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オピニオン

2017年8月1日

『大坂城の話』

日本船主協会 副会長
JXオーシャン 代表取締役社長
小林 道康

“大坂城の話”として紹介された話があります。
 大坂城の築城の際、石垣を積む作業に従事している労働者に、ある人が『お前は何をやっているのか?』と問いかけました。するとその労働者は『石垣を積んでいる!見ればわかるだろう!』と答えました。別の場所で異なる労働者に同じ問いを発したところ『天下一の城を造っている!』と答えが返ってきた、と言う内容です。天下統一を果たした豊臣秀吉が築城を手掛けた城の話として、こんな出来事が本当にあったのだろうと思わせるようなお話です。ただこの話の語らんとするところは、単に石垣を積む行為(作業)と、天下一の城を造るのとでは同じ作業をしていても取り組む姿勢、仕事への動機づけは全く異なる、仕事へ何らかの意味や価値をみいだすことで取り組む姿勢が変わる、変えられることを示す例として、紹介されていました。
 海運の仕事は世界とつながっています。資源に乏しく周りを海に囲まれた島国の日本においては、その経済活動を支えるという重要な役割を担っているにもかかわらず、一般の人たちと関わりをもつことが少ないせいか、世間での認知度もその重要性に比べ低いと言わざるをえません。
 にもかかわらず、そこに携わる人たちは海上、陸上を問わず常に高いモチベーションを維持し日々励んでいると感じられます。船における輸送は、数量、重量にしてもある程度のボリュームを有し、スケール感があることで、気概を持って取り組まざるを得ない環境にあると思います。そして何よりもシーマンシップに裏打ちされた古き良き資質を、多くの人たちが有していることが大きな要因ではないかと考えます。
 シーマンシップとは船乗りの技能、資質、二つの側面について使われる言葉だそうです。技能とは言うまでもなく船乗りとして必要な技能、航海術等となりますが、資質については諸説あるようです。私自身は船と言う限られた空間で、物理的制約が多い中(適応力)、常に自然の脅威にさらされ、目的地に到達するために将来起こりうることに備え(危機対応)、変化する厳しい環境下においても困難を乗り切るべく(敢闘精神)共に協力しあって高い意識を持って取り組む(コミュニケーション力)ことができる能力と理解しています。
 幸いなことに、これまでにもこうしたシーマンシップに基づく古き良き資質を持った社員に支えられ多くの困難をメンバー各社も乗り越えられてきたものと思います。ただ最近では、激しい国際競争と長引く厳しい経営環境下にあって、日本人船員の減少、更なる効率化の追求などにより、かつては空気のように当然のものとして持ち合わせていたこうした資質を発揮する余地が少なくなりつつあるのではないかと言う危機感を感じています。
 こうした良い資質に無意識に依存することでこれまではやって来られましたが、この先こうした最良の資源を如何に発掘し、涵養し、持続させるかが今後の課題と思われます。
 「お前は何をやっているのか?」と問うた時、「天下一のシーレーンを創っている!」と答えられる社員を如何に育てるか単純に石垣を積むようにはいきそうもない。

以上

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