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プレスリリース

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2009年5月29日
社団法人日本船主協会

第18回アジア船主フォーラム 共同声明

第18回アジア船主フォーラム(ASF)は、2009年5月25日?27日、台湾の台南市で開催された。会合には、豪州(ASA)、中国(CSA)、台湾 (NACS)、香港(HKSOA)、インド(INSA)、日本(JSA)、韓国(KSA)、アセアン(アセアン船主協会連合(FASA):インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの船主協会により構成)の各船主協会代表118名が出席した。台湾船主協会の会長である Arnold Wang氏が会合の議長を務めた。同会合終了後に、ラウンドテーブルを構成する国際海運団体(ICS, BIMCO, INTERTANKO, INTERCARGO)代表者とのセミナーが開催された。

第18回ASFは、インド船主協会(INSA)のASF新メンバーとしての加入を心から歓迎する。INSAは80年前に設立され、現在メンバー数は36 社、登録船腹量は計9.02百万G/Tに達しており、これはインド船腹量総計の90%に相当する。INSAの加入により、ASFは、今や世界船腹量の 50%近くを代表することとなり、ASFの歴史において新たな節目を迎えることとなった。

ASFは、世界の海運業界に影響を及ぼす諸問題について、アジア船主が自らの意見を調和させ、かつ合意に基づいてより一層表明していかなければならない、との強い決意を再確認した。

ASFは、パナマ運河庁(ACP)が現在の経済危機を踏まえ、09年4月30日に同運河通航料の短期値下げを発表したことに留意した。しかしながら、同値下げの有効期間が2009年6月1日から同年9月30日までの間に限られているため、ASFはACPに対し、長期間に渡るより効果的な値下げを実施するよう要請することに合意した。

ASFは5つの常任委員会を通じ、先取り的かつ効果的な方法で、海運業界の主要案件に引き続き対応しており、総会で強調された重要案件に関する各委員会の見解と活動の概要は以下の通りである。

シッピング・エコノミックス・レビュー委員会(SERC)
 ASFは、第21回SERC中間会合が2008年12月10日に東京で開催されたことに留意した。同委員会委員長である芦田昭充氏は、その報告の中で以下の点を強調した。

世界経済
 ASFは、金融危機が世界的に広がり、アジアの海運業界が極めて困難な経済環境にあることに留意した。出席者は、危機が自らのビジネス・モデルを包括的に見直す好機になり得るという事実に鑑み、この危機の根本的な意味合いを冷静に熟考するよう求められた。

ドライバルク/タンカー部門
 2009年のドライバルク市況は、先進国向け荷動きの回復が遅れていることや新造船竣工が同年下半期に集中していることから、厳しい情勢の中で推移していくであろうことに留意した。一方、新造船の解約件数が1000隻に達し得るとの東京会合での予想が今や現実になりつつあり、また、2008年9月以降の500隻以上の活発な解撤によって、今後のドライバルク市況が活気付けられるものと認識された。タンカー部門については、100隻以上のシングルハルタンカーが2009年から2010年末までに市場から撤退する一方、2009年だけでも新たに60隻以上のVLCCが竣工することが予想される。我々は、船腹過剰である現在のタンカー市況が当分の間続くとの懸念を共有した。

定期船部門の現状
 金融危機による”TSUNAMI”の衝撃的な影響が、太平洋およびアジア域内トレードに明らかに及んでおり、アジア定航船社のCEOは、上記航路における持続可能な定航ビジネスの運営を確保するため、現状に合理的かつ忍耐強く対処し、顧客に対し、船社が直面している困難な状況を十分に知らせることが要請された。

定期船海運に対する独禁法適用除外制度
 ASFは、独禁法適用除外制度が健全な海運業界にとって不可欠であるというASFの長年の立場を再確認した。2008年10月に公表されたEUコンソーシア規則については、コンソーシア制度の利点と役割への更なる理解を深めるため、引き続き関係者と連携していくことで合意した。

