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オピニオン

2017年10月1日

海運と環境問題

日本船主協会 常任委員
NYKバルク・プロジェクト 代表取締役社長
阿部 隆

20年以上前、厳寒のドイツ、私は家内の買い物を車内で待っていました。見知らぬドイツ人青年が、暖房で曇った窓を叩き、エンジンを切れと言う。こんなに寒いのにと思いつつ、即座にアイドリングストップ、ドイツ人の環境に対する思いを身に染みて感じました。それ以来、私自身も環境問題は理解していると自負しています。ドイツ赴任前には、酸性雨による森林被害の問題もテレビで見ていました。あれから20年以上、2020年からのSOx(硫黄酸化物)全海域規制開始が決まりました。私達の生活にも大きく影響するし、SOx規制自体は自然に受け入れられると感じています。
 次に続くのは、更にインパクトの大きい温室効果ガス(GHG)削減規制です。CO2削減だけでも大変ですが、電気自動車化の流れを見ていると、CO2排出ゼロもあるのか、海運はどうなっていくのだろう、と不安になります。温室効果ガスはこれからの話ですから、多くの人達の知恵と技術開発とで、現実的に進んで行って欲しいし、そうならざるを得ないと考えています。
 これらに比べ違和感があるのがバラスト水規制です。素人としてまず思うことは、海は繋がっているのになぜ規制する必要があるのか?です。あまりに素人過ぎるので、関係する本を読んでみましたが、ピンと来ません。揚子江の淡水の生物が米国の五大湖に生息している、と言われてもバラスト水のせい?と考え込んでしまいます。テレビで、南極の魚のDNAがマリアナ海溝の深海魚のDNAに似ており、深層海流に乗ってマリアナ海溝に来たらしい、と放送していましたが、やはり繋がっている、と納得。バラスト水条約は2004年にIMOで採択され、発効までに長い年月を要したのも、根底には本当に必要なのか、という思いがあったことも一因だろう、本年7月に既存船への2年間の猶予が決まったのも、ドライドックや装置の需給が理由ですが、本当に必要ならばもっと急ぐだろうと考えたりもします。外来生物による被害が本条約の起点ではありますが、議論開始から発効までの長い年月、それは船の竣工からスクラップ迄の期間より長いかも知れないけれども、その間被害は続いていたのでしょうか。ルールは守らなければならないので、既存船にも膨大なコストをかけてバラスト水装置を設置することになります。ユネスコのCMで差し迫った子供の病気や貧困を見るたびに、バラスト水装置設置の代わりにその費用の一部でもユネスコに使う方が効果的ではないか、費用の1割を供出すれば既存船への装置設置を免除してくれないかと考えたりもします。バラスト水条約の解撤促進効果期待も、造船キャパシティーを考えるとほんの一時的だろうとガッカリします。一旦決まった条約は、発効後でないと改正は難しいとのこと。遂に発効したことをきっかけに、もう一度必要性と緊急性とを検証しつつ、膨大な数の既存船への適用を回避する仕組みでも考えないと、なし崩し的に猶予期間の延長が繰り返され、無駄な時間とコストとが生じる恐れがあり、人間にとってもっと重要なCO2問題への対応、即ち、海運の将来を左右する技術開発や関連する新規ビジネスなどへの動きが遅れるのではないかと懸念しています。

以上

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