31 外航船社間協定に対する独禁法適用除外制度

 

外航定期船社によって結成されている運賃同盟や協議協定などについては、日米欧をはじめ各国で独占禁止法の適用除外がかねてより認められており、一定条件下での協定の締結と活動が行われてきた。

 このような中、20024月に公表されたOECD事務局報告書(船社間協定への独禁法適用除外制度廃止を推奨)を一つの契機として、2003年よりEUで同制度の見直しが開始され、その動きは豪州などに拡大する一方、わが国でも20063月より公正取引委員会による見直しが開始されている。

 当協会は、独禁法適用除外制度の下で認められている外航船社間協定の活動は、良質な定期船サービスを提供し、安定した運賃を維持していく上で通商、貿易そのものに不可欠であり、同制度は海運・貿易両業界全体にとって必要であるとの基本的考え方に基づき、同制度の維持に向け対応している。

 最近の主な動向は以下の通りである。

 

311 日本

我が国では、外航船社間協定に対する独占禁止法の適用除外制度(以降「除外制度」)は、海上運送法(28条)に規定されている。同法は最近では1998年〜99年に見直しが実施され、審査手続きの一部を修正(利用者利益の概念を新たに挿入)した上、制度自体は維持されている。(詳細は『船協海運年報1999』参照)

 

(1)  国土交通省を中心とした動き

 20042月、国土交通省海事局は、EUなどの除外制度見直しの動きも踏まえ、学識経験者、海事局外航課、日本荷主協会、当協会からなる委員会(日本海運振興会海運問題研究会海運経済委員会、委員長:杉山武彦一橋大学教授(現学長))を発足させた。(074月以降は日本海運振興会の業務を引き継ぎ発足した日本海事センターが本委員会(委員会名を「海運経済問題委員会」に変更)を主催)

0712月までの間に延べ16回の会合が開催され、除外制度を巡る諸外国の動きや外航船社間協定によるメリット・デメリットなどに関し、率直な意見交換が重ねられている。

 

(2) 公正取引委員会による外航海運における競争政策のあり方の検討

EU、豪州等における外航船社間協定に対する独禁法適用除外制度見直しの動きが進む中、公正取引委員会は、2005年から船社、荷主等関係者に対してアンケートを含む調査を実施し、これらの結果を踏まえ、20063月から、常設の「政府規制等と競争政策に関する研究会(規制研)」(座長:岩田規久男 学習院大学経済学部教授)において外航海運における今後の競争政策のあり方を検討することとなった。

063月、5月に開催された規制研では、当協会代表が除外制度の必要性や、慎重な検証を求めて意見陳述を行った。しかし、当協会の説明は受け入れられることなく、06616日に開催された外航海運に関する第4回会合で「現在の定期コンテナ船カルテルは合理性を欠く運賃修復及びサーチャージ料金の適用等によって荷主の利益を阻害しており、外航海運産業にカルテルを認めなければいけない特殊性も認められない。よって、除外制度を廃止することが適切。」とする報告書第二次案が検討・公表された。また、同会合後、「外航海運に関する独禁法適用除外制度の在り方」について915日を期限としてパブリックコメントの募集が開始された。なお、会合終了直後、国土交通省はコメントを発表し、現行除外制度は同省の監視の下有効に機能しており、現時点において制度を廃止する合理的理由はないとの考え方を明らかにしている。(詳細は『船協海運年報 2006』ご参照)

 

 パブリックコメント募集に対し、915日、当協会は、現行除外制度は諸外国の制度と整合した上で有効に機能しており、同制度が廃止されれば日本発着の定期船サービスの低下を招き、国民生活を支える輸出入貿易に悪影響を及ぼすおそれがあるとして、現行制度の維持を求め、国益の観点からの慎重な検討を要請するコメントを提出した。【資料3-1-1

 

 パブリックコメントの結果を受け、061124日、規制研(外航海運に関する第5回会合)が開催され、事務局(公取委)から、計23通のコメントが提出されたものの、そのほとんどが船社・船社系団体からの意見であり、特段新たな論点は示されなかった旨報告された。その上で、6月の会合研で提示された第二次案とほぼ同内容の規制研報告書第三次案が検討されたところ、一部委員から経済団体から提出されたコメント(除外制度に対しては荷主によって様々な意見があることから、公取委に慎重な検討を求めるもの)には留意すべきとの意見が出されたものの、報告書案の内容に関して、特段異論は示されず、今後表現の微調整等を座長に一任の上、成案として公表することが了承された。

 

 この結果、06126日、公取委から以下の見解・資料が公表され、同日、これに続いて国土交通省からも以下の見解が出された。

 

*************************

    公取委発表(06126日)

 

@ 規制研報告書(結語より抜粋・要約。結語部分は【資料3-1-2】)

 現在の定期コンテナ船カルテルは合理性を欠く運賃修復及びサーチャージ料金の適用等によって荷主の利益を阻害している。また、外航海運産業には、こうしたカルテルを認めなければならない特殊性は認められない。さらに、EUが除外制度を廃止した後は、日本発着の3つの主要航路のうち外航海運カルテルが存在するのは北米航路のみになるが、こうした状況下で、カルテルを維持し続けることは、荷主の利益にならないだけでなく、船社の競争力強化の観点からも悪影響がある。このような状況を踏まえれば、除外制度は、一定の猶予期間を設けた上で、廃止することが適切である。

 公取委は、本報告書の考え方を踏まえ、除外制度廃止に向けた取組みを積極的に推進すべきである。また、制度改正を待つことなく、現行制度で採りうるアクションを起こさなければならない。平成11年に整備された措置請求制度の活用により、当面の弊害を除去することが可能である。

 

