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オピニオン

2024年2月1日

田渕社長

『令和6年度の内航海運を思う』

日本船主協会 常任委員
田渕海運 代表取締役社長
田渕 訓生

日本船主協会のオピニオンへの寄稿は、今回で5年連続の5回目になります。

第1回目は2019年度『令和時代の内航海運ビジネスについて私が思うこと』として令和2(2020)年度中の暫定措置事業の終了を鑑み、その後も内航海運業界のまとめ役(新総連合会)が必要であることを論じ、その中に絶滅危惧種の可能性がある船種も存在すると論じました。

第2回目は2020年度『海運業界と内航小型船舶における諸問題について』と題して内航のカボタージュ制度から始まり、内航海運の輸送比率から最後はやはり小型船の絶滅危惧種対策を深堀いたしました。第3回目、第4回目といたしましては、令和4(2022)年5月より船員法改正による内航海運の働き方改革を鑑み、これらの実施にあたっての種々問題点と益々厳しくなっていく船員問題をどう対処するか?述べさせていただいております。(あくまで私の持論でありますが)今後、船舶管理の難易度が間違いなく上がってくるという話をいたしました。(下記の通り対策もすこし書かせていただきました)

【対策Ⅰ】 労働時間を削減する方法

(1) 積み荷トン数あたりの人数を減らすための船舶の大型化

(2) 船員の航海当直時間を減らすためのAIを使い航海当直を補助

(3) 機関部の陸上支援体制の構築(エンジンメーカーの24時間監視)

(4) 荷役の陸上支援体制の構築、ホースなど着脱作業の簡素化

(5) 船舶の荷役集中管理システム(DX化)での労務削減策

(6) クリーニング作業を減らすための陸上支援体制またはクリーニング作業とさらいの完全自動化(DX化)

(7) 待機時間(作業時間)の無駄を避ける為こまめな連絡体制の確保、日用品、食事の流通の簡素化を進める

(8) タンカーにおける二層甲板船の導入による、船員室の大型化や増加、カーボンニュートラルの為、食材の保管庫、ジム健康器具、ゴミの仮置き場などのスペース確保を考える(新規)

【対策Ⅱ】 人を増やす方法

(1) 漁業船員の招致(全体数は減っているが可能性の追求)

(2) 水産学校(工業高校)への展開による新卒の確保(採用後の各企業の教育、訓練をより充実し対応)

(3) 女子船員の活用の多様化(仕事の多様化プラスDX)

(4) カボタージュは堅持しながら助人を考える(健康な年配船員の活用や一部外国人の活用?)

以上が私が考えた対策でしたが、さてそれでは令和5(2023)年はどうなったか?と言うことですが、実はあまり大きな逼迫感は起きませんでした。全体的に見て不景気で仕事量が減ってしまい、働き方改革にて船舶の動きが鈍化しても、皮肉なことに丁度いい具合になったことが要因でした。やはり中国のバブル崩壊による不況の波が日本にも訪れてしまい、鉄鋼、石油(重油)、石油化学におきましては結果そういうことになりました。

しかしながら、中国の不景気が解消され従来の水準に戻れば船舶の逼迫感や大変な人手不足を感じることになると思われます。今年からはトラックの2024年問題が始まりますのでこれらの経過動向にも要注意です。

今年から徐々にではありますが、船員の労働条件改善がすこしずつ進み、船員の絶対数の増加、さらに船員の地位向上、良いインフレを生み出し、まさに四面を海に囲まれた海洋国家日本の、理想的な物流体制になっていくことを期待したいと思います。AIなどによる物流DXが完了するその日まで強烈な人手不足と対峙しながら、われわれ物流会社の使命はその多くの課題をクリアすることです。やはり船舶管理の難易度がMAXであることは間違いないが、物流会社の努力により単なるコストプッシュインフレからのデフレ脱却の烽火(本当のインフレ)を上げていきたいと思っています。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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