SERC委員長
 ASFは、芦田昭充氏が2005年から務めてきたSERC委員長職を工藤泰三氏(日本船主協会常任理事・日本郵船社長)が引き継ぐことを承認した。ASFは、SERC委員長としての芦田氏の尽力に対し感謝の意を表した。

シップ・リサイクリング委員会(SRC)
 ASFは、SRCの第12回中間会合が2009年3月30日に台北で開催されたことに留意した。本委員会の委員長であるArnold Wang氏は、委員長報告で次の事項について強調した。

安全かつ環境上適正な船舶のリサイクルに関する国際条約
 ASFは、IMO海洋環境保護委員会(MEPC)で作成された「安全かつ環境上適正な船舶のリサイクルに関する国際条約案」の最近の検討状況について議論を行った。ASFは、条約草案を2008年10月開催のMEPC58が承認し、2009年5月11日から15日にかけて香港で開催された外交会議で採択されたことに留意した。ASFは同条約を支持するとともに、IMO加盟国に対し、条約に適合したシップリサイクル施設の能力が早期に利用可能となることを確保するために、可及的速やかに同条約を批准するよう要請する。この点においてASFは、すべての関係者に対し、(条約体制への)移行段階に、リサイクル・キャパシティの向上と条約体制への準備を進めるよう促すものである。

環境問題について懸念
 世界経済の悪化に伴い、世界の海上荷動き量が大幅に減少した。これに関連し、船主は老朽かつ非効率な船舶をリサイクル処分する必要に迫られている。ASFは、近い将来、環境上適正な施設でシップリサイクルを実施する能力が潜在的に不足する懸念があることに留意し、また、効率的かつ安全で環境に優しいシップリサイクルを継続するために、慎重な検討が必要であることを認識した。この点でASFは、余剰となった造船能力を環境上許容可能なリサイクル施設とすることに再び焦点を当てるよう検討を促すものである。

ISO 30000シリーズ
 ASFは、主としてリサイクル施設の管理、運用、監査、第三者認証を扱う国際規格ISO 30000シリーズに関するISOの活動が、新条約案およびその関連ガイドラインの策定に関するIMOの活動と重複する可能性があることに懸念を表明した。ASFは、MEPC58において、ISO 30000シリーズがIMO条約案および関連ガイドラインの規定と重複し、このため関係者を混乱させるだろうとの懸念を多数の国が表明したことに留意した。それ故ASFは、シップリサイクルの効率的な運用を促進するため、ダブルスタンダードとなる可能性は排除されるべきであると考える。

 最後に、より安全かつ環境上適正なシップリサイクルを船主が推進するための方策について、国際海運業界の主要な関係者であるアジア船主は、引き続き議論していくことを確認した。

船員委員会(SC)
 ASFは、SCの第14回中間会合が2008年11月21日、クアラルンプールで開催されたことに留意した。同委員会の議長であるLi Shanmin氏が、この1年間の活動報告を行った。

アデン湾における海賊行為
 ASFはSCとともに、アデン湾を通航する船舶に乗組む船員の安全性に深刻な脅威を呈する同地域における船舶への襲撃について、重大な懸念を表明するものである。攻撃は依然として継続しており、時折、護衛艦から見渡せる場所でも発生している。ASFは、同海域を通航しハイジャックされた船舶の船員が被る潜在的な精神的外傷(トラウマ)およびその家族が抱く不安について、深い懸念を表明する。

 ASFは、国際連合とIMOにおいて、IMOの海賊対策の一環として、海賊行為および海上武装強盗を防止・処罰することを目的とした既存の国内法を見直す動きがあることに、謹んで留意するものである。さらにASFは、海賊および攻撃事件から生じる人的要因問題に関する実務行動指針を策定した業界団体のイニシアチブを支持する。

