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オピニオン

2020年12月1日

中島

外航海運 日本企業としての正念場

日本船主協会 副会長
中島 孝

現在(本稿執筆の11月下旬)、来年度税制改正の折衝真っ盛りで、日本船主協会(以下船協)はわが国外航海運にとって不可欠な要望事項(特別償却制度の延長、日本籍船固定資産税の特例延長など)の実現に向け全力で取り組んでいます。一方この税制改正論議と同時並行で、わが国外航海運業界(及び造船業界)の窮状を踏まえ、本年7月より国土交通大臣諮問の国際海上輸送部会が設置され、「外航海運の果たすべき役割とそのために講ずべき方策」について船協を含めた官民労学の委員による審議が続いています。

その審議において、内藤会長は「外航海運は、国民生活に不可欠なライフラインを、平時はもとより災害時や現下コロナ禍などの非常時においてもしっかり支える、わが国の経済安全保障の担い手である。同時に製造業等のサプライチェーンの下支えや、海事クラスターの中心として様々な経済活動への貢献、さらには海洋資源開発などを通じた海洋国家日本の担い手の役割など、日本にとってなくてはならない『国家戦略産業』である」と訴えました。そしてその上で、厳しい国際競争の中でわが国外航海運が生き残るためには、諸外国との競争条件の均衡化が不可欠であり、取り組むべき象徴的な項目として以下5点を指摘されました。

  • ① 事業環境変化に応じたトン数標準税制の柔軟な見直し
  • ② 日本籍船関連の制度改善・コスト適正化
  • ③ 日本人海技者に関する諸政策の再検討
  • ④ 特別償却制度・買換特例制度の堅持
  • ⑤ 先進船舶の導入促進のための支援

これを受け政府(国交省海事局)は「日本船主協会の指摘は極めて本質的なものであり、総合的に検討し政策を打ち出したい」と応え、これから来年にかけ本格的な議論・検討が進められることになりました。

そもそも政府が特定の業界を支援するには国民が納得できる政策目的が必要で、わが国外航海運の場合は、国民生活のライフラインを支えるという経済安全保障上の観点より、自国籍船すなわち日本籍船と日本人船員を確保することが政策目的の大きな柱となっています。一方、船協の調査によれば、諸外国、特に欧州・アジアにおける主要海運国においては、かかるライフライン論に基づく(狭義の)経済安全保障の観点にとどまらず、外航海運産業を国として欠かせない戦略産業とみなした上で、その海外移転の容易さへの危機感より、海事産業の海外移転防止、自国海技者等海事ノウハウの維持・伝承、さらには海洋事業を含めた海事関連産業の振興・誘致など、外航海運の保持そのものを目的とした、いわば広義の経済安全保障ともいえる観点より、自国籍船云々といった個別要件にとらわれることなく、トン数標準税制をはじめ各種海運税制や船員関連助成策など、さまざまなコスト低減支援を海運政策の中心に据えています。

われわれ企業は可能な限り自助努力を続けます。しかるに諸外国との競争条件の均衡(イコールフッティング)が確保されない中でのやみくもな自助努力は、ともすればグローバル化という美名のもとでの、本意ではない事業の海外移転や国内拠点の空洞化などにつながりかねません。

日本企業としてのわが国外航海運の存続をかけ、待ったなしの議論が始まります。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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