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オピニオン

2018年2月1日

小比加副会長

物流業の人手不足を考える

日本船主協会 副会長
東都海運 代表取締役社長
(日本内航海運組合総連合会 会長)
小比加 恒久


 雇用に関する数値が大きく改善しています。昨年11月の完全失業率は前月から0.1ポイント低下して2.7%でした。また同時期の有効求人倍率は1.56倍ですが、これは1974年1月の1.64倍以来、実に43年10ヶ月ぶりの高い水準とのことです。学生の就職活動、いわゆる就活も好調で、就活生は売り手市場を謳歌しているとか。4、5年前までいわゆる新就職氷河期と言われて、学生が必死に走り回っていた頃が嘘のような状況です。
 雇用状況が改善した原因としては、景気が好転し求人が増えたことが大きいのはいうまでもないですが、もう一つ忘れてはいけないのは日本社会の少子化です。今年の新成人(2017年1月~12月に新たに成人になった人口)は123万人で去年と同じだそうです。まだそんなにいるのか、という気もしますが、50年前の1968年の新成人が236万人であったと聞くと、愕然とします。1968年が格別多かったわけではなく、1971年まで新成人は200万人台で推移しています。それに比べて最近は100万人も減っているのですから、日本全体で人口が減少するのも当然で、これが雇用指数の改善につながったとすれば何とも皮肉なことです。
 色々な業種、業界で人手不足という話をよく耳にします。物流業界ではトラックドライバー不足が深刻ということは、今や一般に広く知られるようになりました。ドア・ツー・ドアの利便性があるとはいえ、ドライバーが長距離を運転して貨物を運ぶというのは労働生産性の点で効率的ではありません。その上、運転に加えて荷物の積み下ろしまでドライバーが行う労働慣行とあっては、若い人が敬遠するのも無理からぬところでしょう。
 こうした問題の改善策として、長距離の貨物輸送をトラックから内航船や鉄道に移すというモーダルシフトは大いに意義があると考えられます。内航海運として積極的に取り組むべき課題です。
 ただ問題なのは、内航海運も船員の高齢化に直面していることで、船員の年齢構成では55歳以上が4割を占めています。こうした高齢化は昨日今日に急に始まったことではなく、内航業界は長年にわたり若年船員の確保育成などに努めてきました。各地で学校訪問による求人活動など地道な活動に取り組んでこられた関係の方々には、この場をお借りして感謝申し上げるとして、一方で人手不足が日本全体で深刻化する中で、船員問題の解決が容易でないのも事実です。
 昨年、国土交通省は内航事業者、荷主、学識経験者などからなる検討会で議論を重ねた末、「内航未来創造プラン」を策定しました。内航海運の将来像と、それに向けた課題が幅広く網羅されたもので、そこでは船員問題に関わるテーマも多く取り上げられているのですが、単に人を集めるというのではなく、船員労働の負担を軽減し、船内の生活環境の向上を目指すという視点に注目しております。具体的には、IoT技術を活用した船舶の開発・普及で、自動運航船の実用化を目指すとしています。直ちに無人化とはならなくても、船員の肉体的、精神的な負担の軽減につながることが期待されます。また、船員のための魅力ある職場づくりとして、船舶料理士資格の効率的な取得が挙げられています。船内の食生活が豊かになれば良いと思います。
 内航海運に限らず、物流業の労働環境を改善することによって物流業を若い人たちに魅力あるものとし、物流の活性化につなげたいものです。

以上

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