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プレスリリース

2008年12月18日
社団法人日本船主協会

2008年海運界重大ニュース

1.世界経済が急激に減速、海運市況が急落
 外航海運の業績は、2008年度第2四半期までの好調なドライバルク市況に支えられ、大手3社が揃って中間期最高益を更新するなど多くの会社で増収増益となった。しかし、同第3四半期以降市況は急落、世界経済の減速に伴う荷動きの減少に加え円高の進行などの収益圧迫要因が見込まれ、2009年3月期決算では当初の予想を下方修正する会社が相次いだ。
 内航海運は、暴騰を続けていた内航燃料油価格が原油先物価格の急落に伴い落ち着きを取り戻すことが期待される一方、国内の荷動き量も急速に減少をはじめており、好転の気配を見せていた内航海運市況が急速に悪化することが強く懸念される事態となった。
2.アデン湾で凶悪な海賊事件頻発、政府は自衛艦派遣を検討
 アデン湾において、機関銃やロケット砲などの重火器で武装した海賊による襲撃が頻発している。2008年の1年間に襲撃事件が100件以上発生し、船舶をハイジャックして身代金を要求するという事件が30件以上発生した。国連安全保障理事会では、海賊鎮圧のため各国に艦船派遣を促すなどの決議を採択し、有志連合軍(CTF-150)のほか、EU軍、NATO軍をはじめ多くの国からアデン湾へ艦船が派遣された。
 当協会は9月に「アデン湾航行安全対策本部」を設置し、関係者間の情報共有を図るとともに、海賊防止のための具体的な対策を早急に講じるよう国土交通大臣へ要望した。さらに、あらゆる機会を通じわが国政府の海賊問題への対応を働きかけた。
 わが国政府は、12月12日にいわゆる補給支援特措法の延長を可決するとともに、さらに海賊対策のためアデン湾への自衛艦派遣についても検討を開始した。
3.トン数標準税制に関する改正海上運送法が施行、船舶特償が大旨現行内容で延長
 トン数標準税制(以下、トン数税制)の根拠法である海上運送法(附則の改正租税特別措置法含む)及び船員法の改正法が、5月30日の参議院本会議で可決・成立、6月6日に公布、7月17日に施行された。関連の政・省令及び国土交通大臣の「日本船舶及び船員の確保に関する基本方針」並びに認定基準についても7月31日までに施行・告示乃至通達が出された。トン数税制を2009年4月より適用したい事業者は、国土交通大臣に対し2009年1月末までに「日本船舶・船員確保計画」の認定申請をする必要がある。主な認定基準は、日本籍船を5年で2倍以上とすること、日本籍船1隻につき年間1名以上の日本人船員を訓練(三級海技士免許の取得に必要な乗船履歴を取得するための訓練)すること、日本籍船1隻あたり4人の船員を配置すること等である。
 2009(平成21)年度税制改正において、2009年3月末をもって適用期限を迎える「船舶の特別償却制度」について、外航船は、トン数税制選択事業者の海外子会社保有外国籍船の償却率を現行の18%から16%に引下げるとされたが大旨現行内容で延長(2年間)された。内航船については、環境への負荷の低減に係る要件を見直したうえ延長(2年間)された。また、環境への負荷の低減に著しく資する船舶については償却率を16%から18%に引上げられた。「スーパー中枢港湾の特定国際コンテナ埠頭において整備される荷さばき施設等に対する固定資産税・都市計画税の特例措置」についても現行内容での存続が認められた。
4.船舶からの大気汚染防止/GHG削減に関する検討が進む
 近年、環境への関心が高まるなか、国際海事機関(IMO)においても船舶にかかる環境保護に関して活発な検討が行われている。
 船舶から排出されるNOxおよびSOxの排出基準を強化する海洋汚染防止条約(MARPOL条約)附属書VIの改正規則が10月に採択された。同規則では、現行のNOx排出規制値を80%削減した規制値が2016年より適用されるとともに、燃料油中のSOx含有量が、一般海域において現行4.5%から、2012年より3.5%、2020/2025年より0.5%に規制されることなどが含まれている。
 また、2009年末の合意に向けてポスト京都議定書の枠組みが審議されているなか、IMOにおいて国際海運からの温室効果ガス(GHG)削減対策が活発に議論されている。削減の方策として、技術的な手法(船舶のエネルギー効率の改善等)、運航上の手法、経済的な手法(燃料油課金、排出量取引等)について検討が進められており、10月には新造船の燃費性能を評価する指標(エネルギー効率設計指標)の算出方法が作成され、試行的に実施することが合意された。