2006年海事労働条約の批准
 2006年海事労働条約(以下「MLC 2006」)の最終的な発効に向けた進捗に謹んで留意するとともに、全ASFメンバーに対し、同条約の早期批准を達成すべく、自国の各行政機関とともに引き続き取り組むよう奨励する。

 ASFは、MLC 2006に基づく検査を実施する旗国および寄港国の検査官のためのガイドラインの策定を歓迎し、メンバーが必要に応じ、自国の各行政機関に対し、同条約を確実に遵守し実施するために同ガイドラインを参照するよう、引き続き奨励することが重要であると考える。

海難事故が発生した時の船員の公正な取り扱い
 ASFは、海難事故後の船員の公正な取り扱いに関するIMO/ILO ガイドラインの実用化に関するSCの議論に留意した。ASFはSCとともに、全ての政府に対し、関連する国際法制に基づき完全な抗弁権がある公正な裁判が船員に提供されることを確保するよう求めるものである。

 ASFは、海難事故が発生した時の船員の公正な取り扱いを確保するためのIMO/ILOの更なる活動を歓迎する。

経済不安と船員の募集・訓練
 世界規模の経済不安により海運市況が劇的に下落し、この結果、船舶の市場からの撤退あるいは係船を背景に、船員の雇用が益々困難となっている。ASFは、雇用の維持という利益を認識し、それ故に、船員の労働条件は、船員が居住する国または地域の経済水準に合致すべきと考えるものである。ASFメンバーは、現下の市況にも拘わらず、可能な限り、船員の募集と訓練についての前向きな活動を維持していくことに合意した。

航行安全および環境委員会(SNEC)
 ASFは、SNEC第15回中間会合が2008年9月15日に、また、同第16回中間会合が2009年3月17日に夫々開催されたことに留意した。SNEC議長 S. S. Teo氏は、主に航行安全および海洋環境保護の問題に関し報告を行った。

海賊および武装強盗
 SNECは、特にソマリア沖/アデン湾における海賊および武装強盗の脅威について、深い懸念を表明した。これらの海域は、現在、世界で最も危険であり、2008年には111件、世界の発生件数の37.9%の海賊事件が報告されている。

 2009年初来、少なくとも13隻、約250人の船員が依然としてソマリアの海賊により捕らえられている。

 SNECは、これらの海賊が船舶の航行安全を脅かし、乗組員の生命を危険に晒しているため、こうした悲惨かつ危険な海賊および武装強盗行為を強く非難するものである。また、原油やケミカルを満載したタンカーが襲撃された場合、深刻な海洋汚染の恐れもある。

 そのため、SNECはASFメンバーに対し、ソマリア沖/アデン湾の警戒にあたる艦船や航空機からの勧告やガイダンスに従い、遵守するよう求める。

 この点において、ASFは、ソマリア沖/アデン湾海域の警備のため、艦船や航空機を派遣またはそれを検討している政府に対し、SNECが深く感謝の意を表したことを支持した。

 現在の経済情勢を考慮し、ASFは全ての政府と沿岸国に対し、海賊攻撃の潜在的な危険を抑止するよう、艦船および航空機による監視活動を増強するよう要請する。同時に、SNECは、全ての船長に対し、警戒を怠らず、海賊の襲撃を抑止するための最良の実務慣行を励行するよう求める。

マラッカ・シンガポール海峡における安全、保安および環境保全の強化
 SNECは、マラッカ・シンガポール海峡における協力メカニズム(*)への支持を再確認し、また、同海峡における安全、保安および環境保全を強化するため、協力フォーラムに積極的に参画する意思があることを表明するものである。

 SNECは、航行援助施設基金への各国および業界関係者の自発的な寄付、特に最近の日本船主協会による寄付を歓迎する。

(*) 協力メカニズムは、協力フォーラム、プロジェクト調整委員会、航行援助施設基金により構成される。

MARPOL条約附属書VI および温室効果ガス
 SNECは、2008年10月に開催されたIMO第58回海洋環境保護委員会(MEPC58)において、船舶から排出される硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)および粒子状物質(PM)を飛躍的に削減する方策が採択されたことを評価した。

