2026年5月1日
「変化の時代を共に乗り越えるために」
日本船主協会 常任委員NSユナイテッド海運 代表取締役社長
山中 一馬
日本を取り巻く環境が大きな転換期を迎える中で、海運の役割はこれまで以上に重みを増しています。近年、日本政府は経済安全保障の観点から重要物資の安定確保や物流基盤の強靭化を進めていますが、その中には造船業の競争力回復に向けた力強い支援も含まれています。これにより私たち海運の船隊運営の選択肢は広がり、技術開発や安全性向上にも着実な成果が期待できます。海運・造船が共に未来へ歩むための後押しとして、この流れを心強く感じています。
さて一昨年、本稿において「日本の人口」について述べました。人口以外にも、日本社会にはさまざまな課題があります。今回は、海運の持続的な発展と深く結びつくと考えられるわが国の三つの課題を取り上げ、感じていることをお伝えしたいと思います。
第一は、デジタル化の加速とサイバーリスクの増大です。船舶のデータ活用や遠隔支援、港湾設備とのネットワーク連携など、デジタル化は安全と効率の向上に大きく貢献しています。しかし同時に、サイバー攻撃やシステム障害といった新たなリスクも生まれています。海運は止まらない物流の中心であり、一度のトラブルが社会に与える影響は甚大となる可能性があります。政府が社会インフラの安全性を重視する中、海運業界全体でセキュリティ基準を高め、共通の備えを整えていく機運をさらに高めていくべきと考えます。
第二は、地域経済の縮小と物流ネットワークの弱体化です。地方の産業活動が縮小する中、内航輸送や地域港湾の維持が難しくなり、国内物流の動線が少しずつ弱まっているように感じます。政府が地域物流の重要性を再評価し、港湾整備や航路維持に向けた支援を一層強めていただくことを期待しています。地域と海運は切り離せない存在であり、私たちも共に支え合いながら強い物流網を育てていく必要があると感じています。
第三は、産業構造の変化に伴う人材の流動化と専門人材の不足です。価値観が多様化する中で、海事分野に関心を持つ若者をどう増やし、どう育てていくかが大きなテーマとなっています。船員や技術者、ICT(情報通信技術)の専門家など、海運には多様な人材が必要です。政府が「基幹産業を支える人材育成」を重視する流れは、海事産業にとっても追い風となります。私たち自身も、海の仕事の魅力をこれまで以上に丁寧に伝えていくチャンスだと思います。
こうした社会課題に向き合っていくために、日本船主協会の役割は従来にも増して重要になっていると思います。政策提言や国際ルール形成への参画はもちろん、上記の三つを含む諸課題への対応、そして造船業との協働を業界全体で推し進めることは、協会だからこそ担える役割だと考えます。
海運は、日本の暮らしと産業を静かに、そして確かに支えてきた存在です。変化の大きい時代だからこそ、仲間と知恵を分かち合いながら、連帯感を大切にし、しなやかで力強い海運の未来を共に創っていければと願っています。
以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。









