2・6 円滑なシップリサイクルの促進

 

261 2004年の世界の解撤実績

ロイズ統計によると2004年の世界の解撤量は、989隻、720万総トン(前年比280隻減、873万総トン減)であった。解撤国別にみると、インドが、206隻、162万総トン(前年比57隻減、427万総トン減)、バングラデシュが123隻、336万総トン(前年比44隻増、47万総トン増)、中国は70隻、154万総トン(前年比49隻減、404万総トン減)、パキスタンは26隻、21万総トン(前年比23隻減、61万総トン減)となり、好調な海運市況を受けてバングラデシュ以外は大幅に解撤量が落ち込んだ。

 

表1.国別解撤実績(Lloyds World Casualty Statistics より)

 

2002

2003

2004

解撤国

隻数

千総トン

隻数

千総トン

隻数

千総トン

インド

326

6,751

383

5,886

206

1,620

バングラデシュ

87

4,894

79

2,890

123

3,357

中国

70

3,139

119

5,582

70

1,538

パキスタン

20

997

49

817

26

209

その他

307

595

339

753

264

471

合計

810

16,377

969

15,928

689

7,195

 

200312月のIMO MEPC50で採択されたシングルハルタンカーのフェーズアウトの更なる前倒し等の影響もあり、今後世界規模で解撤量が増加することが見込まれる。

 

262 国際機関の動向

解撤に向かう船舶を管理する方策については、有害廃棄物の国境移動を規制するバーゼル条約と海運・造船の専門機関である国際海事機関(IMO)との間で、どちらが本問題をリードしていくかを巡って主導権争いが繰り広げられていたが、20057月下旬に開催されたIMO53回海洋環境保護委員会(MEPC53)において、「2008-09年の間に強制化規則を策定する」というIMOの方針が打出されたことにより、シップリサイクルに関する諸問題はIMOを中心に解決していくという方向に大きく前進した。以下は、船協海運年報2004年の記載事項以降の動きである。

 

(1) 1ILO/IMO/バーゼル条約 共同作業部会

 2005215日から17日に国際労働機関(ILO)/国際海事機関(IMO)/バーゼル条約(注1)の第1回共同作業部会(JWG1)がロンドンのIMO本部で開催された。本会合にはIMOよりバングラデシュ、日本、オランダ、ノルウェー、米国、バーゼル条約より中国、ガンビア、ジャマイカ、ロシア、英国、ILOについては雇用者としてISF(国際海運連盟)、BIMCO(ボルチック国際海運協議会)、労働者としてIMF(国際鉄鋼労連)、ITF(国際運輸労連)、等、また、オブザーバーとして16カ国、12団体(含むEC)が参加し、出席者は100名を超えるものとなった。

本作業部会はIMOでの開催であったため、IMO側よりノルウェーが議長として選出され、審議が進められた。本作業部会は、本来はシップリサイクル問題を取扱う3機関の作業の重複を避けることを目的とした調整会合との位置付けであった。しかしながら、バーゼル条約側にはJWGを利用して、シップリサイクルの国際強制要件を検討するIMOに対して、その強制要件がバーゼル条約と同等の効力を有するよう圧力をかけようとする意図が見られ、JWG1ではIMO側との激しいやり取りも見られた。

このような状況下、JWG1では、シップリサイクルに関する強制要件、リサイクル船舶のための通報システム、船舶に含まれる有害物質リスト、等に関する3機関の作業計画、ならびに3機関が作成したガイドラインの項目の比較表が作成された。同作業計画は、IMO MEPCでの検討に干渉するためにJWG1で「旗国責任」と「通報システム」を議論しようとするバーゼル条約側の注意を反らすために、IMO側の参加者が議場で提案し、ノルウェーを議長とする非公式WGで作成されたものである。同非公式WGの検討はノルウェーと日本以外は殆ど環境派という厳しい条件の中で行われたが、作成された作業計画の内容は、IMOが通報システム、強制用件等の検討を進め、その結果についてJWGを通じてILO、バーゼル条約の意見を聞くというものとなった。

また、ガイドラインの項目の比較表については、JWGの付託事項のひとつに“3機関が作成したガイドラインの重複、差異、抵触箇所の検証作業の実施”が含まれていることを考慮し、ILOが提案したものである。これについては英国を議長とする非公式WGで検討されたが、各ガイドラインの比較は膨大な時間を要するとの判断からJWG1では具体的な検討はなされず、JWG2200512月)まで英国を議長とするコレスポンデンスグループで検討を進めることとなった。

(注1)正式名称は、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」

 

(2) バーゼル条約第4回公開作業部会(OEWG4

OEWG4200574日から8日にジュネーブにおいて開催され、船舶解撤が議題のひとつとして議論された。

バ−ゼル条約では200410月の第7回締約国会議(COP7。注2)において、IMOにおけるバーゼル条約と同等の効力を有する強制要件の確立を目指しILO/IMO/バーゼル条約のJWG等を通じてIMOに圧力をかけていく旨合意されていたが、20052月の第1JWGにおいては「通報システム」や「旗国責任」など実質的な議論をしたいとするバーゼル条約側をIMO側が抑えつけ、それらについては第2JWGの検討事項とすることで収束した。そのため、不満を抱えるバーゼル条約側が、OEWG4において、条約を船舶に適用するための議論を再燃させる懸念もあった。

