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オピニオン

2021年8月1日

ひろ瀬副会長

転換期の取り組み

日本船主協会 副会長
ENEOSオーシャン 代表取締役社長
瀬 隆史

新型コロナウイルスがわれわれの生活を劇的に変化させてから二度目の夏を迎えます。以前なら、会社の事務所では夏休みの旅行の計画や、週末に行ってきたレジャーなどの雑談をするのが日常の光景でした。外出をする人が減り、そもそもテレワークで社員同士が事務所で顔を合わせる機会が減った今、懐かしい光景と言うには大げさですが、少し寂しく思います。

日々の生活でも、仕事でも、様変わりしてしまったものは他にも数多くあります。本年のダボス会議は2回の延期を経て、最終的に開催中止が決定されましたが、テーマは「グレート・リセット」でした。新型コロナのまん延により貧困、差別、気候変動などの課題への対応が遅れているため、世界が直面する様々な問題に対処するためには、既存のシステムを大胆にリセットする必要があるというテーマです。社会・経済の大きな既存のシステムをどのようにリセットすべきかが論じられる場であったと想像しますが、こういった問題の克服には企業の取り組みや、個人の意識の変革も欠かせないでしょう。不幸中の幸いと言いますか、われわれにはそれまで必然と感じて行ってきたことを見直し、あらためて本質を抽出しようと意識する習慣が付きました。全ての団体・人が、言葉だけでなく、それぞれの立場で出来ることに取り組んでいく姿勢が必要とされています。何も国際的なフォーラムで討論するレベルの策だけが重要なわけではありません。

われわれの海運の分野においても近年いくつかの問題を抱えていることはご承知のとおりです。6月にIMOがGHG削減対応の短期対策として、EEXI規制とCII格付け制度を採択し、既存の大型外航船は2023年初めから、つまり今から1年半もしないうちに新たな国際規制の適用を受けることになります。低炭素化を将来の課題としてとらえていた社会が、自ら一気にバーを上げて脱炭素へ目標を再設定=リセットする動きは、従来からは考えられないほどの早さで展開されています。試しにある新聞の電子版で記事検索してみたところ、本年1月から6月までで「脱炭素」が入った記事は1,904件でした。昨年の同期間がわずか139件でしたので、いかに社会が脱炭素の体制へと加速しているかが分かります。GHG削減の他にも、海洋汚染、リサイクル・再資源化、水生生物への配慮など、海運はいくつかの課題を抱えており、これらはSDGsやESGの目標とも関連し、アプローチは様々ですが目指すゴールは皆一緒です。以前から関連団体はこれらを重大な課題として位置付け、解決に向けて取り組みを行ってきましたが、社会の中での注目度は以前とは段違いです。

この先歴史を振り返るときには、きっと2020年からの数年間は大きな転換期だったと位置づけられることでしょう。そのとき自分が、自分のいる団体が、何を課題として掲げ、取り組んでいたからこそ、現在の形があるのだと、将来胸を張って誇りたいものです。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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