3.国際関係
3・1 外航船社間協定に対する独禁法適用除外
外航定期船(コンテナ船)に係る船社間協定は、主に海運同盟(運賃タリフ設定)、協議協定(各種ガイドラインの設定)およびコンソーシア(船腹共同配船)に大別され、日米欧では長年に渡り独禁法からの適用除外が認められ、一定条件下での協定の締結と活動が認められてきた。
そのような中で、唯一EUが2008年10月を以って海運同盟に対する独禁法適用除外制度を廃止したものの、欧州委員会は同制度廃止以降も一定の船社間情報交換活動を認めるガイドライン(以下3・1・2のAを参照)を08年7月に発表している。また、コンソーシアについては個別規則によりその活動を認めている。
当協会は、船社間協定に対する独禁法適用除外制度が良質なサービスと運賃の安定供給並びに将来の荷動き増に備えた船舶投資を継続的に行なっていく上で必要な制度であり、海運業界のみならず荷主を含む貿易業界全体にとって有益であるとの考え方から、同制度維持に向けた対応を行なっている。
3・1・1 日本
わが国では海上運送法の下、船社間協定(含む定期・不定期船)に対する独占禁止法適用除外が国土交通省への事前届出を条件に認められている。
2006年3月、公正取引委員会(公取委)の「政府規制等と競争政策に関する研究会」(規制研)は外航海運に関する独禁法適用除外制度(除外制度)について検討を開始、公取委は規制研の最終報告書を踏まえ、同年12月6日、海運同盟によるサーチャージ設定や運賃修復は荷主の利益を害しているおそれがあることや、EUが除外制度を2年後の2008年に廃止することを決定したことなどから、「今日においては前回海上運送法改正(1999年)時の除外制度維持理由は成立していない」との見解を示しつつ、同制度が海上運送法に規定されていることから、制度の要否は国交省での検討と判断が必要として、同省での検討を期待するとの見解を公表した。これに対し、国交省は同日付で、現行の除外制度は有効に機能していると認識するが、上述の公取委の見解も踏まえ、今後所管省として制度のあり方について十分な検討を行うと発表。翌07年には、国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会の海事分科会 国際海上輸送部会(部会長:杉山一橋大学学長)が、2007年10月から3回に渡って除外制度のあり方について審議し、同年12月、船社間協定が認められてきた背景にある外航海運の主な特性などについて整理した上で、日本の除外制度のあり方については関係者の意見を踏まえつつ、更に検討する必要があると国交相に答申した。(詳細は『船協年報2008』参照)
除外制度のあり方については、国交省外航課、学識経験者、日本荷主協会および当協会が参画する海運経済問題委員会(委員長:杉山一橋大学学長、主催:日本海事センター)においても率直な意見交換が継続的に行われており、2008年12月までに述べ18回の会合が開催された。
また、当協会は、船社・荷主との対話フォーラムとして、04年11月以降、定期的に開催されているコンテナ・シッピング・フォーラム(主催:日本海事新聞、後援:国土交通省)に日本荷主協会とともに協力しており、08年12月のフォーラムでは船社側から、北米航路、南米/アフリカ航路そしてアジア域内航路の足元の荷動きや09年の需給見通しについて説明が行なわれた後、船社・荷主間のパネルディスカッションが行なわれた。
3・1・2 EU
(1) EU競争法ガイドライン
欧州連合(EU)は、06年9月、定期船同盟をEU競争法の包括適用除外とする欧州理事会規則4056/86を08年10月18日付で廃止することを決定した。一方、不定期船分野については、06年10月18日より同分野にもEU競争法を適用することとされた。
このため、欧州委員会は、海運分野(定期船・不定期船)に同競争法を適用する際のガイドライン案を07年9月14日付で発表し、その内容について関係者からコメントを求めた。
(ガイドライン案概要は『船協海運年報2007』参照。当協会コメントは【資料3-1-2-1】)
【関係者コメント概要】
・定期船分野
‐船社(ELAA*1/ECSA(欧州船主協会)/ICS(国際海運会議所)/当協会)
ガイドライン案の骨子については支持するものの、ガイドライン(確定版)ではいかなる情報交換がEU競争法上認められるのか、実例を用いて明確にすべき。
‐荷主(ESC*2)
船腹予測情報が公表されたものであっても、情報交換が船社のみが参加する会合で行われるのであれば、同交換を認めるべきではない。
‐フォワーダー団体
船腹予測や価格指標に関する情報交換は競争制限効果を有しうる。データベースの運営はELAAではなく、独立機関によって行われるべきであり、ガイドラインの有効期間は5年から2年に短縮すべき。
*1 ELAA:European
Liner Affairs Association
EU競争法適用除外制度見直しを契機に、欧州発着の定航船社が組織した対EUロビイング団体。加盟船社は09年3月時点で27社。本部はブラッセル。
*2 ECS:European Shippers’ Council