A パブリックコメント結果と各論点に関する公取委の考え方

 <提出団体>

日本船主協会、豪州船協、ECSA(欧州船協)、ICSWSC(世界海運評議会)、ELAAASF(アジア船主フォーラム)、韓国船協、FEFC(欧州同盟)、TSA(太平洋航路安定化協定)、WTSA(西航太平洋航路安定化協定)、IADA(アジア域内協定)、日本郵船、商船三井、川崎汽船、OOCLMISC、現代商船(HMM)、陽明海運(YM)APLHapag-LloydSAL(Shipping Australia Limited)、日本経済団体連合会の計23船社・団体

 

 <主要論点と公取委の考え方(公取委の考え方は→以下)>

    外航海運業の特殊性(巨額投資の必要、在庫が利かない、高固定費/低限界費用、インバランス等)→他の産業でも見られ、外航海運業固有の特殊性とは言い難い。

    除外制度が廃止された場合、不定期船業で見られる運賃乱高下や日中航路で指摘される運賃・サービスの不安定が懸念される。→日本向け油類の運賃は安定しており、日中航路では活発に競争が行われ、円滑に運航されている。

    破滅的競争による寡占化懸念→船社撤退により一時的に需給が逼迫したとしても、新規参入が行われると考える。

    過当競争によるサービス低下は我が国製造業の国際競争力低下につながる。→歴史的及び理論的には、厳しい競争にさらされた産業ほど高い国際競争力を持つ。除外制度廃止を通じ、船社の競争力は増し、その結果日本の製造業の国際競争力は向上すると考えられる。

    日本諸港のフィーダーポート化による、日本の主要港湾の埋没・衰退懸念。→船社の寄港地選択と除外制度の存否は関係ない。除外制度下でも、神戸港の取扱量の世界順位は大きく低下している。

    除外制度は諸外国の制度と整合しており、シンガポールでは最近制度を新設。このような中、日本が制度を廃止すれば、日本発着航路が特殊な法環境に置かれる。→日米の適用除外制度には差違があり、更にEU08年に制度の廃止を決定している。また、シンガポールの制度新設は、EU、米国、豪州、日本等の主要国との制度の整合性確保が目的。よって、我が国で除外制度を廃止しても、日本発着航路のみが特殊な法環境に置かれることはない。

    安定した海運サービス確保は、国家の長期的貿易戦略および戦略上必要不可欠。→安定した海運サービスの確保は重要であるが、除外制度の存在との関係が不明。

    前回海上運送法改正(1999年)と状況は変わっておらず、除外制度を廃止する必要性も存在しない。→前回法改正の際の制度維持理由は今日では成立していない。

    スペースチャーター協定等は、荷主の選択肢の増加や船社の効率性向上に資するものであり、これらに対する除外制度は必要。→アライアンス等は、運賃・市場・供給量等を協定するものではないため、これら協定の存続のために除外制度が不可欠とはいえない。

    協定を通じた情報交換や収益見通しの共有は、適切な投資のために必要。→情報交換は直ちに独禁法違反にはつながらず、このような行為のために除外制度は不可欠ではない。

    規制研が指摘する問題点は現行除外制度の枠組みの中でも対処可能であり、現行制度によって貿易が阻害されているとの証拠は示されていない。制度廃止に伴う経済的リスクについての検証も行われていない。→除外制度の必要性に関しては特段の根拠がなければならず、基本的には、除外制度を希望するものがこれを説明する必要がある。

    幅広い産業・企業から意見聴取した上で、関係省庁・関係企業を巻き込んで時間をかけて議論を深めるべき。→公取委は規制研の他に、20051月から関係者への意見聴取やアンケート、パブリックコメント募集を行い、これらを慎重に検討した結果、考え方を明らかにしている。

 

B 外航海運に関する適用除外制度についての公取委の考え方(全文は【資料3-1-3】)

 平成11年の除外制度見直しの際に、制度を維持した理由である@海運同盟は、運賃安定効果があり荷主にとっても望ましいとする意見があること、A米国、EU等との国際的な制度の調和を図ることが必要であること、については、

 @ 海運同盟が設定している共通運賃(タリフ)は形骸化していること、サーチャージに関する協定や運賃修復には実効性があるが、船社の実コスト以上に請求している可能性があり、また、算出根拠が不明確であること、一方的に通告されるとの荷主の意見があること等から、荷主(利用者)の利益を害しているおそれがあること、

 A日米欧の適用除外の範囲は異なっており、また、EU200810月から除外制度を廃止することを決定したこと

から、これらの理由は、今日では成立していないと考える。

 しかしながら、外航海運に関する除外制度は、海上運送法に規定されていることから、同制度の要否については、公取委のみの判断によるのではなく、国土交通省での検討と判断が必要である。

 したがって、外航海運政策と海上運送法を所管している国交省において、公取委の考え方や規制研報告書の内容をも踏まえて、除外制度の要否について検討が行われることを期待する。

 (関係資料は公取委websitehttp://www.jftc.go.jp/pressrelease/18index.html#NUM12 (2008.6現在)に掲載)

 

    国土交通省発表(06126日)

 

国土交通省は、20066月に規制研報告書案に対して公表したコメント(当協会注:原文は『船協海運年報2006』参照)の通り、現行の適用除外制度は適正に機能していると認識している。しかしながら、今般、公取委の見解が公表されたことも踏まえて、当省は、今後、所管省として、本適用除外制度のあり方について十分な検討を行うこととする。(全文は【資料3-1-4】、また、関連資料は国交省websitehttp://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/10/101206_.html (2008.6現在)に掲載)

 

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 これにより、除外制度の要否については、今回、公正取引委員会はその判断を示すことなく、国交省に検討のバトンが託されることとなり、結論は先送りとなった。

 

 その後、国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会 海事分科会 国際海上輸送部会(部会長:杉山一橋大学学長)0710月から3回に亘って制度のあり方について審議を行った。同部会は、0712月、船社間協定が認められてきた背景にある外航海運の主な特性などについて整理し、日本の除外制度のあり方については関係者の意見を踏まえつつ、更に検討する必要があると答申した。

