1.海運政策

 

11 トン数標準税制の円滑な実施

トン数標準税制(以下、トン数税制)については、平成20年度の与党税制改正大綱 (平成191213日)において「四面環海のわが国にとって、安定的な国際海上輸送を確保することは重要な課題である。その安定輸送の核となるべき日本籍船・日本人船員の計画的増加を図るため、非常時における国際海上輸送に係る航海命令等の制度化に併せて、日本籍船に係るみなし利益課税(所謂トン数標準税制)を創設する」と整理された。また、民主党2008年度税制改革大綱 (同年1225日)においても「外航海運市場において世界標準とも言うべきトン数標準税制を導入する」とされた。(船協海運年報2007年参照)。

平成201月より、国土交通省海事局および財務省は関連法案等の整備に着手し、一方、当協会は使い勝手の良い制度となるよう関係方面に求めた。

平成20530日、トン数税制の根拠法となる海上運送法等の改正法が参議院本会議で可決・成立し、同年66日に公布、717日に施行、関連の政省令等についても731日までに施行された。概要は以下の通り。

 

111 海上運送法及び船員法を改正する法律案

海事局は、平成2025日、「トン数税制の根拠法となる海上運送法(附則の改正租税特別措置法を含む)及び船員法の一部を改正する法律案」(以下、改正法)を国会に提出した。

改正法の国会審議は、所謂衆・参ねじれ国会の影響等により遅れていたが、同年58日に漸く衆議院の国土交通委員会(委員長:竹本直一衆議院議員)に付託され、521日に開催された同委員会において審議の結果、賛成多数にて原案通り可決された。同委員会の審議過程で、自民党、民主党・無所属クラブ、公明党および国民新党・そうぞう・無所属の会の四会派共同提案による附帯決議案が提出され、賛成多数にて採択された。この附帯決議には、船舶特償等、トン数税制以外の措置においても国際的な競争条件の均衡化のため更なる制度改善に努めること等が盛り込まれている(資料1-1-1参照)。

その後、改正法は522日に開催された衆議院本会議で可決された後、523日付で参議院の国土交通委員会(委員長:吉田博美参議院議員)に付託され、529日の同委員会において審議の結果、全会一致をもって原案どおり可決された。同委員会においても、民主党・新緑風会・国民新・日本、自民党・無所属の会、公明党及び社民党・護憲連合の各派共同提案による附帯決議案が提出され、審議の結果、採択された。この附帯決議には、衆議院同様、国際的な競争条件の均衡化のため更なる制度改善に努めることに加え、航海命令の発動要件を明確にすること等が盛り込まれている(資料1-1-1-2参照)。

改正法は530日の参議院本会議で可決・成立し、66日に公布、717日に施行された。また関連の政省令(租特の省令を含む)についても、731日までに施行された。当協会は、改正法成立後直ちに前川会長コメントを発表した(資料1-1-1-3参照)。

 

112 「日本船舶及び船員の確保に関する基本方針」及び「日本船舶・船員確保計画の認定に関する基準」

トン数税制の適用を受けようとする外航海運事業者は、国土交通大臣が定める「日本船舶及び船員の確保に関する基本方針」(以下、基本方針)を踏まえ、日本籍船の増加や日本人船員(海技者)の訓練等に関する5年計画を作成し、国土交通大臣の認定を申請する必要がある。

国土交通省は、別途定める「日本船舶・船員確保計画の認定に関する基準」(以下、認定基準)に基づき申請事業者の認定の可否につき審査し、認定を受けた事業者のみがトン数税制の適用を受けられる。

認定を受けトン数税制を適用した事業者は、毎年度、自ら作成した計画の実施状況を報告しなくてはならず、正当な理由が無く計画が達成できていない場合には国土交通大臣から勧告が出され、勧告に従わない場合は認定が取り消される。

これら基本方針や認定基準等については、交通政策審議会の審議等を経て定められることとされている。

平成20717日に第17回海事分科会が開催され、基本方針等について審議のうえ取りまとめられ、731日に告示された(資料1-1-1-4参照)。また、認定基準については、行政手続法に基づくパブリックコメント(意見の公募)を経たうえで、731日に公表された。(資料1-1-1-5参照)。

海事分科会等の概要は以下(1)(2)の通り。

 

1)海事分科会(懇談会)

正式な海事分科会の開催に先立ち、平成20623日に海事分科会の懇談会(議長(分科会長代理):杉山雅洋 早大大学院商学学術院教授)が開催され、「国土交通大臣の日本船舶及び船員の確保に関する基本方針」(以下、基本方針)等につき意見交換が行われた。