欧州荷主協議会。1963年にENSC(欧州各国荷主協会)として設立。物品の海上および関連複合輸送にかかわる問題について加盟国荷主の共通利益を推し進め、支援する目的の協議会。欧州など12カ国の荷主協会などが会員。本部はブラッセル。
・不定期船分野
‐船社 (ECSA)
ガイドライン案において、バンカー/バルクプールの主な機能として"price fixing"を挙げ、過度の競争制限があるかのように言及するのは適当ではない。
その後、欧州委員会はECN(European Competition
Network)会合及び同委内部(競争当局/運輸当局)での検討等を踏まえ、08年7月1日、ガイドライン(確定版)を発表した。同ガイドラインでは、定期船分野につき、新たに”Trade Associations”に関するパラグラフを追加したが、それ以外の点では原案(昨07年9月14日付発表)に若干の加筆修正を行なうに止まった。同ガイドラインの主な追加点は以下の通りである。
@定期船分野
欧州委は同ガイドライン(確定版)に、”Trade Associations”を以下行為に利用しないこと
を条件に、他の業界と同様、同組織にて協議及び情報交換をすることができる旨明記した。
(a) カルテル協議
(b) メンバー船社に対する反競争的決定/勧告の発出
(c) 当該情報交換がEC条約第81条3項*(競争法を適用しない協定の要件)を満たさず、定期船市場の不確実性を減少/除去し、船社間競争を制限するような情報交換
*EC条約81条3項(競争法を適用しない協定の要件)
(1)物品の生産/分配の改善、又は技術的/経済的発展の促進に寄与するもので、消費者にその結果相応の便益を与える企業間協定であり
(2)当該企業に対し、上記の目的達成に不可欠でない制限を課さないもの
(=絶対必要な制約だけを課すもの)
(3)当該企業に対し、生産品の本質的な部分について競争を排除する可能性を与えないもの
【参考:同除外制度廃止後のELAAの活動について】
これまでガイドライン(定期船分野)の内容について欧州委員会(DG Comp)と折衝してきたELAAは、引き続きDG Comp等に対してロビー活動を行なうとともに、除外制度廃止後は”Trade Association”として情報交換システムを運営。具体的には、ブラッセル(本部)の他、新たに英国及びシンガポールに事務所を設置し、契約会社(P3 Technology)が取り纏めたデータ及び一般的な市場情報をもとに、欧州発着航路に関するレポートを発行している。
A不定期船分野
欧州委はガイドライン案において、「タンカー・バルクプール協定(以下「プール協定」)
の形態は一様でないため、当協定が競争法に違反するか否か、同法に違反する場合には、当該協定が81条3項4条件を満たすのか否かについて、その都度分析しなければならいない」との見解を示していた(案パラ63)。同委は上記見解を踏襲しつつも、「一般的なプール協定は、”joint selling”及び”joint production/operation”の特徴を有しており、当該協定が後者に重点を置く場合にはEU競争法に違反する可能性は低い」との新たな見解を同ガイドライン(パラ62)及び”frequent asked question”(欧州委がガイドラインとともに発表したペーパー)で明らかにした。
EU競争法ガイドラインの有効期間は5年となっており、欧州委員会は現在、同ガイドラインを指針に、定期船コンソーシアを除く外航海運分野全体(定期船・不定期船)に対し競争法を適用している。
(2) コンソーシア規則改定案について
定期船コンソーシアについては、欧州委員会規則823/2000に基づき、2010年4月を期限にEU競争法の適用除外が認められている。
欧州委は、現行規則が同盟制度の存在を前提としているため、4056/86廃止前から823/200の改定作業に着手し、その改定案及び”Technical Paper”(規則変更点説明文書、以下「TP」)を08年10月21日付でEU官報に掲載するとともに、同年11月21日を期限に関係者から同改定案に対するコメントを募集した。
同改定案は現行規則と比べ本質的な変更点はないが、「一時的な船腹調整」の代わりに「需給変動に応じた船腹調整」を認める一方、同盟廃止に伴い、現行規則が同盟/盟外で区別する競争法適用除外対象のマーケットシェアを一律30%未満とし、マーケットシェアの合算方法に関する規定を新たに加えた。
マーケットシェア合算方法案(改定案第5条第2項およびTPパラグラフ75-79参照)
ケース@
‐同一航路において、船社A・Bによるコンソーシアムと船社Bによる単独配船が同時に存在する場合。
→コンソーシアムのシェアと船社Bの単独配船分のシェアを合算。
ケースA
‐同一航路において、船社A・Bによるコンソーシアム1と船社B・Cによるコンソーシアム2が存在する場合。
→船社AとCの間に契約関係がなくても、当該航路の船社A,B,Cのシェアを全て合算。
なお、同改定案の有効期間は2010年4月26日から5年間となっているが、欧州委はTPパラ15において、同規則823/2000は運輸部門における最後の包括適用除外規則と指摘、「2008年10月に、価格設定同盟の廃止(=規則4056/86廃止)という定期船業界において重要な変化があること、及びコンソーシアには一定の経済効率性があることを考慮すると、823/2000を(2010年から)更に5年延長し、他の全ての経済分野に適用されている一般的な競争レジームへの移行を促進する(facilitate the