 

(3) 荷主との対話フォーラム

当協会は0411月以降、定期的に開催されているコンテナ・シッピング・フォーラム(主催:日本海事新聞社、後援:国土交通省)に日本荷主協会とともに協力している。

0712月のフォーラムでは、第1部で国土交通省外航課岡西課長が国内外の独禁法適用除外制度の最近の動向について基調講演を行い、日本において同制度の見直しを行う際には、独自の国益に沿って是非を判断すべきとの見解を示した。第2部では船社側より08年の北米・欧州各コンテナ航路の需給見通し等について説明が行われた後、船社・荷主間のパネルディスカッションが行なわれた。

 

312  EU 

欧州連合(EU)における、競争に関する基本的ルール(実体法)はEC条約(ローマ条約)第81条、82条に規定されており、関係事業者等を直接規律している。81条は事業者/事業者団体による競争制限的な協定、協調行為等を禁止し、82条は市場支配的地位の濫用を禁止している。また、欧州委員会と加盟国の権限や罰金額等前記2条に関する施行手続は欧州理事会規則No.1/2003(以降「1/2003」と略)で定められている。

定期船分野に関しては、81条、82条に関する細則(欧州理事会規則No.4056/ 86、別名同盟規則、以降「4056/86」と略)が制定されており、これにより海運同盟に対する競争法の包括適用除外が認められていていたが、以下(1.(1))の通り20069月に、0810月をもって同規則を廃止する決定が行われた。なお、定期船社が配船の合理化を図り高品質のサービスを提供する目的で、船腹の共有および船隊の共同運航、ターミナルの共同使用など比較的緩やかな提携を行うコンソーシアムに対しては、市場占有率に応じた条件はあるものの、細則(欧州委員会規則 No.823/2000、別名コンソーシアム規則)により、包括適用除外が認められている。

一方、不定期船部門に関しては、4056/86と同様の規則はなく、同部門には8182条が直接に適用されてきた。ところが、前記2条の手続法である1/2003は、外航不定期船サービスには同規則を適用しないと規定(第32条)しており、手続法(EU当局による調査権限や罰金課徴等を定める規則)が存在しないまま、実体法(EC条約8182条)は適用されるという状態が長らく続いていた。しかし、200610月に1/2003 32条が廃止され、不定期船へのEU競争法のフル適用が開始されることとなった。(詳細以下1.(2)参照)

 

4056/86見直し問題

20033月のConsultation Paper発表以降、EUでは4056/86の見直し作業が進められている。

これに対し、船社はELAA*1を中心として現行制度の維持を求め、それが不可能な場合は需給に関すデータの分析や運賃指標の公表等、共通運賃設定機能を含まない船社間の共同行為を求めて活動を行ってきた。

 

*1  ELAA: European Liner Affairs Association

    EU競争法適用除外制度見直しを契機に、欧州発着の定航船社23社(083月現在)が組織した対EUロビイング団体。本部:ブラッセル

 

20051214日、欧州委員会はこれまでの検討を踏まえ、現行除外制度を廃止すべきという最終結論を取りまとめ、同日付にて4056/86廃止提案を欧州連合理事会(閣僚理事会)に提出したほか、欧州議会の意見を求めた。(競争法問題に関しては、EUとしての最終的な意思決定権は閣僚理事会が単独で保持しており、欧州議会の権限は諮問意見を表明するに留まる。)

 

20061月以降、閣僚理事会と欧州議会で並行して検討が進められていたが、欧州議会本会議は200674日、経済・通貨金融問題委員会(ECON)報告に基づき、以下の報告書(欧州委提案の修正案)を賛成534/反対89/棄権16で採択し、欧州委と閣僚理事会に提出した。

 

<欧州議会修正案(報告書)要旨>

(定期船・不定期船共通)

-        定期・不定期両分野に係るガイドラインは関係業界との緊密な協議の上、更に議会と協議した後に導入されるべき。

(定期船関係)

-        同盟制度は、4056/86規則廃止に関する規則が発効し、2年の移行期間を経た後に廃止されるべき。また、移行期間終了までの間に定期船に関するガイドラインが策定されるべき。

-        定期船ガイドラインには現行4056/862項の技術協定に関連するガイダンスが含まれるべきである。また、同ガイドラインは中小船主及び専門分野に特化したサービスに従事する船主の利益に配慮しなければならない。

-        UNCTADコードをはじめとする既存の国際取り決めとの衝突があった場合の明確な対処法が導入されるべき。

-        欧州委はメンバー国のUNCTADコード破棄にあたり、その政策的/経済的影響を調べること。

-        欧州委は、ガイドラインとともに、定航分野に係る欧州の新しい政策に関する第三国(中/////印)の見解(受入、修正要求、反対、悪影響等々)および、それら国々が自国制度を欧州の制度に合わせる意向の有無について、透明性のある概要報告書を議会に提出すること。

-        関係業界による情報交換の有益性を認識すること。

-        (欧州委提案にある)「定期船産業は、コスト構造の面から他産業と比較して異なる部分はない」との部分を削除。一方、定期船は高い競争状況にある点を挿入。

(不定期船関係)

-        不定期船に関するEU競争法手続法適用除外規定(規則1/200332条)廃止と同時にプール協定等の不定期船部門へのEU競争法の適用に関するガイドラインが策定されるべき。

 

また、ELAAは上記に先立つ06616日、同盟制度廃止後の船社間協力の仕組みとして044月に欧州委に提出したいわゆる「ELAA提案」の更改版(以降「ELAA新提案」)を欧州委に提出した。(公開は6月下旬)

主要点とELAA提案との相違点は以下の通りであり、これまで欧州委との間で行ってきた意見交換の結果を踏まえ、ELAAが最終提案として取りまとめたものである。

 

 

ELAA提案(049)

ELAA新提案(066月)

