大

Homeオピニオン >2015年11月

オピニオン

2015年11月1日

小田副会長

「船と鉄道」

日本船主協会 副会長
小田 和之

私事からの書き出しで恐縮だが、小さいころからの鉄道好きで、学校から帰った後や休みの日には、父のカメラを提げて目指す駅や線路の傍まで自転車で走り、お目当ての汽車やディーゼルカーを撮りにいったものである。今で言う「撮り鉄」である。その後、海運業界に身を投じることになったのだが、鉄道への興味は尽きることなく、とは言え、多忙な日々の中で趣味にさける時間はなかなか取れず、というような状況が続いていた。一つの「転機」が、今から20年近く前のことになるが、米国への赴任であった

 周知のように、北米における国際海上コンテナの国内輸送では、鉄道の果たす役割が極めて大きい。いわゆるダブルスタックトレイン(DST)である。広大な内陸地域を抱え、太平洋岸と大西洋岸をつなぐ海のパイプは実質的にはパナマ運河だけという地理的状況の中で、DSTの発達は当然とは言えるが、そのDSTの運行や鉄道会社との契約交渉に関与することになったのである。

 DSTの詳細や優位性・問題点などに立ち入ることは避けるが、やはり大量輸送が可能なことと、環境にやさしいという二つの点は、船と同じである。特に米国のDSTは一編成の長さが最大1.6マイル(2.5km)に及び、一度に250FEUと近海コンテナ船に匹敵する輸送能力を誇る。DSTが中西部の広大な草原地帯を走る光景は実に雄大である。取引先の鉄道会社の特別旅客列車に乗せてもらうという楽しい思いもさせてもらった。

 一方で、苦い経験もある。当時の米国におけるDeregulationのうねりは、鉄道業界にも押し寄せ、結局、西部・東部とも各々2社に集約・統合され、寡占状態となってしまったのだ。その後の契約更改交渉には随分と苦労した記憶は今も鮮明に残っている。Deregulationという心地よく響くものがもたらすネガティブな側面を肌で感じた次第である。

 その後、WTO加盟直後で右肩上がりの高成長を続けていた中国に異動、米国同様広大な内陸地域を抱える同地でのコンテナ列車の状況が気になり、情報収集に努めたことがある。旅客輸送主体、且つ貨物では石炭列車が優先ということで、海上コンテナの鉄道輸送は極めて限られたルートでしか見られず、質的にも貧弱なものであった。中国での内陸輸送は水運とトラックが主流だったのである。

 ところが、更によく調べてみると、当時の中国鉄道部はその時既にカナダの大手鉄道会社からコンサルタントを迎え、DSTを含む北米流の海上コンテナ専用列車網の構築を研究していたのである。一旦決めると超スピードで工事をやってしまう中国である。3年後には主要9地点に巨大なインターモーダルコンテナターミナル(ICT)を作り上げてしまった。上海・洋山港の臨港地区に建設されたICTを見学したことがあるが、米国のものにも劣らない立派なものであった。上海・北京間で走り始めたDST網の拡大も進んでいるという。

 翻って、日本の現状を眺めてみるに、大量の海上コンテナを積載した専用列車は日常的に見ることは出来ない。JR貨物も博多や下関をゲートポートにした「シー&レール」や一部ルートでの試みは行っているものの、先進地に比べればまだまだの感がある。勿論、国内に60を超えるコンテナポートを抱え、内陸が浅いという地理的条件の下、また軌道インフラ面でも数々の制約がある中で、北米並みのDSTを走らせることは非現実的である。

 ただ、環境問題やトラックドライバー不足が深刻化してきている中、モーダルシフトの重要性は益々増している。内航フィーダーやRORO船との棲み分けをも組み込んだ戦略的な鉄道利用策が、もう少し真剣に検討されてもよいのではなかろうか。

  • オピニオン
  • 海運政策・税制
  • 海賊問題
  • 環境問題
  • 各種レポート
  • IMO情報
  • ASF情報
  • 海事人材の確保