5・5
国際港湾問題
5・5・1 スエズ・パナマ運河問題
(1)パナマ運河通航料改定問題
2007年2月2日、パナマ運河庁は運河拡張計画に伴う通航料改定案(資料5-5-1参照)を発表し、同年3月14日に本件に関する公聴会をパナマシティ・バルボアで開催した。同公聴会では、各国政府(日本、チリ、エクアドル)、当協会を含む海事関係団体、船社等から意見陳述があった。
当協会は、公聴会に先立ち3月8日に提出した意見書に沿って@三年間で26%〜34%の大幅な値上げは受け入れ難いこと、A料金引上げのタイミングと期間が適切でないこと、B既存のユーザーと拡張工事後のユーザーの費用負担が公平ではないことなどを指摘した。また、現在でも南アジア/北米東岸間の貨物はスエズ運河経由の方が経済的であるため、同運河庁が料金引上げを強行すれば、採算分岐点が香港より北にシフトする可能性があること、更にスエズ運河による料金引下げを示唆する報道がなされていることなどにも言及し、改正案の再考を求めた。
また、下荒地修二・駐パナマ日本大使より、「日本政府としては運河拡張計画を強く支持するものであるが、一方、今回の値上げは現在のユーザーにのみ過大な負担を強いるもので容認できない。またコストについては、より長期間にわたって均等な形で負担することが望ましい」との見解が表明された。
他の海事団体については、同年2月28日に開催されたASF(アジア船主フォーラム)
シッピング・エコノミックス・レビュー委員会(委員長:芦田昭充 日本船主協会常任理事(当時)・商船三井社長)の要請に基づき、同運河庁に意見書を提出したASF議長国である韓国船協の他、シンガポール船協およびICS(国際海運会議所)より同様の主旨で反対表明がなされた。
また、中南米各国からは、2002年の料金引き上げ時と同様、農産物の輸出が深刻な打撃を受けるとの発言がなされた。
なお、陳述された意見の大多数は反対意見であり、その共通点は、当初三年間の引上げ幅が過大で容認できない、既存のユーザーのみに過大な負担を強いるというものであった。
その後4月5日、同運河庁は、公聴会における関係者の意見を検討した結果、修正案を検討しており、これに対して追加意見があれば4月23日までに提出するよう求める発表を行った。しかしながら、同修正案の内容で変更された点は、実施日を5月1日から7月1日に延期することとされたのみで、通航料の引き上げ額等の変更はなかった。
このため当協会は、4月20日付けで次を骨子とする追加意見書を提出した。
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今回のパナマ運河庁の決定は、通航料改定の実施日の2ヶ月延期だけに留まっており、失望している。長期用船契約を締結している船社が存在していることに鑑み、数年間の実施延期を望む。
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今回、通航料改定案の内容については修正が行われておらず、先般、海運界が示した懸念について何ら検討が行われていない。
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3年にわたり毎年10%にもなる通航料の値上げは、グローバルな活動を行う外航海運業の経営を圧迫し、ひいては世界経済に悪影響を及ぼすこととなる。
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ついては、先般、当協会を含む海運業界が提出した意見書を精査し、改定案を再考するよう求める。
また、追加意見募集にあたっては、ICS、ASFの議長国である韓国船協、シンガポール船協もパナマ運河庁に対して再考を促す意見書を提出した。
しかしながら、関係者からのこのような反対意見にもかかわらず、2007年4月25日、パナマの内閣審議会は同運河庁の通航料改定案を承認し、何ら修正を加えられることなく同年7月1日に改定が実施された。
(2)スエズ運河・パナマ運河通航船実態調査
当協会は、毎年会員各社の運航船舶(外国用船を含む)について、スエズ、パナマ両運河に係る通航実態並びに通航料支払実績の調査を実施している。
