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オピニオン

2023年8月1日

ひろ瀬副会長

危機と隣り合わせの時代

日本船主協会 副会長
ENEOSオーシャン 代表取締役社長
瀬 隆史

2019年の年末に最初の感染例が報告されてから、3年以上もの間、世界中で猛威を奮ってきた新型コロナウイルス感染症ですが、今年5月8日に、国内の感染症法上の位置付けが5類となりました。また、昨年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、現時点で解決の糸口がいまだ見えず、長期化は避けられない情勢となっています。

グローバリゼーションが進み、世界のあらゆる国や地域が、ますますお互いの関係性を深めています。新型コロナウイルスはまたたく間に世界中に拡散しました。また、ウクライナ侵攻が、われわれ海運業界も含め、世界中に多大な影響を与えていることは、皆さんもよくご承知の通りです。

現代においては、世界のどこかで発生した危機や問題について、その影響を完全に回避することは極めて困難であり、そのような危機の存在を常に前提として、隣り合わせに生活していくことを余儀なくされる、そしてその象徴が、新型コロナの5類移行であり、現在のウクライナ情勢である、そのように思えてなりません。

そうした危機の中でも、現代を生きるわれわれ一人一人に直接関係し、今われわれの社会全体で取組みを進めなければ、将来的に取り返しのつかないことになる喫緊の課題が、脱炭素に代表される環境問題なのではないでしょうか。

2020年10月、内閣総理大臣が所信表明演説の中で、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すことを表明しました。2021年10月には、日本船主協会においても、日本の海運業界として、2050年のGHG(温室効果ガス)ネットゼロへ挑戦することを表明しています。そして、わが国は、米国、英国等と共同で、国際海事機関(IMO)に、2050年カーボンニュートラルを新たな目標とすることを提案しました。このような流れは、まさに大きな危機感の表れであり、われわれ海運業界のみならず、社会全体で共有していかなければならないものであると強く感じています。

ちょうど本原稿の執筆期間中、7月3日から7日にかけて、英国ロンドンにおいて、IMOによる第80回海洋環境保護委員会(MEPC80)が開催されました。上記の2050年カーボンニュートラルを新たな目標とすることについては、加盟国の全会一致で採択されたことが、早速報道されています。そのための、国際海運からのGHG排出削減目標を定める「GHG削減戦略」については、初めての見直しが行われ、従来に比べさらに野心的な目標が設定されることとなりました。GHG削減のための経済的手法の議論が新たな段階に入り、中長期対策としての気候変動対策は新たな局面を迎えることになります。また、生物多様性保護を目的としたバラスト水条約、大気汚染問題の対策としてのECA(大気汚染物質放出規制海域)拡大等、船舶の環境対策がさらに議論されていますが、これらを含め、今回の合意内容については改めて精査し、必要な対応を進めていきたいと考えています。

たとえ危機と隣り合わせに生活していくことが避けられないとしても、それをいかにコントロールし、影響を最小限に抑えるかについては、われわれにはまだまだできることがあるはずです。この世界で共に生きる仲間同士、知恵を出し合い、前向きに取り組んでいきたいと考えています。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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