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オピニオン

2020年9月1日

栗林副会長

新型コロナウイルスと内航海運

日本船主協会 副会長
栗林商船 代表取締役社長
栗林 宏𠮷

この原稿を執筆している8月の中旬になっても、新型コロナウイルスの日本国内での感染は拡大を続け、猛威を振るっている。ただ東京で暮らしている限りでは、3月後半から4月にかけての恐ろしいような緊張感は既になく、マスクとともに自粛慣れしてしまった日々がそれなりに続いている。

しかしこの感染症が日本経済に与えた影響は甚大で、先日発表になった4~6月期のGDPは年率で対前年比27.8%減とまさかのリーマン越えの過去最大の落ち込みとなり、それに呼応するように内航貨物船市況も急激に下げ、現在はお盆ということもあり最近では体験したことのないような超閑散のマーケットとなっている。バブル崩壊から始まり、リーマンショック、東日本大震災、地球温暖化による集中豪雨や超大型台風の襲来と、数十年から百年に一度の出来事が数年おきに起こるという大変な時代にあっていろいろな経験を積んできたとはいっても、さすがに今回のパンデミックには皆さん翻弄されている状況である。

有事の時も平時の対応で乗り切ろうとする日本政府だが、さすがに今回は緊急事態宣言の発令となり、我慢できずに予定より早く5月25日に解除宣言を行い、日本型コロナ対策の勝利と高らかに宣言した。その後は平時に戻って経済活動の再開を行ったため、6月後半から東京の感染者数は徐々に増え、7月9日には200人を超える事態となったが、ブレることなく平時の行動をとり続け、GoToトラベルキャンペーンという平時の計画を更に前倒しして始めるという、なかなかできない決断をした。新型コロナと戦っている医療現場や観光業界の声もあまり聞かずに、ひたすら立案した計画を遂行していくというのは先の大戦に似て見事というしかないと思う。

この結果、沖縄や関西圏で感染者が急増し、特に沖縄では医療がひっ迫して看護師を内地から招集して派遣することになるなど混乱は続いているが、作戦遂行のためには多少の犠牲も致し方ないということなのであろうか。

死者が少ないから大丈夫、ウイルスは弱体化しているらしい等の都合のいい解釈だけを頼りに、現在の検査・医療体制を改めず、秋から冬にさらに強力な次の波がわが国を襲った時、今度の被害はどこまで拡がるのか考えるのも恐ろしい気がする。

さて話を内航海運業界に戻すと、この新型コロナ禍が暫定措置事業終了後の内航海運がどうあるべきかを議論しているときに起きたことは、象徴的なことだ。

大手荷主を中心に在宅勤務が常態化するなど、業界全体でデジタル化がさらに進み、リモートを使う場面が日常的になれば、日本各地で活躍されている内航船主さんの地理的ハンディが無くなり、業務自体も生産性が向上する。さらに暫定措置事業のように長年続いた仕来りの様なものが無くなれば、新しい発想でビジネスチャンスの拡大を追求できる。

ポストコロナの内航海運は、変わらぬ使命を果たすために、新しい様式と考え方を取り入れ、大きく変わっていくことになるだろう。

以上

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