@

集約されたキャパシティ利用(消席)状況とトレード毎の地域間マーケット規模情報(1ヶ月遅れのもの)の船社間交換及びそれに関する話し合いを行う。

交換される情報は船社からの提出時点でより集約されたものとし、話し合いは船社間だけではなく、フォーラムという形式で荷主等の関係者とも行う。集約されたデータの詳細情報についての開示は行わず、且つそれに関する安全対策も導入する。全ての情報は一般に開示され、最低8週間以上の間をあけるものとする。

A

トレード毎に品目別の荷動きにつき情報交換、話し合い、及び分析を行う。(1ヶ月遅れ)

品目毎の情報交換は行わず、コンテナタイプ別の情報のみとする。交換する情報は提出時点でより集約されたものとする。品目毎の分析については、別途外部で入手可能なデータを使用して行う。全てのデータは一般に開示されるものとする。

B

トレード/品目毎に集約された需要と供給データにつき話し合い及び分析を実施。トレード及び品目毎の需要予測についてはこれを公開する。

業界の予想レポートについては、その作成を外部の独立した第三者コンサルタントに委託した上で、コンサルテーションプロセスを経て議論される事となる。品目別の予測は行わず、全てのデータは一般へ開示される。

C

船社は自社のマーケットシェアにつきフィードバックを受ける事が出来る。

マーケットシェアのデータについては、これを提供する事はしない。

D

コンテナタイプ及びトレード毎の運賃指標を作成、一般へも公開する。

運賃指標についてはコンテナタイプ別には作成せず、トレード毎に統一指標とし、一般へも公開する。運賃指標は毎月公開するが、指標は四半期毎のものとする。

E

サーチャージについては一般に公開し、透明性のあるフォーミュラとする。

THCを構成するアイテムを公開する。燃料価格、平均的な消費量、通峡料、港費等のデータについても、これを一般に公開する。又、為替影響についても、その影響につき公開。

F

情報交換システムについては、トレード毎に業界団体を組織する事とする。

トレード毎に船主間及び異業種間フォーラムを含めたindustry-wide consultationを組織。全ての情報は一般に公開される。

 

 この同新提案に対し、ESC*2630日、欧州委に意見書を提出し、「情報交換のための船社間協議は談合の温床となる懸念が高いなど、荷主はELAA新提案に何ら有益性を見出すことはできず、欧州委は同提案をガイドラインのベースとすべきではない」との厳しい見方を明らかにした。

 

*2  ESC: European Shippers’ Council

    欧州荷主協議会。1963年にENSC(欧州各国荷主協会)として設立。物品の海上および関連複合輸送にかかわる問題について加盟国荷主の共通利益を推し進め、支援する目的の協議会。欧州など12ヶ国の荷主協会などが会員。本部:ブラッセル

 

20061月以降、4056/86廃止提案を検討してきた閣僚理事会は前述の欧州議会報告書を踏まえ、925日、4056/86廃止と、EU競争法手続法(欧州理事会規則1/2003)に不定期船分野と欧州域内カボタージュを新たに含めることを認める欧州委提案を全会一致で承認した。これを受けた欧州委のプレスリリース(925日付)概要は以下の通り。

 

<定期船関係>

4056/86200810月に廃止される。欧州委は廃止前に、海運分野への競争法適用に関するガイドラインを発行する。

-        間もなく、定期船に関する情報交換システム(ELAA新提案)の市場への影響等に関するスタッフペーパー (Issues Paper)を発行

-        Issues Paper発行後、関係者コメントを求める。コメントに対しては、欧州委が予備的分析を実施。

-        その後、関係者との協議と、European Competition Networkworking group(欧州委競争総局が議長、EU加盟国競争当局/運輸当局がメンバー)での協議を経て、欧州委が海運分野への競争法適用に関するガイドライン案を発行。

-        ガイドライン案発行後、1ヶ月間、関係者からのコメントを求める。

-        その後、更なるEU加盟国との協議(Advisory Committee)を経てガイドライン最終化。

-        欧州委がガイドラインを公表

-        その後、200810月に4056/86廃止。(同盟活動が禁止される)

 

<不定期船分野>

不定期船分野に関するEU競争法手続法の適用除外条項を廃止。上記海運分野への競争法適用に関するガイドラインには、不定期船分野も含める。(欧州委は、不定期船分野には既にEU競争法(実体法)は適用されている点を強調)

-        これまでの関係者との協議を継続。

-        2006年中に外部コンサルによる報告書を公表。

-        上記を踏まえ、ガイドラインを発行。(定期船と共通)

 

閣僚理事会の採択を受け、928日付EU官報(Official Journal)4056/86廃止を定める欧州理事会規則1419/2006が公布された。内容は以下の通り。

 

-        4056/86廃止に伴う移行期間は061018日から2年間とする。(移行期間満了後は、EU発着航路に関する同盟活動は禁止される)

-        不定期船・域内カボタージュに対するEU競争法手続法からの除外規定(1/2003 32条)は、本Official Journal発行後、20日後(061018日)に廃止する。

 

929日には、欧州委からIssues Paperが公表された。同Paperは、定期船業界は歴史的に談合体質であると厳しく指摘した上で、ELAA新提案(上記)の各要素について、EU競争法上の予備評価を行い、1031日を期限として関係者、とりわけ荷主・フォワーダーからのコメントを求めた。同Paperの要旨は以下の通り。

 

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-        定期船市場は、構造上、談合を招きやすい市場であり、過去にも共謀行為が行われてきた。

-        ELAA新提案の一部は競争制限的で許容できない。現時点での分析結果は以下の通りであり、1031日を期限として関係者の意見を求める。

 

EU競争法(EC条約81条)違反となる事項>

・船舶供給予測

 供給が逼迫するとの予測が出された場合、運賃を高止まりさせる効果を有するため、許容できない。

・供給予測に基づく船社間のみでの意見交換

  参加船社の将来の行動を確定させる効果があり、許容できない。信頼性あるサービス提供との関係も明らかでない。

CAF(通貨調整課徴金)算定

  他の産業も通貨変動には対処してきている。通貨変動に対する平均コストを公表することは、荷主との交渉に際して船社同士がシグナルを送ることとなり、荷主の利益とはならず、許容できない。

