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オピニオン

2016年11月1日

阿部常任委員

海運マーケットが悪いと
訴訟が増える?

日本船主協会 常任委員
NYKバルク・プロジェクト 代表取締役社長
阿部たかし

海運マーケットが悪いと色々なことが起こります。特に船会社の倒産や会社更生法申請などにより、普段あまり身近に感じてないことが起こるので、その時になって初めて経験し、勉強することがあります。その一つが、MARITIME LIENS(海事先取特権)かなと思います。「CHARTER PARTY(傭船契約書)で読んだ記憶はあるが、関係なさそうだな」と思われていた方が多いと推測しますが、これに関わる頻度が増えているな、と感じています。そんな背景もあるのでしょうか、倒産等に関するリスクについての社内教育も盛んですし、日本海運集会所も講習会などを行っていますので、自分たちが出来るだけ巻き込まれない様に日頃から注意すべきこと、万が一、巻き込まれた場合には、どう対処すればいいか、を勉強された方も多いと思います。しかしながら実際に船を運航していると災いは突如として身に降りかかって来るものです。ある日突然、地球の反対側の初めて耳にする港で、自分たちの船が、直接の商売に関係ない第三者の訴えで、突然ARREST(差押え)されることがあるのです。船には、お客様の貨物を積んでいる場合や次の商売に間に合わせなければならない場合もありますし、採算上も早く解放して次の港に行かなければなりません。すぐに弁護士を指名して、理由を確認し、必要に応じて保証金を送付し、裁判所から解放の許可を取得することになります。地球の反対側なので時差があり、手配には時間を要しますし、週末にかかろうものなら、あっという間に時間が経ってしまいます。燃料油販売会社の倒産に関連するARRESTの場合には、T/C OUT中に傭船者が補油したことに起因すると、当時の傭船者との交渉も必要で、この海運不況で既に傭船者が倒産していることだってあります。船が解放された後は、和解交渉や裁判所での訴訟など、時間とお金が掛かる過程が待っています。ARRESTの目的は、申立人の債権回収で、ARRESTすることで船主の出現を実現し、交渉の席につかせる効果があります。しかしながら、個人的には、直接的契約関係のない第三者からARRESTを申し立てられる事には違和感が残ります。結果は司法判断に任せるしかないとしても、船の遅れを始めとして現実的に困難に直面するからです。海事法の起源は紀元前800年のロード法と言われており、紀元4-5世紀にローマ法でLIENSの定義がなされ、MARITIME LIENS法が纏められたのは1940年、長い歴史の中で、沢山の判例と改善の積み重ねがあるのでしょうが、現在でも英国法と米国法とでは考え方が違う様ですし、ARRESTなしで、何かもっと簡潔で判り易い解決方法がないものかと思います。例えば、
 1.MARITIME LIENSに於いて担保を何の債権に対して認めるかという共通の取り決め
 2.倒産や会社更生に関し、船がARRESTされるまでもなく、債権の優先順位と権利とが
   確定される世界共通の法体系の整備
 3.未払い債務に関し、裁判所や認定エスクロー口座に供託金の払い込みを行える仕組み
などを作るべきだろうと考えています。

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