調査対象期間は、従来より各運河運営団体の会計年度に合わせて調査しており、本年度においても、スエズ運河については2006年1月1日より同年12月31日まで、パナマ運河については2006年4月1日より2007年3月31日までとした。
[スエズ運河]
今回の調査を見ると、スエズ運河の利用状況は、通航船社数が前年度比較で2社増の16社、利用隻数は9.3%増加(2006 年:1,322隻/2005 年:1,209隻)した。G/Tベ−スでは0.7%増加(2006年:61,426千G/T/2005年:61,014千G/T)したものの、D/Wベ−スでは0.7%の減少(2006年:52,359千D/W/2005年:56,543千D/W)であった。
また、料率の基本となるスエズ運河トン数(*1 SCNT : Suez Canal Net
Tonnage)ベ−スでは0.5%の減少(2006年:57,929千トン/2005年:58,233千トン)となり、全体の支払通航料は9.1%増加(2006年:330,653千米ドル/2005年:303,102千米ドル)となった。(表1参照)
船種別で見ると、タンカーが前年度比較で延べ18隻(10.8%)増加し184隻、SCNTベ−スで29.2%増加(2006年:2,670千トン/2005年:2,067千トン)、通航料も10.0%増加(2006年:19,440千米ドル/2005年:17,672千米ドル)した。コンテナ船は延べ18隻(3.5%)減少し501隻、SCNTベースでも20.9%減少(2006年:24,607千トン/2005年:31,116千トン)、通航料で1.1%減少(2006年:165,140千米ドル/2005年:167,023千米ドル)となった。また、自動車専用船は前年度比較で延べ122隻(31.4%)増加し511隻、SCNTベ−スで31.1%増加(2006年:25,167千トン/2005年:19,194千トン)、通航料も28.4%増加(2006年:124,149千米ドル/2005年:96,679千米ドル)となった。(表2参照)
[パナマ運河]
パナマ運河の利用状況は、通航船社数が前年度比較で1社増の18社となり、利用隻数は27.3%増加(2006年:1,287隻/2005年:1,011隻)した。G/Tベ−スでも31.8%増加(2006年:55,571千G/T/2005年:42,158千G/T)するとともに、D/Wベ−スでは18.4%の増加(2006年:42,608千D/W/2005年:35,998千D/W)であった。
また、料率の基本となるパナマ運河トン数(*2 PCNT : Panama Canal Net Tonnage)ベ−スでは27.5%増加(2006年:51,111千トン/2005年:40,083千トン)となり、全体の通航料では30.4%の増加(2006年:178,590千米ドル/2005年:136,981千米ドル)となった。(表3参照)
船種別では、タンカーが前年度比較で延べ26隻(216.7%)増加し38隻、PCNTベ−スで57.8%増加(2006年:445千トン/2005年:282千トン)、通航料も55.8%増加(2006年:907千米ドル/2005年:582千米ドル)と前年に比べ大幅な増加となった。また、コンテナ船が延べ69隻(30.3%)増加し297隻、PCNTベ−スで24.1%増加(2006年:13,084千トン/2005年:10,542千トン)となり、通航料は53.6%(2006年:68,536千米ドル/2005年:44,608千米ドル)の増加となった。このほか、自動車専用船は前年度比較で延べ218隻(50.8%)増加し647隻、PCNTベ−スで46.1%増加(2006年:30,925千トン/2005年:21,162千トン)、通航料も28.8%増加(2006年:85,643千米ドル/2005年:66,503千米ドル)となった。(表4参照)
*1 スエズ運河トン数
(SCNT :
1873年の万国トン数会議で定められた純トン数規則をもとに、スエズ運河当局独自の控除基準を加えて算出する。二重底船の船底にバンカー油を積載した場合その部分の控除を認めない等、パナマ運河や各国の規則とも異なる独特のもの。
*2 パナマ運河トン数
(PCNT :
1969年のトン数条約による国際総トン数の算出に用いた船舶の総容積に、パナマ運河当局独自の係数をかけて算出する。船舶法に定める総トン数、純トン数とは異なる。