2025年11月1日
航行安全を支える強力な「盾」
~ジブチ訪問を通じて~
日本船主協会 副会長川崎汽船 取締役会長
明珍 幸一
本年4月、私は日本船主協会、国際船員労務協会、全日本海員組合による訪問団の一員として、ジブチ共和国の自衛隊拠点を訪れました。日本を発ち、カタール・ドーハを経由して20時間余り、アデン湾の青い海を眼下に、世界一暑い国とも称されるジブチへ降り立ちました。眼前には砂漠地帯が広がり、乾いた熱風が吹き抜け、地面はじりじりと熱を帯びています。四国とほぼ同じ面積を持つこの地に自衛隊初の海外拠点が置かれていますが、バブ・エル・マンデブ海峡を挟んでわずか30キロ先の対岸には、今なおホーシー派の活動が続くイエメンがあります。
自衛隊拠点は有刺鉄線やコンクリートブロックで囲まれ、小銃を携えた隊員による厳しい検問を通過して、ようやく中へ入ることができました。陸海空の各自衛隊から派遣された約190名の隊員が昼夜を問わず活動され、任務に臨む姿には緊張感が漲っています。
P-3C哨戒機への体験搭乗では、不審船を探知・確認する過程を見学しました。隊員の方々は、6時間を超える飛行任務の間、レーダーやセンサーで捕捉した後も最終的には自らの目で船影を確認し、1日に100隻以上を分析することもあるといいます。長時間にわたり集中した規律ある行動により、商船の航行安全が力強く支えられているのだと実感しました。また、拠点内の生活棟や厚生施設を視察し、制約の多い環境下でも秩序正しく生活されている姿に感銘を受けました。
さらに、日本政府が長年支援するジブチ沿岸警備隊を訪れ、日本から供与された巡視艇が周辺海域の治安維持に役立っている様子を伺いました。加えて、日本大使館主催のレセプションでは、ジブチ海軍司令官や政府・港湾関係者と交流し、外交による信頼関係が現場での活動をさらに支えており、現場の規律ある任務と外交上の弛まない努力が有機的に結びつき海賊対処の実効性を高めています。
2009年に始まった日本の海賊対処行動では、自衛隊は4,000隻もの商船を護衛し、P-3C哨戒機による約29万隻の通航確認を行い、この間1隻の被害も発生していません。これは現場で任務を遂行する隊員の方々の献身に加え、日本大使館や自衛隊、海上保安庁など多層的な支援、そしてジブチとの長年の友好関係の賜物にほかなりません。
一方、他地域に目を向ければ、ロシア・ウクライナ情勢の長期化、中東・紅海地域の緊張、マラッカ・シンガポール海峡での窃盗事案など、地政学リスクの高まりによる航行の安全を脅かす事態は後を絶ちません。世界の貿易量の約9割、日本の貿易量の99.5%を担う海運業は世界経済の大動脈であり、安全で安定的な海上輸送の提供には航行安全の確保が不可欠です。
灼熱の大地で、危険と隣り合わせのなか任務を全うされる自衛隊員や海上保安官、外務省や現地政府をはじめとする関係者のご尽力により、私たちの経済活動や日常生活は支えられています。航行の安全は決して当たり前ではなく、多くの献身的な積み重ねの上に成り立っている現実を広く知っていただきたいと強く願います。
そしてわれわれ海運業界がその責務を果たし続けるためにも、政府関係者の皆様には航行の安全確保に向けた継続的なご支援を心よりお願いする次第です。
以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。