 またSNECは、MEPC58で議論されている、船舶から発生する温室効果ガス(GHG)の審議の進捗に注目した。

 世界的な温暖化と、その気候変動・海面上昇への影響について懸念が高まる中、ASFは、現実的かつ実際的な対策を通じてGHGを削減するというIMOと業界の決意に照らし、IMOは、船舶からのGHG排出削減を議論する唯一の場として、機能を果たすべきとするSNECのポジションを全面的に支持する。

 さらにSNECは、対策については、GHGの全排出量の実質的な削減に効果があると実証されるべきということに合意した。これは、減速航海や技術的な排出削減策の開発と採用などのエネルギー効率方策を通じた、船舶の燃費効率の改善によってのみ実現が可能である。キャップ・アンド・トレード制度の導入は、現実的に適用が難しく、企業に不合理な経済的負担を課すとともに海上輸送活動を抑制する結果になる惧れがある。

船舶保険・法務委員会(SILC)
 ASFは、SILCの第14回中間会合が2009年4月1日に香港において開催されたことに留意した。George Chao委員長がこの1年間の委員会の活動について報告を行った。

船員の犯罪者扱い
 SILCは、不運にも海難事故に巻き込まれた船員の処遇について、深い懸念を示した。そうした事故に巻き込まれた船員が、刑事罰上の過失の度合いからではなく事故の被害に対する社会の関心に応えるため、犯罪者として扱われることが増えている。

 ASFは、SILCの見解に呼応し、各国政府に対し、そうした事故を政治化すること、また、船員の人権を軽視し、無実が証明されるまでは有罪であるかのように扱うことによって、将来の船員募集および自国の法体系への評価にもたらす弊害について再考することを促した。

遺棄と船員クレーム
 ASFは、2006年海事労働条約の改正案を最終化するため、船員の遺棄および死傷時における請求に対する責任及び保証に関するIMO/ILO合同特別専門家作業部会が2009年3月2?6日、ジュネーブで開催されたことに留意した。

 ASFは、SILCが同作業部会の結果を評価していることに同意し、海事労働条約発効後なるべく早い機会に改正が条約に盛り込まれるよう、IMO法律委員会およびILO総会において改正が早急に承認されることに期待を表明するものである。

アジア政府間からの意見発信
 ASFは、本件に関するSILCの議論に留意するとともに支持し、アジア地域の政府に対し、欧州等の地域レベルで提案される規則について、とりわけそれが国際海運へ影響を与える場合、同提案を検討し、意見発信するための地域的な機構を設けるよう促した。

電子ブルーカード
 ASFはSILCとともに、全ての国に対し、船主が必要とする「国の証書」を迅速かつ効率的に取得することを確保し、また、国とIG加盟クラブ双方の作業負担を軽減するため、同クラブが発行する電子フォーマットのブルーカードを容認するよう要請するものである。

次回会合
 第19回ASF会合は、2010年5月に香港で開催される。

出席者は、台南における第18回ASF会合での卓越した運営に対し、台湾船協会長ならびにそのスタッフに謝意を表した。

以 上
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注 :
アジア船主フォーラム(ASF)は、豪州・中国・台湾・香港・日本・韓国の船主協会、及びアセアン諸国の海運団体で構成されるアセアン船主協会連合から成る任意組織である。ASFの目的は、アジア船主業界の利益を促進することである。 ASF年次総会の間には、5つのS (5-S)委員会(シッピング・エコノミックス・レビュー、船員、シップ・リサイクリング、航行安全および環境、船舶保険・法務委員会)により継続した作業が遂行されている。ASFの船主および船舶管理者は、世界商船船腹の50%近くを支配・運航していると推定されている。

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