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オピニオン

2018年5月1日

磯田副会長

「次は何?」

日本船主協会 副会長
磯田 裕治

2年という瞬く間の赴任期間を終え中国から帰国して早1年が過ぎた。10年選手といった邦人駐在員の方々があまたおられ、なかには20年、30年、奥様も中国の方という大先輩もいらっしゃる。正に悠久の歴史を持つ国らしい、老朋友が大きな意味をもつお国柄、というのが上海着任当初の印象だった。
 ところが間もなくそうした悠然たるイメージとは真逆の、この国の激しい変わり様を目の当たりにすることになる。

 普段の生活の中で先ず実感したのが消費の急速なデジタル化。eコマース、即ちオンラインショッピングの爆発的拡大は、供給過剰気味の巨大ショッピングモールやそこに軒を並べる海外高級ブランド店などリアルな小売店を直撃、程なく閉店が相次ぎあちこちで空きスペースが目立つようになった。当然ながら反比例するように著しく増えたのは派手なユニフォーム姿で街中を忙しく走り回る宅配の配達人だ。
 デジタル化の浸透はまた多くの新サービスを生み出すことで消費の内容にも大きな変化をもたらした。かつて富の象徴、衆知の憧れとして家と車と海外旅行(+ブランド品)に向かっていた消費は、健康やレジャー、趣味・教育、未知との出会いなど、ユニーク且つ新趣の体験知へと移り、謂わば“自由”を体現する対象となった。
 タクシーも然り。今や即時配車アプリを利用するのが主流であり、中国語に疎い我々外国人は、流しはもちろんホテルなどのTAXI乗り場でさえ捕まえるのに難儀させられる。運よく乗れたと思っても、同アプリにビルトインされた評価システムで最低レベルにランクされどこからもお声が掛からなくなった不良ドライバーだったりする。

 そのほかレストランやスーパー、乗り物(特に航空関係)などなど身近なサービスの劇的向上(前述の評価システムor口コミ情報の貢献度大か)は枚挙にいとまがない。次々に起こるこうしたエネルギッシュな変化のうねりを直接肌で感じ正に瞠目状態であった昨年1月のこと。ダボス会議での習近平国家主席による例の基調講演の内容が伝えられた:「自由貿易の発展と堅持!」「保護主義への明確なNO!」 
 アメリカのトランプ次期政権が内向き姿勢を鮮明にする、それを牽制して中国が自由貿易主義を唱える…
 グローバルな構造変化を感じた。人権について西側諸国がお説教される日も近い、とも。

 帰国して略1年後、本年3月の全人代で国家主席の2期10年という任期が撤廃された。習近平氏への長期にわたる権力集中構造が確立し、今後暫く、おそらくは2020年代を通してこの国は「中華民族の偉大な復興」に邁進していくことになる。偶然とはいえ時を同じくしてロシアではプーチン大統領が選挙で圧勝、再選を果たす。2024年までの任期中、やはり「強いロシアの再建」を目指さなければならない。
 核・ミサイル開発の完成間近といわれる北の冷ややかな微笑。自由主義、民主主義、国際秩序の守り神であるはずのアメリカは…

 奔放に多様化と広がりを見せるデジタル化のダイナミズムと、窮屈さを増す国際政治や通商・貿易政策。更に加えて環境やテクノロジー、人口動態、民族・宗教など様々な要素を巻き込みながら、地球規模の激動の嵐はこれからが本番の様相だ。
 「次は何?」の興味は尽きない。

以上

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