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オピニオン

2016年8月1日

小林道康副会長

日本の海運産業の強み

日本船主協会 副会長
JXオーシャン 代表取締役社長
小林 道康

「モノづくり」という強み
 輸出入の9割以上を海運に委ねている我が国には、貨物取扱量において世界の上位を占める3つの海運会社が本拠地をおき、それらを取り巻く造船、流通、エネルギー等それぞれの業界も国内に存在し、多くの海運会社と密接な関係を維持しつつ共に今日の発展に至っている。それらの中でも我が国の造船業界は、世界でもトップクラスの技術力を有している。

 昨今の世界の造船市況をみると、めまぐるしく変化し続けている。船腹過剰による海上運賃の低迷から新造船発注が激減しているという環境の中で、高品質の日本船への回帰が進み、世界に評価されている我が国の高度な船づくりは、造船分野と同様、舶用機器メーカーによるたゆまぬ努力により、技術開発力も日々高まり、更には船舶管理の品質を押し上げ、船舶の安全と海洋環境保全に大きく貢献している。  加えて、それら多くの「モノづくり」に関わる会社が世界的レベルを見据えた生き残りを目指し進められている近年の再編・統合は、将来に備え世界展開していく日本海運界を支える大きなひとつの原動力となっている。

 つい2カ月ほど前にエンジン用クランクシャフトの加工技術や手作業による係留用ロープづくりの技術がテレビ番組で紹介された。日本の優れた技術が海外の同業者に賞賛されたという内容であったが、こういった日本の精巧な技術もまた次世代に継承されることで、日本海運の発展を支える柱になると言える。

 これからの造船技術の開発分野においてもIoT(モノのインターネット)などを使った船舶遠隔監視機能の向上など効率的な管理体制サポートの充実が期待できる。また、舶用に関わる「モノづくり」業界全体が、エンジンの燃費効率、プロペラの推進効率、船体抵抗等の改善など船体や機器の省エネ技術開発のみならず、燃料の節約とCO2排出量の削減に向けた減速航行、最適航路の選択、積載効率の向上や適切なメンテナンスなど、運航管理の改善を通じて環境にやさしい省エネにも積極的に取り組んでおり、これらは海運産業の強みとなるであろう。

高水準な海技力をもつ日本人船員
 日本人船員は、深刻な海難事故を未然に防止できる優秀な海技力を持つのみならず、どの外国人船員にも負けない責任感を持っていると自負している。しかし、日本人のみでは今日の日本船隊を動かすことや船舶管理は成り立たない。よって日本人の優秀な海技力をいかに外国人船員にしっかり伝え、日本人船員に劣らない人材を育成して維持していかなければならない。こうした人材育成は、先人が培ってきた海技力、ノウハウを次世代に伝承して行くことが大事だと思う。

 日本海運産業は、現状に甘んじることなくこれらの強みを結集して、安全運航・海洋保全を堅持し、舶用機器メーカー、港湾、倉庫・物流など各業界との連携を強め、また、1974年をピークに外航船に乗り組む日本人船員が減少し続けているがこうした現象に歯止めをかけるべく、優秀な船員の育成に尽力していかなければならない。こうした取り組みが、顧客の信頼とニーズに迅速かつ適切に対応できる日本の海運産業の更なる発展に繋がるものと期待する。

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