2・7 円滑なシップリサイクルの推進
2・7・1 2007年の世界のシップリサイクル実績
ロイズ統計によると、2007年の世界のシップリサイクル量は、427隻、415万総トン(前年比114隻減、439万総トン減)であった(表ご参照)。リサイクル国別に見ると、インドが134隻、133万総トン(前年比32隻増、48万総トン増)、バングラディッシュが104隻、184万総トン(前年比55隻減、104万総トン減)、中国が26隻、34万総トン(前年比17隻増、9万総トン増)、パキスタンが24隻、38万総トン(前年比5隻増、19万総トン増)となり、バングラディッシュを除く主要リサイクル国において、リサイクル船腹量が増加した。
表.国別シップリサイクル実績(Lloyd’s World Casualty Statisticsより)
|
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
2007年 |
|||||
リサイクル国 |
隻数 |
千総トン |
隻数 |
千総トン |
隻数 |
千総トン |
隻数 |
千総トン |
隻数 |
千総トン |
インド |
383 |
5,886 |
206 |
1,620 |
128 |
1,123 |
102 |
853 |
134 |
1,332 |
バングラディッシュ |
79 |
2,890 |
123 |
3,357 |
81 |
2,114 |
159 |
2,883 |
104 |
1,838 |
中国 |
119 |
5,582 |
70 |
1,538 |
8 |
151 |
9 |
254 |
26 |
341 |
パキスタン |
49 |
817 |
26 |
209 |
12 |
48 |
19 |
187 |
24 |
380 |
その他 |
339 |
753 |
264 |
471 |
194 |
336 |
252 |
415 |
139 |
262 |
合 計 |
969 |
15,928 |
689 |
7,195 |
423 |
3,772 |
541 |
4,592 |
427 |
4,153 |
2・7・2 国際機関の動向
1.国際海事機関(IMO)
シップリサイクルに関する国際的な規制については、2005年7月に開催されたIMO第53回海洋環境保護委員会(MEPC53)において、「2008〜09年の間に強制化規則を策定する」との方針が打ち出され、その後2006年3月のIMO MEPC54からは、シップリサイクル新条約の条文審議が本格的に開始された。
現在、2009年5月の採択に向けて条約策定作業が進められており、2008年10月に開催されたMEPC58における審議状況はつぎのとおりである(MEPC57までの動きを含むこれまでの経緯については、船協海運年報2007をご参照)。
(1)MEPC58
シップリサイクル条約案については、MEPC58に先立ち、2008年9月30日から10月3日までの間、ロンドンIMO本部にて第4回シップリサイクル作業部会中間会合(ISRWG4=
4th Intercessional Ship Recycle Working Group)が開催され、前回MEPC57(2008年4月開催)で審議未了となっていた事項について審議が行われた。その後、MEPC58において、ドラフティング・グループが設置され、条文について最終的な検討が行われた結果、発効要件などごく一部を除き合意に達し、承認された。
主な審議結果の概要は次の通りである。
@発効要件
MEPC57において、わが国より、条約の発効要件として、締約国数と船腹量とともに解撤能力の要素を加えたものとするよう提案を行っていたが、時間的制約のためにISRWG4で審議を行うこととされた。
また今次会合では、インドより解撤能力の算出方法に関する別提案がなされた。
審議の結果、日本提案をベースに締約国数と船腹量に解撤能力の要素を加えた発効要件とする方向となったが、条文案や具体的な数値、算出方法等については合意に至らず、2009年5月に開催される外交会議でさらに審議を行うこととなった。
A最終検査前のリサイクル国政府によるリサイクル計画の承認
デンマークより、シップリサイクル計画(SRP=Ship Recycle Plan)は最終検査より前にリサイクル国の承認を受けなければならず、また、その承認方法について、[14日]以内にリサイクル国からの異議通告が無い場合、承認されたものとみなすとするタシット方式が提案された。
審議の結果、SRPはリサイクル国による事前承認が原則(=エクスプリシット方式)だが、14日以内にリサイクル国から文書による反対の表明が無ければ承認されたものとみなす(=タシット方式)こととなった。
また、上記規定に関わらず、リサイクル国は自国の特定のリサイクル施設についてSRPの承認手続きを免除することができるとの規定も設けられた。
なお、SRPの承認後、旗国による最終検査においてSRPの検証が行われることとなった。
Bインベントリ作成ガイドライン案等
従前より、日本・ドイツ共同でインベントリ(*)作成ガイドライン案およびリサイクル施設に関するガイドライン案が作成されていたが、今次会合では、実際にインベントリ作成トライアルを行った結果を反映させた修正案の提案を行った。
審議の結果、両ガイドライン案についてはMEPC59での最終化を目指して、事前にコレスポンデンス・グループ(メール等を利用して審議を行うグループ)を設置して検討を行うこととなり、同グループのリーダーを、わが国国交省海事局安全基準課の大坪国際基準調整官が務めることとなった。
(*)インベントリ:船舶に存在する有害物質の一覧表
C新たな有害物質の追加
デンマークより、条約の附録TおよびUに3種類の新たな有害物質を追加するよう提案がなされたが、審議の結果、これらの追加については2009年7月のMEPC59において再検討することになった。
国交省によれば、同物質が追加された場合、船舶における含有について過去に遡って情報を得ることが困難としている。一方で、同物質にはストックホルム条約(残留性有機汚染物質に関する条約)において近々使用禁止とされる予定のものもあるため、この影響でリサイクル条約に追加される可能性がある。この場合、現存船インベントリの作成に支障をきたす懸念があるため、今後の検討状況を注視する必要がある。
