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オピニオン

2018年9月1日

栗林常任委員

人口減少社会と船員問題

日本船主協会 常任委員
栗林商船 代表取締役社長
栗林 宏𠮷

去る7月4日に「船員教育機関と日本船主協会・内航海運業界との人材確保・育成に関する懇談会」が福岡で、日本船主協会と九州地区船員対策連絡協議会の共催で開催された。

この懇談会は今年で10回目となり、私も内航委員長の立場で当初よりほとんど参加しているが、10年もたつと懇談会で話し合われる話題も大きく変化して来ている。

当初は不況にあえぐ内航業界が、新卒船員の雇用に非常に消極的だったため、教育機関の先生方から新卒の採用を強く要望され、出席している九州地区の事業者の皆さんに直接求める場面もあった。

内航海運には船舶と船員の二つの高齢化問題があると言われ始めたのはこの頃である。その後どちらもさらに年を重ねた結果、船舶はついに代替建造に踏み切る船主さんが多く現れ、この10年で毎年80隻以上の新造船の建造が続いている。

船員についてもいわゆる団塊の世代が大量離職する時期を迎えた。従来なら外航海運や水産業からの転職者を、即戦力として中途採用することにより何とかしのぐことができた。しかしどちらの業界からも転入が望めなくなり、必然的に新卒採用へと業界として舵を切ることになり、就職内定率は上昇し、最近はほぼ100%近い状況で推移している。

だが海技教育機関の就職内定率が100%に近い状況は、この懇談会の議論の内容を、就職という人材確保の話から、それぞれの学校がいかに船員教育を行っているかという育成の話へと変化をもたらした。各学校の特徴や地域の特性を生かし、求められる船員をどう育てているかという学校からの報告、さらに雇用する事業者からの要望や送り出した学校が卒業生をフォローしていく過程で見えてくる業界の問題点などについて、建設的な議論がここ数年行なわれるようになって来ていた。

しかし今年の懇談会の最後に唐津の海上技術学校の校長先生から、今のように安定的に卒業生を送り出すことは難しくなるとの発言があり、我々を取り巻く船員問題が、単なる人手不足問題から、すでに人口減少社会に突入したために、さらなる深刻な段階に進んでいることを認識するに至った。

その発言によれば、九州地区の少子化は相当進んでおり、いろいろと入学志望者を募る手段を講じてはいるものの、入学時の定員割れが起き始めており、この流れは拡大していくだろうというものであった。もちろんこの発言がすべての教育機関で現状すぐに当てはまるとは思わないが、ひたひたと迫りくる少子化、人口減少社会の恐ろしさは子供に実際接するところで深刻に感じられている。

内航海運も未来創造プランによって、安定的輸送の確保と生産性の向上を目指すという指針は定められたが、その前提となる日本という国家が、人口減少時代を迎えどのように変貌するかを見据えることが重要である。将来予測の中でまず狂うことのない人口動態見通しによれば、日本の社会はいろいろな面で劇的に変化することになるが、社会全体としてそれを受け止める覚悟ができているとは思えない。

社会が大きく変化したのちにも、内航海運がその役割を担い続けるために、先端技術を導入するとともに古い概念にとらわれず、少子化対策で完全に無策を露呈した政府を頼ることなく、荷主業界との対話を続け魅力ある業界に育てることと同時に、多様性に富んだ船員を最大限に供給していただくことを教育機関の皆様にお願いし続けることが必要である。

懇談会の議論の内容もまた変わって行くはずである。


以上

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