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2021年3月1日

田渕常任委員

日中雑感 大きくなった中国

日本船主協会 常任委員
NSユナイテッド海運 代表取締役社長
谷水 一雄

昨年、1989年の第二次天安門事件を巡る外交記録が30年を経て公開された。人権侵害非難と経済制裁の欧米に対して西側の価値観を押し付けるのは無理だと対中関係維持、経済協力再開に腐心した日本の立場が記されているという。以来日本は協調を基本に対中外交を展開してきた。一方で中国は我が道を行き、国力を伸ばし今日に至るが、大きくなり自己主張を隠さなくなった中国が気になる。

もとより中国やインドに共通するのは、歴史的に大国意識が強いことと外国に侵食された歴史から他国への警戒が強く自主路線を貫く。また指導者の最大の関心はあの広大な国家の統一であり常にこの国権が最上位に来る。

20年代後半にいよいよ中国が米国に追いつくと予想され、日本の約6倍の経済規模を持つ二大国体制となる。中国はその目標達成までアクセルを踏み続けるだろう。中国の発展は世界にとって良いことだが、経済と安全保障、そして国際社会の中でどう折り合いをつけるか。

ここ数年、中国は独自の総体国家安全観を前面に党による管理を強めてきた。経済面では、昨年輸出管理法が導入された。世界の工場から世界の市場になり、双循環の下で国を開くが、中国の利害に反すれば他国への反撃も辞さないという。トランプ時代の負の遺産かもしれないが、貿易管理はどの国にもある。ただ情報ハイテクや軍事関連だけと言えるのであろうか。経済的相互依存を逆手にとる行為を繰り返せば中国にとっても孤立の痛手は大きく、信用も損なわれる。更に直近では国防法も改正され、中国の発展利益が脅かされる場合は解放軍の動員も辞さないとのこと。東・南シナ海そして台湾海峡への関与が一層強まりそうだ。

こうなるとRCEPやTPPも同床異夢?エネルギーでは米国がシェールなら中国は再生可能エネルギーで対抗?成長するEV市場を巡る戦略は?環境政策もESGだけでなく、まさに産業政策・安全保障も絡む覇権争いの側面が強くなってくる。

身の回りでも色々なことが思い出される。10年以上前であるが、鉄鉱石価格高騰時に某豪州鉄鉱石山元の社員がスパイ容疑で逮捕された。その山元が中国資源会社との提携を撤回した後であった。また某伯鉄鉱石山元が導入したVLOCについては、これも当初中国は受け入れを拒否した。関係改善に努め、その後VLOCの中国建造が進んだ。足下では、豪州炭の輸入が禁止された。

大きくなった中国とどう付き合っていけばいいのか、なかなか納得的解答は得られていない。協調か対峙か、玉虫色的政経分離はあるのか、協力的競争という難解な表現もあるようだが、もはや中国なしの国際社会はありえない。トランプは単独で中国に対峙し不毛に終わったが、今後は米国だけでなく同盟国が歩調を合わせあらためて共存の道を探っていくしかない。日本としても思案のしどきが来そうだが、主体性を発揮できる機会でもある。

海運造船はどうだろうか。中国の造船業も日本との競合が激しくなってきた。建造能力が増強され今後は自国の海上貿易に関わる商船隊も自国で整備されていくのであろうか?鉄鉱石もある日突然戦略物資になるかもしれず、その時の輸送は全て五星紅旗の船となる時代も来るのであろうか?鉄鉱石山元も中国の顔色をうかがうのだろうか?杞憂であることを祈りたい。今は高価な鉄鉱石も30年前はただ赤茶色の石だった。何より先ほどの外交記録はアジアの海は平和・友好・協力の海であると伝えているところ、まさに隣国としての関係が大切であり粘り強い対話が求められるが、これからも難しい局面が続きそうだ。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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