D今後のスケジュール
・2009年5月11日〜15日:条約採択外交会議(於:香港)
・2009年7月13日〜17日:MEPC59(関連ガイドラインの審議および採択)
2.国連環境計画(UNEP)バーゼル条約第9回締約国会議(COP9)
国連環境計画(UNEP)による「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」(以下、バーゼル条約)においては、2004年10月の第7回締約国会議(COP7)以降、IMO新条約がバーゼル条約と同等の管理と執行のレベルを確保することを目指して検討が行われてきた。
その後、2008年6月23日から27日にかけ、インドネシア・バリ島においてバーゼル条約第9回締約国会議(COP9)が開催され、環境上適正な船舶の解撤が主要議題の一つとして審議された。その概要は次の通りである。
@全体委員会(Committee of the Whole=COW)における審議
2006年11月のバーゼル条約COP8において、船舶の解撤の環境上適正な管理に関する決定[/11が策定されている。
今次会合では同決定に基づき、IMOシップリサイクル新条約がバーゼル条約との二重規制を避けつつ、バーゼル条約と同等の管理レベルの環境に配慮した安全な条約となるよう、協議グループ(Contact Group=CG)を設置して新たな決定(decision)を作成し、これをもとに次回のバーゼル条約公開作業部会(Open-ended Working Group=OEWG)で作業を行ってはどうかとの提案が、バーゼル条約事務局よりなされた。
審議の結果、CGを設置することが合意されたため、議長より、英国のRoy Watkinson氏を議長とするCGにおいて新たな決定に関する検討を行い、COWにその結果を報告するよう要請がなされた。
A船舶解撤に関するCGにおける審議
審議の過程では、主としてEU(代表して仏が発言)、インド、中国等が多くの発言をしたが、これらはOEWGに要請する事項の修正に関する内容であり、IMOシップリサイクル新条約そのものを否定する発言はなかった。一方、環境派NGOからは、リサイクル新条約とバーゼル条約の同等性について批判的な発言があったものの、これに賛同する意見はほとんど無かった。
審議の結果、次を骨子とする決定案が合意された。
・次回OEWGに次のことを要請する。
‐採択されたIMOリサイクル条約がバーゼル条約と同等レベルにあるかどうかの予備評価を行う。
‐要すれば、@船舶および外航海運の特性、Aバーゼル条約およびその関連決議、Bバーゼル締約国から提出されたコメントを考慮した、評価のためのクライテリアを作成する。
‐これらの結果を次回COP10に報告する。
・バーゼル条約事務局に対して、IMO、ILOと協調して、持続可能なシップリサイクルに関するプログラムの開発作業を継続し、その結果をOEWGに報告することを要請する。
本決定案は、CG終了後、COWおよび全体会議(Plenary)に報告され、了承された。
B総括
今次会合では、事前にEUがEU域内で調整した決定修正案を提示したこともあり、CGにおける審議の過程では特段の反対意見もなく合意に至り、前回COP8の際のような大きな混乱は無かった。
しかしながら、同決定では、IMOシップリサイクル新条約の管理・執行レベルの同等性評価を行うための準備を行うこととされているため、次回OEWGではその対応が必要となってくると思われる。特に、環境派NGOが同等性について否定的な主張をしてくるのは間違いないため、それに対する対応が重要となってこよう。
なお、今後の予定としては、次回COP10が3年後の2011年に予定されており、それまでの間に開催されるOEWGは2009年後半あるいは2010年前半に開催されることが予想される。
2・7・3 国内の取り組み
(1)国内関係者による検討体制
国土交通省は、国際機関におけるシップリサイクルに関する審議への対応や、その基礎となる調査等の方針について総合的な検討を行うため、2002年6月、海運、造船、解撤の各業界、海事研究機関および学識経験者からなる「シップリサイクル検討委員会」を発足させた。
また、同委員会の下にヤード委員会(タスク:ビジョンの策定および同策定のための基礎調査、リサイクルのための途上国育成等。2007年度までのシステム委員会を改組)、インベントリ委員会(タスク:シップリサイクル条約への対応、現存船インベントリ作成への対応、シップリサイクル関係ISO規格の策定等)を設置して個別案件に対応している。
(2)インベントリ作成に向けた準備
シップリサイクル条約に規定される新造船/現存船のインベントリは、条約上では船主に対して作成・備え付けが義務付けられているものの、船主のみではその作成が困難なため、政府、造船、舶用工業、船級等関係者の協力・関与が不可欠である。
新造船については、舶用工業の協力を得て造船会社がインベントリを作成し、現存船については、条約に規定される「専門家」が作成することとなっており、これら作成されたインベントリは、政府または船級等の機関によって鑑定が行われた後、国際証書が発給されることとなる。
シップリサイクル条約では、現存船インベントリは条約発効後5年以内に船舶に備え付けることとされているが、現在、NK船は約6,500隻あると見込まれており、これら多数の現存船のインベントリがスムースに作成されるよう、その体制作りが急務となっている。
このため、現存船インベントリの作成スキームおよび専門家の育成について、関係者による検討が進められているところである(資料2-7-3 図「現存船インベントリ作成に向けた準備状況」ご参照)。
(3)室蘭シップリサイクル研究会の発足
環境に配慮した先進国型のシップリサイクル・システムの構築を目指して、産官学の連携のもと、室蘭シップリサイクル研究会(座長:室蘭工業大学 清水一道 准教授)が2008年4月に設置された。
同研究会は、内閣府による2008年度(平成20年度)「地方の元気再生事業」に選定され、市民向けシンポジウムの開催や小型船の解撤とその再利用に関する調査研究などを実施した。
以上