EU競争法に適合する可能性のある事項>

THC*3BAF(燃料費調整料率)等のサーチャージ類に関するデータ公表

  燃料油価格、平均船型の燃料消費のような公開された客観的なデータの作成であれば問題ないが、平均コストの公表は競争法上不可。ELAAの提案するターミナル費用の各要素に関するデータ公表に関しては、関係者の意見を求めたい。

・荷動きデータ

  ELAAの提案する発着港湾別データは詳細過ぎており、航路別・方向別が適当と考える。

・消席データ

  航路別・方向別のデータ収集は問題ないが、ELAAの提案する毎月、8週遅れ(将来的には4週遅れ)の四半期平均データを公表すること(頻度等)が妥当かどうかについて、荷主の意見を求めたい。

・運賃指標

 航路別・方向別の指標作成は問題ないが、毎月、36ヵ月遅れの四半期データを公表するという方式については、遅れと公表間隔を拡大した方が船社の協調行為を引き起こす可能性は低い。運賃指標が効率性向上につながるかどうかにつき、特に荷主の意見を求めたい。

 

*3  THC: Terminal Handling Charge

    ターミナル・ハンドリング・チャージ。積み地あるいは揚げ地のコンテナターミナルで発生するコンテナの取り扱い費用の一部を補填する目的で設定された、船社が荷主に課徴する料金。

 

EU競争法に適合すると考えられる事項>

 ・独立したデータ収集機関

  ELAAの提案する独立データ機関の設立は適切。

・貿易関係者のforum開催

  運賃や個別船社・荷主にかかる需給状況等、商業上の問題が取り扱われない限り、関係者および経済全体の利益につながり、適切。

・船社による団体(地域ごとの委員会含む)結成

  他の産業同様、定期船業界にも結成の権利がある。  

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 同Paperに対し、ELAA1030日、以下要旨のコメントを提出した。

 

    Issues Paperの「定期船市場が談合の歴史と構造を有し、旧TAA(大西洋航路協定)FEFC(欧州同盟)などの複数の同盟が除外制度を拡大解釈・濫用した結果、欧州委から禁止命令を受けている。」との見解は明白な誤り。4056/86の下、船社間協力は適法であり、同盟に対する欧州委の禁止命令は4056/86の文言が不明確であったことに起因する。また、欧州委によるFEFCTAA等への罰金支払命令は欧州裁判所で全て否認されている。

    Issues Paperは、現在の同盟は船腹調整を行っているとしているが、各同盟のビジネスプランでは船腹に関しては言及していない。同盟による一時的な船腹調整は許容されているが、最近ではあまり実施されない。

    Issues Paperは荷主の交渉力を過小評価している。大手フォワーダーであるキューネ&ネーゲル(スイス)やDHL Danzas(ドイツ)による全世界の輸送量は240TEUであり、これは中堅定期船社の輸送量(lifting)を上回っている。(例:現代商船:210TEU、商船三井:210TEU)小規模荷主は、これらフォワーダーに輸送を委託することにより、交渉力を高めている。

    ELAAが行った顧客(主要荷主・フォワーダー21社)調査によると、Issues Paperで船社間共謀を招く懸念ありとして否定的見解が示された諸事項(@〜B)に関する顧客意見は以下の通り。

@船社間の需給情報交換会議:80%の顧客が支持

A需給予測データの作成・公表:75%の顧客が支持

B港間ベースでの荷動きデータ作成・公表:95%の顧客が支持

こうした顧客の声を踏まえれば、欧州委の懸念は解消されるものと考える。

 

また、当協会も1031日、除外制度は世界各地で適切に機能しており、EUにおいてもこれを維持すべきと考えるものの、(4056/86廃止を前提とするならば)欧州航路における絶対的な最低線として、ELAA新提案を支持する旨のコメントを提出した。(全文は【資料3-1-5】参照)このほか、船社側からはECSAからELAAを支持する旨のコメントが提出された。

 

これらに対し、荷主側からは、GSF*4ESCなどからELAA新提案の競争制限性を指摘し、船社間の意見交換開催に反対、データ収集の間隔は延ばすべき等とするコメントが提出されている。

 

*4  GSF: Global Shippers’ Forum

    20069月に、これまでの三極荷主会議を改称の上設立された荷主協会の国際会議。欧州(ESC)、日本(日本荷主協会)、米国(NITL)、アジア(ASC)の荷主協会などが参画。

 

 

ガイドライン案公表

 2007914日、欧州委員会は海運分野(定期船・不定期船含む)に競争法を適用する際に準拠するガイドライン案を公表し、そのよう内容について関係者からのコメントを求めた。

 

<ガイドライン案概要>

(定期船分野)

‐船社と荷主との情報共有を深めるほどに、競争法上の問題が起こる可能性は少なくなる。

‐一般に公開された情報、適切に集計された情報(個別船社のデータであることが識別できない情報) 及び”historic*”な情報を交換することは競争法に反しない。

‐商業上微妙な(Commercially sensitive)情報(price, capacity or costs)や運賃及び船腹供給に関連する予測データを船社間で交換することについては競争法上問題。

‐船社間で競争制限的な議論を行っても、それがEC条約813項の4条件を満たせば競争法違反とはならない。当該議論によってより良い投資計画や消席率向上という効率性をもたらす場合で、その利益が荷主に還元され、且つそれが反競争的効果を上回れば、同項の一条件を満たす余地がある。

  *historic/recentの判断基準

 ・過去の欧州委判断は1年以上前が”historic” 今後は情報の鮮度や情報の収集具合に応じて判断。

  (1年未満の情報でも”historic”と認識する場合あり)