このような状況下、OEWG4では、“船舶解撤の環境上適切な管理”が主要議題のひとつとしてあげられ、IMOで検討されている「通報スキーム」とバーゼル条約の「事前同意スキーム」とを比較検討するための文書がバーゼル条約事務局により事前に準備されていた(注3)。 また、議場でもEU議長国の英国より、「通報スキーム」と「事前同意スキーム」の違い等に関するディスカッション・ペーパーが配布されたが、結局会期を通じて具体的な検討は行われず、“船舶解撤の環境上適切な管理”に関する決議の議論に終始した。

同決議には、バーゼル条約の「事前同意スキーム」とIMOの「通報スキーム」の違いや船舶解撤の環境上適切な管理(ESM)を高めるための方策について関係国/関係者に意見を求め、第2JWGに向けてバーゼル条約側の意見を纏める等の内容が盛り込まれている。議論の過程で、インドが船舶解撤のESMに関する旗国・船主の責任について意見を求めるべきと強く主張、欧州唯一の解撤国であるトルコがバーゼル条約上の「事前同意スキーム」を実施すべきとの主旨で強く発言を繰り返し、またBAN(注4)が船舶解撤の議論の中心をバーゼル条約に持ってくることを意図した発言を終始行っていたが、EUを中心にIMOでの議論対しどのようにバーゼル条約側の意見を反映させるかというスタンスが大勢を占め、そのような強い意見は極力決議には含まれないこととなった。(同決議は資料2-6-2-1参照

OEWG4で明らかになった点としては、EUを中心に、条約を船舶に適用するための法的議論は一時中断し、IMOで検討されている強制要件にバーゼル条約側の意見反映を行うべきとする動きが大勢を占めてきたということである。この意味で、決議の作成自体もIMOに圧力をかけるひとつの手段であると思われる。今後IMOで強制要件の具体像が見えてくるにつれて、バーゼル条約側がIMOへの圧力を強めてくることも予想される。

このほか、OEWG4では、200512月に予定されているJWGへの意見提出等を関係国/関係者に求める“ILO/IMO/バーゼル条約 共同作業部会”に関する決議、および“遺棄船舶”に関する決議(資料2-6-2-1参照)が作成されたが、これらについては大きな議論はなかった。

(注2)バーゼル条約では、200410月のCOP7において、IMOでのシップリサイクルに関する強制要件の検討継続を要請する一方、OEWGでも船舶解撤の現実的解決を達成するための実務的、法的、技術的審議を継続し、2008年秋のCOP8に、IMOJWGの作業を考慮して、船舶解撤の法的解決策(※この法的解決策はバーゼル条約の枠組みに限定するものではない)を提案する旨の決議が採択された。

(注3)有害廃棄物の国境移動を規制するバーゼル条約の「事前同意スキーム」は、輸出国が輸入国と通過国の同意を得た上で有害廃棄物の輸出を行うこととしている。一方、IMOの「通報システム」案では、現在のところ、船主が旗国に、リサイクルヤードがリサイクル国に通報するという内容となっており、リサイクル国の同意という概念は含まれていない。

(注4)バーゼル・アクション・ネットワーク。バーゼル条約専門の環境団体。

 

(3) IMO53回海洋環境保護委員会(MEPC53

MEPC532005718日から22日にロンドンで開催され、シップリサイクルが主要議題のひとつとして審議された。また、MEPC53に先立ち713日から15日には事前ワーキンググループ(WG)が開催されシップリサイクルに係る強制要件に関する検討が進められた。

IMOでは、200410月のMEPC52おいて、シップリサイクルに係るIMOガイドラインの一部強制化が合意されていたが、バーゼル条約において条約を船舶に適用するための議論を再燃させないために、わが国は、ノルウェー、IMO事務局およびICS等と協調しつつ、IMOにおける強制要件の早期確立を目指すこととしていた。

このような状況下、事前WGおよびMEPC53では、強制化を進める各要件について検討を行い、強制化の骨子が作成された(資料2-6-2-2参照)。一方で、200809年の間にシップリサイクルに関する法的拘束力を有する強制規則を策定する旨の決議案(資料2-6-2-3参照)、また、強制化要件の中でも特に労働安全上重要なガスフリーについては、強制規則の制定を待たずに実施を促進するためMEPCサーキュラーが作成された(資料2-6-2-4参照)。この他、ICS等海運業界団体の提案によりIMOガイドラインの一部改正のための決議案が作成されており、これら決議案は200511月の第24IMO総会で審議の上、採択されることとなった。

今後は、20063月のMEPC54に向けて、わが国は、ノルウェー、米国等と法的拘束力のある強制規則の草案の作成作業を進めることとしているが、当協会としては、国交省と密接に連携しつつ、実効かつ実行ある方策の確立を目指すこととしている。

 

(4) 国土交通省のシップリサイクル検討委員会

 国土交通省は、シップリサイクルに係る国際機関における審議への対応やその基礎となる調査等の方針につき総合的な検討を行うために、20026月、海運、造船、解撤業界、海事研究機関および学識経験者から成る「シップリサイクル検討委員会」を発足した。20053月と6月に検討委員会が開催され、IMO MEPC53およびバーゼル条約OEWG4へのわが国の対応について検討が行われた。同検討委員会でわが国の方針が検討される際には、当協会も積極的に船主の意見反映に努めた。