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オピニオン

2016年7月1日

當舍常任委員

人工知能との共生

日本船主協会 常任委員
飯野海運 代表取締役社長
當舍 裕己

人工知能(AI)の進化が著しい。チェスは20世紀にコンピューターに負けた。21世紀に入って2013年には将棋でも敗れた。2016年早々、囲碁でもトップ棋士がAIに敗れたことは記憶に新しい。

 AIは、計算などの単純作業だけではなく、AI自身が得た知識をもとに別の事柄について判断すること(推論)、そしてビッグデータやI o Tなどから得た膨大な情報を解析すること(学習)ができるそうだ。推論や学習は、もともと人間にしかできない活動といわれていた領域だ。家族との団欒、友人との交友そして睡眠など何かと誘惑が多い人間とは異なり、AIは知識や情報を得るための努力を厭わず、疲れを知らず、そして記憶容量は無限大である。18世紀の産業革命時の急速な工業化の時代に社会構造が大きく変化したように、AIの行う労働が、人間の労働の生産能力を上回った時に、社会構造も大きく変化する可能性がある。

 この変化は海運業界にもやって来ている。海上ブロードバンドという「常時接続、大容量かつ定額性」という陸上並みの船舶通信インフラの登場で船舶管理、運航管理にビッグデータを活用する取組みが急速に進展している。船舶の主機など各種機器類の運転状況をリアルタイムで陸上に転送し、ビッグデータとしてAIに取り込み、異常値を分析してメンテナンスに生かすというサービスが商業化されつつある。AIが経験豊富な乗組員の判断を補完する体制が確立されればより一層の安全運航、環境負荷低減を実現できるであろう。船級協会、造船所、エンジンメーカー、船社など日本の海事クラスターが協力してこのプロジェクトに取り組んでいる。今後の展開に注目していきたい。

 さて、足元のバルク船市況は歴史的な低水準が続いており、海運会社はその対応に追われている。この原因は、リーマンショック前後の船舶の大量発注であることは明確だ。海運の歴史の中では、好況時の大量発注、そのあとのドン底を幾度も繰り返してきた。AIは、過去の膨大なマクロ指標、市況や船価のビッグデータから最適な発注時期と売却時期を提示してくれるのであろうが、仮にそれが正しかったとしても、海運会社は船舶をいつでも自由に売り買いできるというわけでもない。

 これは社会全体にあてはまることであるが、必ずしも知識や因果関係から導かれる合理的な結論だけで社会が回っているわけでもない。有史以来、様々な社会の変化に人間は対応してきた。この変化への適応力こそが人間の強みなのだ。とかく勝ち負けを気にする世の中であるが、人工知能との共生を見据えた新しい時代の幕開けに、まず始めに我々が考え方を変えることを求められているのではないだろうか。

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