当協会からは前川弘幸会長が出席し、はじめに改めて海事局をはじめとする関係者への謝意を表明した後、基本方針等の整備に際しては、先の衆参両院の国土交通委員会において採択された「附帯決議」の考え方に沿い、国際的な競争条件の均衡化のため更なる制度改善に努めること、申請者の過度の負担にならないようにすること等、適切に対応願いたい旨発言した。また、日本籍船の増加については、今後承認試験の簡素化等の課題が解決されれば増加するであろうと見込んでいること、日本人海技者の増加については、優秀な学生が一人でも多く応募してもらえるようトン数税制の要件のひとつでもある訓練をしっかり行い、加えて「人材確保タスクフォース」を立ちあげ、全力を挙げ対応したい旨説明した。

 

2)第17回海事分科会

平成20717日に題記分科会(議長(分科会長):杉山武彦 一橋大学学長)が開催され、国土交通省より提出された基本方針(案)の審議が行われ、原案が修正なく答申として取りまとめられた。併せて船員中央労働委員会の廃止に伴い当該委員会が担っていた調査審議機能を引き継ぐと共に船員政策全般に関する調査審議を行う機関として海事分科会の下に「船員部会」を設置することについても審議され、異議なく承認された。

当協会からは前川弘幸会長が出席し、「人材確保タスクフォース」が予定どおり立ち上がり、現在、「日本人海技者を確保するための広報活動や教育機関との連携」及び「承認試験の簡素化等の改善を求めるための活動」等について鋭意検討を開始していること等を報告した。

 

トン数税制はわが国にとり初めての制度であるため、当協会は、海事局の協力を得て、トン数税制に関する法令集を作成し広く配布するなど周知に努めるとともに、当協会会員をはじめとする海運事業者に対する説明会を平成208月末に東京および神戸において実施した。

一方、認定要件のひとつである日本人船員の訓練要件については、8月末の時点では固まっておらず、その後、教育機関等を交えた関係者による検討が行われ、平成2010月に取りまとめられたため、当協会は、改めて同要件についての説明会を同年11月末に東京・神戸にて実施した。

 

113 トン数税制の認定申請の結果

平成211月末までに以下10社が国土交通大臣にトン数税制の認定申請を行っていたが、同年324日、海事局は、審査の結果10社すべてを認定した旨公表するとともに、認定10社の計画概要についても以下のとおり公表した。

 

認定事業者10社(50音順)

旭海運、旭タンカー、飯野海運、川崎汽船、三光汽船、

商船三井、新和海運、第一中央汽船、日正汽船、日本郵船

 

認定事業者10社の計画概要

    計画期間:5年間(平成2141日〜平成26331日)

    外航日本船舶の確保計画(10社計):76.4159.8隻(約2.1倍)

    外航日本人船員の訓練計画(10社計):5年間で688人(うち社船実習352人)

    外航日本人船員の確保計画(10社計):1,0501,138人(+88人、約1.1倍)

 

[参考] わが国のトン税制の制度概要等

1)制度の主なポイント

【対象事業者】

船舶運航事業者(日本の国土交通省に届出・報告をしている事業者)のみ

 

【適用期間(拘束期間)】

平成21年(or 22年)4月からの5年間(プラス5年の合計10年間)

 

【主な認定基準】

以下@〜Dを盛込んだ5年計画を作成し申請する。

@日本籍船を5年で2

A日本籍船1隻に対し毎年度日本人船員1人養成

B日本籍船1隻に対し日本人船員4人配置

C外航日本人船員が減少しない

D外航日本人船員の採用増、訓練の充実等に努める

 

【対象船舶】

日本籍船のみ

 

【1日当たりのみなし利益(100/T当たり)】

1,000N/T

120

1,00010,000N/T

90

10,00025,000N/T

60

25,000N/T

30

 

【課税の特例】

「(@日本籍船に係る本来の所得)−(Aみなし利益により算出される所得)」の金額を所得控除(損金参入)できる(B)。

テキスト ボックス: (損金)
非課税B

 

2)手続概要

@国土交通大臣が「日本船舶および船員の確保に関する基本方針」を定める。

国土交通省が基本方針に沿った認定基準を定める。

Aトン数税制を適用したい事業者は、基本方針および認定基準に沿った平成214月から平成263月までの5年計画を作成し、国土交通大臣に申請する。認定申請の締切は平成211月末。

B国土交通大臣の認定

C認定された事業者は、平成214月より5年間、トン数税制を適用できる。その後毎年、結果を報告しなければならない。

5年後)

引き続きトン数税制を適用したい事業者は、平成264月〜平成313月までの5年計画を作成のうえ、改めて国土交通大臣に再認定の申請をする。認定申請の締切は平成261月。(5年間で止めることも可能。)