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2019年2月1日

小比加副会長

「暫定措置事業終了後の内航海運」

日本船主協会 副会長
東都海運 代表取締役社長
小比加 恒久

平成最後となる今年の年明けは、新年早々、世界的に株価が大きく乱高下して、東証でも一時は日経平均が2万円を割り込んで、お屠蘇気分も吹き飛ぶものになりました。その後、本稿執筆の時点で株価はやや持ち直し、関係者の間でも楽観と不安が交錯するという状況のようです。

不安の大きな要因は、アメリカと中国の激しい対立で、もはや貿易摩擦の域を超えて、超大国間の覇権争いの観を呈しているように思えます。長らく資本主義陣営の旗手にして世界の最強国であった米国と、新興大国の中国がこのまま激しい対立を続ける事になれば、世界経済・安全保障などに影響を与えることは必至でしょう。

本稿では現在対立中のこの両国について、少し違った視点から考察してみたいと思います。両国のありようは、わが内航海運を考える上で、少なからず参考になると思われるからです。

まずは中国から。

ご存知の通り中国は、その四千年に及ぶ歴史において、漢、唐、明といった統一国家と、群雄割拠の分裂の時代を繰り返してきました。広大な国土で、漢民族を主体としつつも多様な民族、文化、風土からなるこの国は、統一国家の力が弱まると直ぐに分裂してしまうのです。1949年に建国された現在の中国、すなわち中華人民共和国は、歴史上、幾つ目かの統一国家ということになります。労働者階級の独裁政党である中国共産党の下で、資本主義経済を展開するという独特な国家体制は、多くの矛盾と不公正を抱えつつ、習近平主席の指導下で更なる強国化を目指しているようです。

報道されるところでは、中国における貧富の格差や人権抑圧は、日本人の感覚ではよく我慢できるものだと思うほどですが、それでも国家が持続できているのは、中国特有の歴史的な背景があるような気がします。すなわち中国は、分裂国家の時代にあっては異民族の侵入や列強の侵略で多くの苦難を経験しており、それに比べれば、多少(この「多少」が曲者ですが)の不都合はあっても統一国家の方が遥かにメリットが大きい、ということなのでしょう。四千年の歴史を通じて中国人は、このことを肌身に染みて感じているのかも知れません。

一方、中国と対峙するアメリカはどうでしょうか。アメリカは自由と民主主義を基本理念とし、国民の多様性を活力として発展してきた国ですが、トランプ氏が大統領になってから風向きが変わったようです。国民の間で分断と対立、不信と不寛容が深刻と言えるほどに広がっているように見えるのです。もっとも、これと似たような状況は、難民や移民の問題を巡ってもめている欧州諸国などでも起きているので、アメリカだけを悪し様に言うのは酷かも知れませんが。

ここでわが内航海運に目を転じてみましょう。内航海運はこれまで半世紀にわたり、船腹調整事業から現在の暫定措置事業へと続くカルテルを行ってきました。脆弱な零細事業者が圧倒的に多数を占める内航海運にあって、このカルテルは必要なものでしたが、時代の趨勢で近々終了することが決まっています。

問題となるのは、暫定措置事業が終了した後の内航海運のあり方です。暫定措置事業下の内航海運においては、建造等納付金・解撤等交付金の資金サイクルが事業者にとって求心力となったことは事実であったと思います。そのシステムが無くなった後の求心力をどこに求めるかは大きな課題です。

内航海運は、多様な事業者からなる業界です。オーナーとオペレーターという業態の違いに始まり、船種、船型、事業規模、大手系列か独立系かなど内航事業者は千差万別です。個々の事業者が自分の立場しか考えずに動けば、内航海運の連帯や連携はいとも簡単に瓦解してしまう可能性があります。

そこで想起したいのは、統一国家に拘る中国です。わが内航海運には現代の中国のような矛盾や不公正はありませんが、多様な主体が多少の不利や不都合を乗り越えて一体化することにより、より大きなメリットを得るという点では通底しているように思えるのです。中国が決して理想的なモデルではないとしても、四千年の歴史で培われた英知には学ぶべき点があるでしょうし、片や分断を深めつつあるアメリカの轍は踏みたくないものです。

わが内航海運は暫定措置事業終了後も、多様な事業者が大同小異の精神で連合していくよう、知恵を出しあっていきたいものです。

以上

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