5.水先改革の各種施策が逐次実施
 ベイ、ハーバー水先区が統合された三大湾において限定解除免許および新規免許取得者による「通し業務」が開始、徐々に拡大されたほか、等級別免許制導入に伴い新規学卒者にも門戸を開いた三級水先人養成課程による教育が始まるなど、水先改革の各種施策が逐次実施された。
 また、新たに水先人の指名制が導入され、これを活用した事前・個人契約の締結例も出た。
6.EU、129年に及んだ定期船同盟制度を廃止
 10月18日、EUは定期船同盟に対するEU競争法適用除外制度を廃止。欧州同盟は129年に渡る歴史に幕を下ろした。これにより、欧州定期航路に配船する船社は同競争法適用という未体験領域に突入し、共通タリフ・サーチャージなどは認められないこととなった。また欧州委員会は、7月、海運全般に同法を適用する際のガイドラインを発表。定期船分野では、業界団体内での船社間の意見・情報交換を一定程度許容する一方、不定期船分野については、タンカー・バルクプール協定などの共同行為が同法の監視下に置かれることが明確となった。しかしながら、同ガイドラインの内容は抽象的なものに止まるため、どのような行為が同法違反となるのか不透明な部分が多く、各船社は慎重に対応している。なお、同法違反とされた場合、当該企業の世界総売上の10%という高額の制裁金が規定されている。
 一方、アジアにおいても、中国の競争法施行(8月)や香港政府の独禁法制定への動き(5月)など、競争政策強化への動きがみられた。
7.船員(海技者)確保の気運高まる、承認船員の規制改革が進展
 7月1日、当協会は人材確保タスクフォースを設置した。同タスクフォースは、トン数税制導入に伴う日本籍船増加を念頭に、日本人船員・海技者の確保と外国人船員の承認海技資格取得制度の合理化・簡素化を政府に働きかけることを目的する。
 日本人船員・海技者の確保については、海事教育機関との連絡会を立ち上げ、当協会主催により商船高等専門学校合同進学会ガイダンスを開催した。また、横浜港振興協会主催の「子供たちと港を語る事業」を後援し中学生の職場体験を実施した。
 外国人船員承認制度の簡素化については、内閣府の規制改革推進本部に「日本籍船運航に係わる海技資格等の承認制度の簡素化」の要望を提出し、STCW条約の締約国が発給した資格証明書を受有する者には、わが国の海事法令の通知のみによる承認証発給を求めた。その後、国土交通省海事局は、「承認船員制度の在り方に関する検討会」を設置し、承認試験の実施回数および実施国の拡大など、現行制度を前提とした場合の当協会要望が実現された。
8.外国人全乗の外航日本籍船が誕生
 6月、2005年6月13日付の労使確認に基づく外航日本籍船の日本人船・機長配乗要件の撤廃について、各船社と全日海の間で協議に入ることが合意された。その結果、11月末までに9隻の外国人全乗の日本籍船が誕生した。
 一方、上記労使確認に基づき2007年10月から実施されている外航日本人船員(海技者)確保・育成スキームについては、1期生11名(航海士9名(うち女性1名)、機関士2名)のうち、3名(全て航海士(うち女性1名))が外航船社への就職を果たした。また、10月から2期生17名(航海士15名(うち女性4名)、機関士2名)の育成が開始された。
9.良質外国人船員の確保に向けた活動強化
 当協会は、全世界的に深刻な問題となっている良質な外国人船員不足に対応するため、FOC船の外国人船員労働条件交渉に直接携わっている国際船員労務協会の会長を当協会の副会長に迎えて、同協会との更なる連携強化を深めた。また、2009年に予定されているIBF交渉に向け引続き同協会を最大限にバックアップして行く。
10.マラッカ・シンガポール海峡における協力メカニズム・航行援助施設基金が本格稼動へ
 マラッカ・シンガポール海峡の航行安全・環境保全に関して、2007年9月、IMOも参画し、沿岸国と多くの利用国等により国際的な協力の枠組みが合意された。この枠組みの下、航行援助施設の整備にかかる費用を支出する「航行援助施設基金」が設置され、2009年1月以降、同基金により整備事業が実施されることとなった。
 同基金には、日本財団が当初5年間、事業費の1/3(250万米ドル)を拠出することとしているほか、日本、アラブ首長国連邦、ギリシャ、韓国およびMENAS(中東航行援助サービス)がそれぞれ拠出を表明している。

以上

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