5・5 国際港湾問題
5・5・1 スエズ・パナマ運河問題
(1)パナマ運河通航料改定問題
パナマ運河通航料については、当協会をはじめとする海運関係者の反対にも係わらず、同運河拡張を理由として、3年間で26%〜34%もの大幅な値上げが2007年7月1日に実施された。
その後、2008年後半に始まった世界的な不況の影響により海運市況も下落したことから、ICS等国際海運団体(ICS、BIMCO、INTERCARGO、INTERTANKO)は、2009年2月、パナマ運河庁に対して書面や会合を通じて、同年に予定されていた通航料の値上げを凍結するよう要請を行った。
しかしながら、運河庁からの回答は、「2009年に予定されている通航料の値上げは新規のものではなく、すでに2007年に計画された段階的値上げの一環である。通航料の改定は、パナマの法律に基づく審議を経たものであり、料金凍結の権限を運河庁は有していない」とし、通航料の凍結/値下げについて否定的なものであった。
(2)スエズ運河・パナマ運河通航船実態調査
当協会は、毎年会員各社の運航船舶(外国用船を含む)について、スエズ、パナマ両運河に係る通航実態並びに通航料支払実績の調査を実施しており、今般、その結果がまとまった。
調査対象期間は、従来より各運河運営団体の会計年度に合わせて調査しており、本年度においても、スエズ運河については2007年1月1日より同年12月31日まで、パナマ運河については2007年4月1日より2008年3月31日までとした。
なお、通航料については用船契約によって用船者等が支払う場合があるため、通航料の支払い実績が不明のものがあった。このため、表中の通航料支払い実績は、調査回答船社が確認できる範囲での実績を集計したものである。
また、2004年より、パナマ運河におけるコンテナ船の通航料は、従来のPCNTベースからTEUベースの料金とする課徴方式に変更となっているため、今回の調査から延TEUを記載することとした。
[スエズ運河]
スエズ運河の利用状況は、通航船社数が前年度比較で5社増の21社、利用隻数は20.7%増加(2007 年:1,595隻/2006 年:1,322隻)した。G/Tベ−スでは39.3%増加(2007年:85,595千G/T/2006年:61,426千G/T)し、D/Wベ−スでは48.8%の増加(2007年:77,905千D/W/2006年:52,359千D/W)であった。
また、料率の基本となるスエズ運河トン数(*1 SCNT : Suez Canal Net
Tonnage)ベ−スでは43.2%の増加(2007年:82,960千トン/2006年:57,929千トン)となり、全体の支払通航料も36.0%増加(2007年:449,637千米ドル/2006年:330,653千米ドル)となった。(表1参照)
船種別で見ると、タンカーが前年度比較で延べ32隻(17.4%)増加し216隻、SCNTベ−スで47.1%増加(2007年:3,927千トン/2006年:2,670千トン)、通航料も30.9%増加(2007年:25,447千米ドル/2006年:19,440千米ドル)した。コンテナ船は延べ145隻(28.9%)増加し646隻、SCNTベースでも70.6%増加(2007年:41,983千トン/2006年:24,607千トン)、通航料で42.5%増加(2007年:235,352千米ドル/2006年:165,140千米ドル)となった。また、自動車専用船は前年度比較で延べ68隻(13.3%)増加し579隻、SCNTベ−スで17.3%増加(2007年:29,517千トン/2006年:25,167千トン)、通航料も27.6%増加(2007年:158,392千米ドル/2006年:124,149千米ドル)となった。(表2参照)
[パナマ運河]
パナマ運河の利用状況は、通航船社数が前年度と同数の18社となり、利用隻数は5.3%減少(2007年:1,216隻/2006年:1,284隻)した。G/Tベ−スでは33.9%増加(2007年:74,286千G/T/2006年:55,484千G/T)するとともに、D/Wベ−スでは11.8%の増加(2007年:47,622千D/W/2006年:42,608千D/W)であった。
また、コンテナ船以外の船種の料率の基本となるパナマ運河トン数(*2 PCNT : Panama Canal
Net Tonnage)ベ−スでは58,688千トンとなり、コンテナ船の料率のベースとなるTEUは1,127千TEUとなった。この結果、全体の通航料では14.7%の増加(2007年:204,925千米ドル/2006年:178,590千米ドル)となった。(表3参照)
船種別では、タンカーが前年度比較で延べ4隻(10.5%)増加し42隻、PCNTベ−スで57.3%増加(2007年:700千トン/2006年:445千トン)、通航料も153.5%増加(2007年:2,299千米ドル/2006年:907千米ドル)と前年に比べ大幅な増加となった。また、コンテナ船が延べ9隻(3.0%)増加し306隻となり、通航料は19.6%(2007年:81,965千米ドル/2006年:68,536千米ドル)の増加となった。このほか、自動車専用船は前年度比較で延べ88隻(13.6%)減少し559隻、PCNTベ−スでも11.2%減少(2007年:27,467千トン/2006年:30,925千トン)したものの、通航料は10.4%増加(2007年:94,584千米ドル/2006年:85,643千米ドル)となった。(表4参照)
*1 スエズ運河トン数 (SCNT : Suez Canal Net Tonnage)
1873年の万国トン数会議で定められた純トン数規則をもとに、スエズ運河当局独自の控除基準を加えて算出する。二重底船の船底にバンカー油を積載した場合その部分の控除を認めない等、パナマ運河や各国の規則とも異なる独特のもの。
*2 パナマ運河トン数 (PCNT : Panama Canal Net Tonnage)
1969年のトン数条約による国際総トン数の算出に用いた船舶の総容積に、パナマ運河当局独自の係数をかけて算出する。船舶法に定める総トン数、純トン数とは異なる。