 ・どの程度陳腐化しているか、また、公表することでどれだけ市場に影響を与えるか。

 

(不定期船分野)

‐同分野のタンカー/バルクプール協定の内容は一様ではないため、競争法に違反するか否かはその都度分析しなければならない。

・競争法違反とはならない場合

 ‐”joint production agreement”に該当する場合

 ‐同じ協定に属する船社間同士が今後も競争関係とはならない、または協定で行なう配船を船社が別個に行うことができない。

・競争法違反になる可能性がある場合

 ‐協定が運賃、コスト、サービス差別化、品質及びイノベーションといった競争要素に相当の悪影響を及ぼす場合には競争法違反の可能性あり

※但し、当該プール協定が813項の4条件を満たしていることを同メンバーが立証した場合、同協定は競争法違反とはならない。

 また、ガイドライン案は、市場支配力にかかわらず協定が価格設定を行う場合には常に競争法違反になるとした。

 

上記ガイドライン案の内容について関係者(船社、荷主、フォワーダー)が提出したコメントの主要点は以下の通り。(当協会コメントは、【資料3-1-6】参照)

 

ELAAコメント(主に定期船分野)

・本ガイドライン案の骨子及び文言を維持することを前提に、0810月までに公表されるガイドラインにおいて以下の点について修正するよう求める。

‐同案における不明瞭な文言、特にいかなる情報交換が競争制限的性質を有するのか明確化すること

‐ガイドライン案の内容を明確にするため、特に情報がいつから”historic”と認識されるかについて、具体的な例(illustrative example)を用いること

 

ECSAコメント(主に不定期船分野)

・不定期船分野においては"関連市場(relevant market)"が常に存在するため、プール協定は競争制限的なものではない。市場では需要側と供給側の双方において、代替性があるという本質的な点(特に船種、船型、輸送契約の形態及び地域別市場)をガイドラインは考慮すべき。

・不定期船市場では入札を行なっており、ブローカーの役割が顕著であるため、船社やバルク・タンカープール協定は"price taker"であって、"price maker"ではない。

・プールマネージャーは運航・商業的観点から(船主が投入した)船舶をマネージしており、荷主に"joint product"を提供している。バンカー/バルクプールの主な機能として"price fixing"を挙げ、過度の競争制限があるかのように言及するのは適当ではない。

・プール協定の目的及び基本的性質から、同協定はEC条約813項の4条件(独禁法適用除外対象条件)を満たしている。プール協定は需要側のニーズに応えて設立され、長年苦情なく運営されていることがこれを裏付けしている。

813項の基準に関するより明確なガイダンスを望む。

 

ESC(欧州荷主協会)コメント(主に定期船分野についてのコメント)

・本ガイドラインはその対象範囲につき、情報交換のみを目的とする協定に限定することを明確にすべき。813項の適用振りについては本ガイドラインではなく、同項に関する別のガイドライン(2004/c 101/08)に基づくことを明らかにすべき。

・一般に公開された情報(public domain information)の取り扱いに関する基準を明確にすべき。船腹予測に関する情報が一般に公開されたものであっても、船社のみが参加する会合において情報交換が行なわれる場合、同交換を認めるべきではない。

・コンソーシアム内で既に一定の情報交換をしている定期船社に最近の荷動き/船腹量について更に情報交換させることや、これまで定期船同盟で運賃設定を行ったり、各船社の運賃データの交換を習慣としてきた船社に平均運賃指標の情報交換を認めるべきではない。

 

今後、ガイドライン案はECN*会合及び欧州委員会内部(DG COMP/DG TREN)で検討され、確定版が0810月までに公表される見込みである。

 

313  米国 

米国反トラスト法見直しの動きと、適用除外制度を巡る動向

 

米国においては、19995月に施行されたOSRAOcean Shipping Reform Act1998年改正海事法、正式名は1998年外航海運改革法によって修正された1984年海事法)によって定期船社間協定に対する反トラスト法適用除外制度が確認されている。 

 2002年、米国議会は反トラスト法(全体)の見直し作業を行う独禁改革委員会(AMC)設置法案を可決し、2003年に同委員会が発足、その検討対象には定期船社間協定に対する適用除外措置も含まれることとなった。

 055月に同委員会から関係者に、OSRAを含む各種適用除外措置等反トラスト法に関わる広範な論点に関するコメントが求められ、船社を代表してWSC*1から現行制度維持を求めるコメントが提出された。(詳細は『船協海運年報2006』参照)

 061018日にはOSRAおよびMcCarran-Ferguson Act(保険業者の一定の行為に対し、反トラスト法適用除外を定める)に関する公聴会が開催され、WSCは以下資料に基づき意見陳述を行った。

 

*  WSC: World Shipping Council(世界海運評議会)

     米国ワシントンに本部を置き、米国海運政策問題への対応を主な目的とする世界主要船社約30社の団体。

 

AMC公聴会(06.10.18) WSC陳述資料>

‐鉄道、トラック等他の輸送モードや道路整備等とは異なり、定期船海運は急速な荷動き拡大に対応し、十分な設備投資を実施。米国の輸出入を支えている。

1998年に成立したOSRAにより、「昔ながらの」同盟はTACAを除き消滅したにも関わらず、多くの定期船海運に対する反トラスト法適用除外制度反対論者はOSRA以前の同盟に対する批判を展開している。

AMCは定期船法制の修正を検討するのであれば、現行制度下の問題点に着目すべきであり、このことは理論的あるいは学問的な研究ではない。理論や学究上の議論によって業界や経済効果(定期船の場合は年間数十億ドルの米国の海上輸出入貨物)が左右されることはありえない。

1998年の法改正により、業界はより柔軟かつ競争的に変化し、多くの貿易相手国はOSRAをモデルとして採用した。AMCの決定にあたっては、98年以降の変化を詳細に検討する必要がある。