transition to the standard competition regime applied to all other economic
sectors)に足りるだけの意義は認められる。」とし、改定規則を2015年以降更新しない可能性を示唆している一方、「現行規則は現時点で、船社/荷主双方にとって有効に機能していると思われる」との見解を同時に示した。
そのため、当協会は、コンソーシアに対する包括適用除外制度は質の高い定期船サービスを提供し、多様な荷主のニーズに応えるためには不可欠であり、EUが除外規則をより長期に渡り維持すること等を要望する内容のコメントを、08年11月21日付で欧州委員会に提出するとともに(当協会コメント全文は【資料3-1-2-2】)、09年2月には、定航3社(NYK,MOL,KL)の欧州地区代表および事務局の園田常務理事が欧州委を訪問し、直接の意見交換を行なった。一部情報によれば、同改定規則(確定版)は09年秋に採択される見込みである。
3・1・3 米国
米国においては、1999年5月に施行されたOSRA(Ocean Shipping Reform Act:1998年改正海事法、正式名は1998年外航海運改革法によって修正された1984年海事法)により、連邦海事委員会(FMC)への事前届出を条件に、定期船社間協定に対する反トラスト法適用除外が認められている。
2003年に発足した同国独禁法改革委員会(AMC)は、反トラスト法全体の見直し(含む定期船社間協定に対する適用除外制度)に着手し、WSC*1等関係団体が出席する公聴会の開催等を経た上で、07年4月に最終報告書を大統領および議会に提出した(詳細は『船協海運年報2007』参照。同委員会は同年5月に解散)。同報告書の中で、海運業界については反トラスト法適用除外にする特別な理由はないと結論付けているが、その後同国議会で除外制度廃止を求める目立った動きはみられていない。
*1 WSC
: World Shipping Council
米国ワシントンに本部を置き、米国海運政策問題への対応を主な目的とする世界主要船社約30社の団体。
3・1・4 中国
1994年より制定作業が行われてきた中国独占禁止法は、07年8月に全国人民代表大会常務委員会で採択され、08年8月1日に施行された。これまで同国では国際海運条例によって同盟・協議協定が認められてきたが、同法施行後も引き続き船社間協定が認められるか否かにつき、中国政府からの公式な発表はされていない。しかしながら、08年6月に東京で開催された日中海運政策フォーラム(日中両国の海運当局(局長クラス)と民間の合同フォーラム)において、中国代表は、中国独禁法施行後も引き続き国際海運条例は施行されている(“enacted”)と議事録で確認している。
3・1・5 インド
同国では、2003年に競争法(Competition Act, 2002)が施行され、船社間協定に対する適用除外法令は存在しないものの、IPBCC(India Pakistan
Bangladesh Ceylon Conference)*等の同盟・協議協定の活動はその後も行なわれていた。このような中で、同国議会は2007年9月、競争委員会(CCI)に課徴金権限を付与する改正競争法を採択した。同法は09年3月時点で未施行のままであり、また、同法施行後の船社間協定の取り扱いについて、同国政府からの公式発表はない一方で、CCIは各船社代表との会合等において、船社間協定は一般的に反競争的であるとの見解を示している。
なお、同法に違反した企業に対しては、直近3年間の平均年間売上(turnover)の10%、または違反行為によって得た利益の3倍額のいずれか高い額が罰金として科されることになる。
*IPBCCは08年10月に解散。
3・1・6 香港
香港では、これまでのところ競争法が制定されていないが、同政府が06年11月に同法制定の要否などについて関係者から意見を募集したところ、意見の多くが分野横断的な競争法の新規導入を支持した。
これを踏まえ、同政府商務・経済発展局(Commerce and Economic
Development Bureau)は、競争法策定作業を進めており、08年5月には同法に関する提案書を公表、8月5日を期限に関係者のコメントを求めた。
同提案書では、競争制限を目的とする協定/協調行為及び市場支配力の濫用などを競争法違反行為とする一方、協定等が経済的利益をもたらし、それが反競争的行為による危害を上回るものであれば、競争委員会は包括適用除外を認めうるとの政府見解を示しているが、船社間協定に対する適用除外制度に関する具体的な記述はない。
当協会は、ICS(国際海運会議所)や香港船主協会などと連携し、日本・米国・シンガポール等と同様、香港においても船社間協定に対する競争法適用除外措置の制定を求めるコメントを香港政府に提出した【資料3-1-6-1】。その他、シンガポール船協や韓国船協も同様のコメントを香港政府に提出している。