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オピニオン

2024年1月1日

明珍会長

2024年新春を迎えて

日本船主協会 会長
明珍 幸一

新年あけましておめでとうございます。

2024年の年頭にあたり一言ご挨拶申し上げます。

昨年は、コロナ禍の収束、海運における環境対策の進展、国際安全保障環境の変動など、大きな変化のあった年でした。コロナ禍については、各国の規制緩和により、社会・経済の正常化が進みました。また、国際海運における地球温暖化対策について、IMO(国際海事機関)にて、削減戦略目標を「2050年頃までのGHG(温室効果ガス)排出ゼロ」へと大幅に前倒しすることが合意された他、シップリサイクル条約(香港条約)の発効要件が充足されるなど、環境・安全に配慮した循環型経済の実現に向けて大きく前進しました。

一方で、国際情勢においてはロシアのウクライナ侵攻の長期化、イスラエルとハマスの軍事衝突をはじめ、様々な懸念材料が生じています。特に黒海や紅海での商船への攻撃は、船舶の安全運航に対する深刻な脅威であり、断固非難するとともに一刻も早く船舶の自由かつ安全な航行が確保されるよう強く求めたいと思います。

このように海運を取り巻く世界情勢が大きく変化し、不透明感を増す中ではありますが、当協会は、本年も海運業界の抱える課題の一つ一つに適切に対応して取り組んでまいります。

まずは、環境問題・規制への対応です。

世界の海を舞台に事業展開する海運業界にとって、気候変動対策としてのGHG削減は、最重要課題の一つです。国際海運におけるGHG削減対策の枠組みについて、前述のとおりIMOの戦略削減目標が大幅に前倒しされました。また、欧州では、本年1月から海運セクターにおける欧州域内排出量取引制度(EU-ETS)の適用が開始されます。GHG削減に向けた取り組みが加速度的に進みますが、当協会はIMOに先駆け、2021年10月に「2050年GHGネットゼロへの挑戦」を表明しており、世界の海運をリードして、この挑戦を新たな競争力の源泉とするべく、積極的に対応していく所存です。

一方、これらの目標達成には、日本の海運業界として、低・脱炭素化を進めなければなりません。ハードとなる船舶の整備に関しては、造船所などをはじめとした海事クラスター全体で対応していく必要があります。また、新燃料や新技術を搭載した船舶の運航には乗組員の教育も重要ですので、業界として取り組みを進めていくことが大切です。加えて、新燃料や燃料供給施設といった輸送チェーン全体における対応も求められます。海運業界だけでなく、エネルギー会社など業界や国の枠を越えて連携し、課題解決を図ることが不可欠ですので、官民関係者による理解や協力を得られるよう、多様なステークホルダーの方々と引き続き、対話・連携してまいります。

次に国際競争力の強化です。

昨年は、令和6年度税制改正において当協会が重点要望事項としていた、国際船舶に係る「登録免許税特例の拡充・延長」と「固定資産税特例の延長」が夫々認められました。両税制とも日本商船隊の競争力強化や日本籍船を確保するためには欠かせないものです。改めまして、国会の諸先生方、国土交通省はじめ関係省庁の皆様のご支援に厚く御礼申し上げます。世界単一市場で厳しい国際競争に晒されている外航海運企業にとって、他国の企業と同様な条件で競争できる環境の整備は極めて重要です。日本の海運が競争を勝ち抜き、日本の経済と暮らしを支え経済安全保障に貢献するためにも、当協会は引き続き国際競争力維持・強化のための環境整備に取り組んでまいります。

安全運航の確保は、海運業界にとって最も重要な課題の一つです。

ソマリア沖・アデン湾海域での海賊事案は、わが国自衛隊・海上保安庁を含む各国政府による海賊対処行動や各商船による対策強化によって抑止されています。しかしながら、潜在的な海賊の脅威は引き続き存在することから、今後もわが国自衛隊や海上保安庁および各国政府が協調した対処行動による抑止は不可欠であると考えます。また、イスラエルとハマスの軍事衝突発生後は、紅海やアデン湾及びアラビア海において商船を標的とする攻撃事件が勃発しています。海賊行為ではありませんが、紅海で当協会会員会社の運航船舶が現在も拿捕・拘留されており、船舶と乗組員の一日も早い解放を強く願っております。

その他に、海運を目指す人材の確保と育成も重要課題です。

日本の海運業界が、日本はもとより世界の経済と人々の暮らし支えるため「海上物流を止めない」という使命を果たし続けていくには、次世代を担う若者に海運をもっと知ってもらい、仲間になってもらうことが不可欠です。海事産業の重要性に関する更なる認知度向上に向けて「“開運”じゃなくて、“海運”です。」をキャッチフレーズとするPRキャンペーンを、他の海事諸団体とも連携して継続してまいります。

また、日本の海運は優秀な日本人海技者によって支えられていますが、内航と外航いずれにおいても人手不足が喫緊の課題となっています。前述の環境や安全の取り組みを実施する際に“核”となるのは、優秀な日本人船員、海事人材です。こうした人材の確保に向け、海運の認知度向上に取り組むとともに、通信などの職場環境の改善、ライフステージに合わせたキャリアプランの提示などを通じて、職場としての魅力についても発信してまいります。

最後に、前述の通り、海運業界にとって新たな環境規制が適用されるなど、今年は大きな転換期、「起点」となる年です。また、海運は元来経済動向の変化や市況のボラティリティに晒される業界ですが、ウクライナ侵攻の長期化や中東情勢など、先行きは益々不確実性が高くなる状況が継続しています。斯かる環境下でも、わが国海運は「七転び八起き」の精神で立ち向い、安定的な海上輸送を通して国民生活や経済活動に、今後も貢献していけるよう一層努めてまいります。引き続き関係の皆様のご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

以上

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