‐除外制度は、海事法制全体の一部分であり、同法の他の部分とは不可分。

FMCに届出が行われている219の協定の内、147は船腹共有に関する協定。この種の協定には、単純なスペースチャーター協定から、ターミナル施設を共有し、配船の長期計画を含む協定も含まれるが、荷主からはサービスの質の向上に資するとして常に高い評価を得ている。

‐また、30弱の協定が協議協定であり、同協定では以前の同盟が行っていたような運賃共同設定は行わず、拘束力を持つことも禁じられているため、燃料油費用等外部コスト要因を含む市場の傾向について意見交換がなされている。全ての議事録や荷動きデータはFMCへの提出を義務付けられているため、自国船社がほとんどない米国にとって、政府がこれら情報を入手できる貴重な手段となっている。

‐また、最近登場し、その重要性を高めている協定には、インターモーダルに関する協定がある。

PierPASS*2を可能にしたターミナル会社の協定(West Coast MTO Agreement)や、船社間でのシャーシ共有を可能にした協定(Ocean Carrier Equipment Management Association)などによる民間の取り組みは、地域・州レベルでの対策が失敗を重ねる中、環境・効率性向上等の面で高い効果を上げている。

‐上記の協定活動は、OSRAによる除外制度の有無に関わらず可能であるという批判がある。確かに船腹共有協定など一部の協定は、OSRAによる除外制度がなくとも、反トラスト上問題ないとの司法判断がなされる可能性があるが、これを以って除外制度を不要とするのは誤った基準である。いくら業界および利用者の効率性向上に資する協定であっても、除外制度なくしては、それが訴訟の対象になる可能性を排除できず、たとえ後日勝訴できるとしても、訴訟の可能性があるだけで、そのような協定は、実質的になされなくなるだろう。

OSRA施行・対外秘SC普及後に広まった新たな形の船社間協定は価格協定というよりは、業務効率を向上させる協力協定であり、これらは海事法による反トラスト法適用除外制度なくして存在することは不可能である。

 

*2   Pier PASS

混雑緩和と環境対策を目的としてLA/LB地区のターミナル会社が共同して導入したプログラム。インセンティブ制度により、CYへの夜間の荷物搬出入を促進し、日中のゲート待ちトラック(+排気ガス)減少に役立っているとされる。

 

 公聴会へは、WSCの他、FMC(連邦海事委員会)、欧州委員会競争総局、AAPA(全米港湾協会)、NCBFAA(全米通関業・フォワーダー業協会)、ABA(全米弁護士協会)、ATA(全米トラック協会)の代表が出席。WSCAAPAの代表は明確に現行制度の存続を求め、FMC長官はOSRAは議会の意図通りに適切に機能していると発言、間接的に現行制度維持を支持した。一方、欧州委、NCBFAAABAATAの代表は、除外制度に反対の立場を明らかにした。また、NITL(米国荷協)は、公聴会には参加せず、書面を提出し、船社間協議によってもたらされる高運賃は基本的には支払う必要がないとした一方、アライアンス等の運航協定は是認する考えを示した上で、政府に対して荷主、NVOCC、船社等関係者の意見を十分に聴取すべきとの立場を明らかにした。

 

AMC06125日及び07111日に開催された公開会議等を経た上で、074月に最終報告書を取り纏め、大統領及び議会に提出した。同報告書は勧告案同様、議会は反トラスト法適用除外を原則認めるべきではないとした上で、除外制度を認める場合には厳しい制限を設けるべきだとしている。また、同報告書は海運業について、OSRAにより非公開サービスコントラクトが導入されたことで同盟の価格決定能力は確かに弱まり、競争激化と運賃低下がもたらされたことを例に挙げ、海運は競争によってより効率的に運営される業界の典型であるとして、反トラスト法適用除外の対象とする特別な理由はないと結論付けている。なお、これまでのところ制度見直しに係る具体的な動きは見られない。

 

314 シンガポール

シンガポールでは、200410月、わが国の独占禁止法にあたる2004年競争法(The Competition Act 2004)が国会成立し、その大部分の規定が0611日に施行された。成立当初、外航船社間協定に対する適用除外制度が盛り込まれていなかったが、当協会のコメント提出を含む海運関係者等による意見提出などの結果、同国独禁当局(シンガポール競争委員会(CCS))は、0512月、外航船社間協定に競争法適用除外を与える考えを公表した。

 0646日にはCCSから包括適用除外規則案が公表されるとともに、関係者からの意見提出が求められ、当協会、シンガポール船協などは規則案を概ね支持するコメントを再度提出した一方、シンガポール荷協/アジア荷協は規則案は不必要に寛大としてCCSの再検討を求めた。(詳細は『日本船主協会海運年報2006』参照)

 これら意見に基づくシンガポール政府内での検討の結果、714日、同国貿易産業大臣は上記規則案を一部修正した最終版を公表、0611日に遡及して適用する旨を発表した。規則概要は以下の通りであり、当協会をはじめとする海運業界の主張が概ね認められた形となった。

 

‐本規則は0611日に遡及して適用され、20101231日を期限とする。規定に基づき、期限内でも見直しを行うことはある。

‐包括適用除外は、定期船サービスを行う2以上の船社の協定を対象とする。

‐対象となる協定は、技術・運航・営業上の取り決め、運賃に関する取り決め等。(同盟/協議協定/コンソーシアムとも対象)運賃に関する適用除外の対象は、定期船サービス提供と合理的な関連性を有するあらゆる諸料金を含む。

‐市場シェアが50%以下で下掲の条件を満たす船社間協定には包括適用除外を認める。かかる協定の届出は不要。

・加盟船社が対外秘個別サービスコントラクトを締結することを許容している。

・予めメンバー間で合意された予告期間を経て、船社が協定から脱退する場合、罰金や罰則(条件)を付さない。

・タリフ遵守を義務化しない。

・サービスの取り決めに関する機密事項を他社・その他関係者間で交換しない。

‐市場シェアが50%を超える船社間協定が適用除外を得るためには、50%以下の協定に求められる要件をすべて満たした上、CCSへの届出、タリフ等の情報の利用者への公開等が必要。

