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2016年2月1日

小比加副会長

不安の超克
—内航海運の新時代を目指して—

日本船主協会 副会長
東都海運 代表取締役社長
(日本内航海運組合総連合会会長)
小比加 恒久

平成28年は例年にない暖かな年明けとなりました。しかし、その温もりを手放しで喜ぶわけにはいきません。むしろ得体の知れない薄気味悪さすら覚える、と言ったら言い過ぎでしょうか。芥川賞に名を残す作家の芥川龍之介は「ぼんやりした不安」と言い残したそうですが、昨今の世相を見ていると、折に触れてその言葉が脳裏をよぎります。
 何が不安なのか、まず日本の景気を眺めてみると、安倍政権が発足してからの3年間で円安と株価回復の流れは定着したものの、その実感が経済の末端まで伝わって来ないというのが正直なところです。国内物流は日本経済の趨勢を映し出す鏡のようなものですが、私ども内航海運の荷動きは平成26年4月に消費税が引き上げられて以降、反転のきっかけを掴めないまま低調に推移しています。内航総連が主要な元請けオペレーター60社を対象に行っている月次の輸送量調査によれば、昨年11月時点での直近1年間(平成26年12月~27年11月)の輸送量は、油送船は前年同期並であったものの、貨物船は前年同期比96%に止まりました。構造的な石油離れという問題を抱えた油送船はさておき、4年後に東京オリンピックを控えて荷動きに活況があっても良さそうな貨物船においても、明るい兆しは見えてきません。
 目を世界に転じてみると、地球規模での不安の材料が日々のニュースを賑わせています。中国経済の減速や地球温暖化といった“非暴力的”な問題と並んで、「イスラム国」なる過激派の非道な残虐行為が世界を震撼させ、さらにはそれを制圧すべき諸国の間でも、ロシア対トルコ、サウジアラビア対イランなどの深刻な対立が発生しています。紛争地域から逃れ出る大量の難民の映像を見るにつけ、世界は経験したことがない新たな混沌の中にあるような気がします。不安が不安を呼び、極端に排他的な言動がもてはやされるという風潮は憂慮すべきことです。
 こうした状況が世界の人心を萎縮させ、経済に悪影響を及ぼしていることは否定出来ないように感じられます。新年早々に世界の証券市場が大きく値を下げたのはその現れであり、内航海運もそれから無縁ではないように思います。
 しかし、私たち内航事業者は、そのような状況を前にして立ち竦んでいるわけにはいきません。内航海運は船員と船舶の二つの高齢化という問題を抱えつつ、今年4月には暫定措置事業が最終段階に入ります。船腹調整事業から暫定措置事業へと変遷しながら半世紀にわたって続いてきたカルテルが、平成36年度に終結するわけです。その詳細についてここで述べる余裕はありませんが、私たちは9年後に迫った「暫定措置事業なき内航海運」のあり方を真剣に考えるべき段階にいます。
 我々の業界内では、暫定措置事業がなくなること自体が大きな不安、と感じる向きも少なくないと思います。しかしながら、暫定措置事業と同じような保護や規制に逆戻りすることは最早あり得ず、新たな経営環境の下でどのように事業の舵をとるか、各経営者の覚悟と手腕が問われることになります。
 国土交通省では昨年11月から、新たな内航海運ビジョン策定に向けての準備作業に着手しました。内航事業者をはじめ、荷主、造船、金融機関などの関係者へのヒアリングからスタートし、検討会などを設けて新たな内航ビジョンを構築するために議論を重ねるとのことで、内航総連としても全面的に協力する所存です。こうしたことを通じて内航事業者の間で活発かつ建設的な議論が盛り上がることを期待したいと思います。
 変化を恐れず前進することによって不安を超克する。その気持ちを新たに肝に銘じたいと思います。

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