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オピニオン

2017年9月1日

内航未来創造プラン

日本船主協会 常任委員
栗林商船 代表取締役社長
栗林 宏吉

昨年4月から合計8回開催された、国土交通省主催の内航問題検討会が終了し、取りまとめた報告書が6月30日に「内航未来創造プラン ~たくましく 日本を支え 進化する~」というタイトルで発表された。
 船員と船舶の二つの高齢化という問題を抱え、国内経済の低迷と生産工場の海外移転、さらには大手荷主の統合集約による国内物流の減少に曝されている内航海運に対し、国交省が今後をどのように考えているのか、内航関係者にとっては興味ある報告書となった。
 プランではまず内航海運の現状分析、続いて課題と将来像と方向性、さらに取り組むべき施策が挙げられ、結びの言葉を含め全文53頁の構成で、中でも目指すべき将来像として「安定的輸送の確保」と「生産性の向上」という二点を挙げ、それぞれを実現するための政策の方向性を示した後に、具体的施策を提示している。
 こうしてみると非常に良くある立て付けだが、今回は施策の効果の検証のために各種指標が設定されているのが今までと違ったところである。その指標とは概ね10年後を目途に、安定的輸送の確保に係る指標として、①産業基礎物資の国内需要量に対する内航海運の輸送量を5%増、②海運によるモーダルシフト貨物輸送量を現在の約340億トンキロから410億トンキロを目指す。また生産性向上に係る指標として、③内航貨物船の平均総トン数を現在より20%大きい858総トンとする、④内航海運の総積載率を現在の42.6%から5%増加させる、⑤内航船員の一人一時間当たりの輸送量を実績値3,882トンキロ/時間からサービス産業全体の目標も考慮し17%増加させる、というものである。
 こうして五つの指標を並べてみると、②のモーダルシフトの目標値が交通基本政策の中で閣議決定されている値を採用したのを除けば、今回新たに決められた数値だということは認識できるが、各種具体的施策との関連性は明らかではない。施策を進めるとこの数値になるのか、この数値になる様にさらにいろいろな施策を講じるのか、数値にどれだけの重みを持たせているのかが不明瞭に感じるのは私だけだろうか。
 この数値を達成すれば、内航海運が今よりずっとたくましく進化して、日本経済を支えるだけでなく、船員さんをはじめ働く者にとって魅力的で誇れる業界になっている、ということならば良いわけで、せっかく先日7月28日に閣議決定された総合物流施策大綱にも本プランが触れられているのだから、もっと陸上の労働力不足等も考慮し、大綱と連携した数値が決められても良かったような気がするが、欲張り過ぎであろうか。
 本プランの結びの部分には、それぞれの内航海運事業者自身が本プランの示した将来像の実現に向けて、主体的かつ積極的な行動を起こすことが重要であり、内航業界団体においては事業者の意見・要望を丹念に把握整理の上、行政と連携して業界全体の発展に貢献するよう明記されており、やはりこれらの数値に意味を持たせ、このプランを価値あるものにするのは関係者全員の努力によるという至極当たり前の結論に辿り着く。
 検討会の委員として携わり、業界団体にもかかわる者として、本プランの向こうに見える内航海運の姿を少しでも良い形に実現するべく、これから皆さんと努力する所存である。

以上

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