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オピニオン

2021年9月1日

栗林副会長

終わりの時が始まりの時

日本船主協会 副会長
栗林商船 代表取締役社長
栗林 宏𠮷

令和3年8月20日に内航総連が内航海運暫定措置事業として鉄道建設・運輸施設整備支援機構から借り入れていた資金の最終返済日を迎え、無事に全額返済となり事実上の事業の終了となった。

平成10年5月に内航海運の保有船腹調整事業が終了する際の営業権の消失問題をソフトランディングさせるため導入されたこの事業は、当初は大手都銀や商工中金、運輸整備施設事業団から借り入れた320億円の資金で始まり、内航に見切りをつけた船主さんの船に対し解撤交付金を支払い、内航に残って事業を続ける方の新造船から建造納付金を頂戴し返済の原資とするというシンプルなスキームから成り立っていた。

しかしバブル崩壊後の平成不況の入り口にあった当時、建造を留保していた船舶も含め、資金化できるものは資金化しようという流れから、初年度だけで解撤交付金申請が573億円以上にも達し資金は払底、以来内航総連は暫定措置事業の円滑な運営という名の資金繰りに追われることになる。

特に平成13年以降、鉄鋼、石油、セメントといった内航海運の主要荷主業界で大型合併が相次ぎ、それら企業が物流費の削減を掲げて、国内の交錯輸送の廃止を次々と実施したため内航マーケットは一段と縮小、その分の余剰船舶が解撤交付金申請に回り、平成13年に259億円、14年にも134億円以上の交付金申請が生じた。

資金については民間の銀行団からの追加借り入れが難航し、結局海事局に予算措置をして頂き、運輸整備施設事業団からの借り増しでしのぐことになり、最大850億円以上の借入残高となるも、更に組合員への解撤交付金の交付の一時停止や預託金制度の導入などもあり、内航総連のこの事業に対する事実上の債務は1000億円を超えていたと思われる。

それらの返済の原資となる新造船の建造が進まなかったこともあり、当時の内航総連の理事の中にはデフォルトもやむなしという意見の者もいたことを思い出せば、平成20年代になって順調に返済が進み、今日を迎えることが出来た事は感慨無量である。

暫定措置事業が終了するという事は、昭和42年に始まった保有船腹調整事業の、更には昭和30年代後半からの、外航は集約、内航は適正船腹量を国が定めて調整するという海運政策の大きな流れが終了することを意味する。

これからの内航海運は、外航と比べものにならない小さなマーケットの中で、あまり増えない貨物を、減少していく若年船員を確保しながら、生産性の向上と働き方改革を行いつつ、温室効果ガス削減対応の船舶へ、船腹需給のバランスを狂わせることなく、約30年かけて代替していくことになる。内航船主の意気込みと矜持が試されることになる。

過去の歴史や経験に、新しい技術や知識を加え、海事産業全体で取り組まなければならない問題が始まっている。終わりの時が始まりの時である。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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