‐協定の市場シェアが50%を超え、かつシェア50%超の場合の適用除外要件を満たさない場合、シェアが50%を超えた年の年末から6ヶ月間は引き続き包括適用除外を与える。

‐協定が規則の諸要件を充足しなくなった、若しくはCCSが協定の行為が2004年競争法41*の要件を充足しないと判断した場合、CCSは当該適用除外を取消すことができる。

 

  *2004年競争法第41条(協定に包括適用除外を付与する条件)

    当該協定が

 (a) 生産若しくは分配の改善、または

技術若しくは経済の進歩を促進

    に寄与し、かつ、

    (i) 企業に目的達成のために必要不可欠でない共同的制限を課さず

     (ii) 関係する商品若しくはサービスの相当部分に対して競争阻害可能性を与えない

 

315 豪州

 

1. 豪州競争法適用除外制度(TPA Part X)見直しについて

 

20046月に見直しが開始された豪州の定期船社間協定(同盟・協議協定・コンソーシアム)に対する独禁法包括適用除外制度(Part X of the Trade Practices Act 1974)について、豪州政府は0684日、プレスリリースを公表し、協議協定を包括適用除外(Part X)の対象から外す一方で、同盟・コンソーシアムに関しては引き続きPart Xの対象とする方針を発表した。政府発表の概要は以下の通りであり、船社側が求めた現行制度の完全な維持は受け入れられなかったものの、船社側が挙証責任を果たした形で同盟・コンソーシアムの存続が確認されたことは、7月のシンガポールにおける競争法包括適用除外規則新設に引き続き、除外制度に一定の意義が認められた結果となった。

 

Part X見直しに関する生産性委員会報告書に関する豪州政府見解(0684日付)

 

Part Xの担当閣僚であるWarren Truss運輸・地域サービス大臣は、豪州政府がPart Xを維持するものの、豪州を発着する外航海運の更なる競争的改革を促進すべく改正する旨を明らかにした。

Truss大臣が示したPart X改正の要点は以下の通り。

- 目的の明確化

- 協議協定を(包括適用除外)対象から除外

- 船社/荷主間の対外秘個別サービスコントラクトの保護策を盛り込み

- 手続き条項の違反に対する罰則の導入

Peter Costello財務大臣は、外航定期海運に関する特別な制度の廃止に関する諸外国の動きをにらみつつ、5年後に再度Part Xの見直しをすることになると発言。

Truss大臣も豪州政府がPart Xを今後更に見直す可能性を示唆するととともに、制度変更に関して荷主、船社等国内関係者の意見を聴する考えを示した。

 

なお、現時点(083月現在)Part]の具体的な改正案は明らかになっていない。

 

316 その他諸国

中国

中国では、独占禁止に関する法令として「不正競争防止法」「価格法」「入札募集及び入札法」「地域間封鎖の打破に関する規定」があり、価格カルテルに関しては、「価格法」で規定されている。また、地方政府レベルでは、更に細かい規定が存在する。

一方、包括的な独占禁止法は未制定であったため、1994年に独占禁止法の起草が開始され、049月には商務省による草案が完成、0667日には国務院(内閣)常務会議で草案が承認された。その後、国務院全人代常務委員会の場で審議されていたが、078月に同法が採択された(施行は200881)。同法は包括/個別適用除外制度規定を設けておらず、また、行政官庁による同法禁止行為の認可を認めていないため、中国交通部所管で同盟・協議協定を認めている国際海運条例が、船社間協定の独禁法適用除外制度根拠規則になるかどうかは現時点で不明である(20083月現在、中国政府の公式発表はない)

しかしながら、200711月の米中海運会談(中国側:交通部副部長 米国側:MARAD長官が出席)において、両国代表は現行の適用除外制度を変更する予定はないと議事録確認をしており、また、083月の日中海運担当者会合においても中国側から口頭ながら制度維持が示されている。

なお、同法に違反した企業に対しては最高で売上(turnover)10%の罰金が課されることになる。

 

香港

香港では、日米欧のような包括的な独禁法/競争法は存在しない。このような中、199712月に競争政策諮問委員会(Competition Policy Advisory Group: COMPAG)が設置され、20066月にはCOMPAGの下に設置された競争政策検討委員会(Competition Policy Review Committee: CPRC)が、分野横断的な競争法策定と、競争当局(Competition Commission)新設等を推奨する報告書を公表した。

これを受け、香港政府経済発展労工局は0611月から0725日までの期間、香港の競争政策のあり方についてパブリックコメントを募集していたが、074月に同局はその結果に関する報告書を発表した。(同報告書全文はhttp://www.compag.gov.hk/about/ 参照)

同報告書によれば、関係者からの意見の多くが分野横断的な競争法の新規導入を支持し、競争法適用除外制度については経済的/公的利益が存在する場合に認められるべきとの考えであることから、香港政府経済発展労工局では除外制度の導入を視野に入れ、競争法作成に取り組むとしている。なお、同報告書ではどの分野を適用除外とするか等(外航海運への適用除外制度策定の必要性)について言及していない。

 

インド

 インドにおいて外航船社間協定を認める法令はないものの、2002年に競争法(Competition Act, 2002)が制定された後も、IPBCC(India-Pakistan-Bangladesh-Ceylon Conference) 等の同盟・協議協定活動は行われていた。このような中で、同国議会は078月、競争当局(CCI)への課徴金権限付与を含めた競争法の改定を行った。改正競争法の施行時期については0810月との一部見方があるものの、船社間協定の取り扱いを含め、現時点では明らかになっていない。なお、CCIは各船社代表との会合等において、船社間協定は一般的に反競争的であるとの見解を示している。