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オピニオン

2021年4月1日

明珍副会長

青い地球を次代につなぐ

日本船主協会 副会長
川崎汽船 代表取締役社長
明珍 幸一

新型コロナウイルス感染拡大の中を手探りで進んで1年余り。ウイルスという極小の存在に翻弄される中で、人間は自然の一部であるということを強く認識させられた。人類は文明の進化でさまざまなものを手に入れてきたが、自然界では本当にちっぽけな存在に過ぎない。

それでも人間は、感染症の流行や大きな災害を繰り返し経験するなかで、知恵を出しあい、技術を進歩させ対処してきた。100年前にスペイン風邪が流行した際、病原体の正体は分からず、適切な対応が取れずに日本だけで39万人という犠牲者が出た。しかし今回の新型コロナ拡大では、これまで数年を要していた新たなワクチンの開発が1年足らずの期間で行われ、しかも95%という高い有効率のものが創り出されている。世界中の多くの人々が知恵を出し合い、支え合って、この難局を乗り切ろうとしていることを、非常に心強く感じる。ワクチンへの対応は国によって異なり、その対応の違いが感染抑制の度合いなどに影響することもあるだろうが、この点の評価は後世に委ねることになるだろう。

自然界では小さな存在である人間だが、自然に及ぼす影響は膨大なものになっている。地質学では近年、ジュラ紀や白亜紀のような地質年代のひとつとして、人類の活動の痕跡が地層に残る時代を「人新世」と呼ぶ動きがあるという。プラスチックやコンクリートが化石として残り、二酸化炭素濃度の上昇といった環境変化が地質に記される時代だ。地球の歴史46億年に対し、産業革命以降の300年足らずのうちに人間が自然界に与えた影響がいかに大きなものか。

コロナ禍での経験を通じて、私たちは人間が自然に与えてきた影響を直視し、持続可能な社会を実現することの大事さを、切迫感を持って実感した。人間は自然の一部であるからこそ、よって立つ自然、地球環境、限りある資源の保全に責任をもって取り組まなければならない。

海運業界では、燃料に由来する温室効果ガス(GHG)の排出削減が大きな課題だ。企業や投資家、消費者などあらゆる分野で環境を軸にした判断が進むなか、GHG削減が遅れれば、海運という産業そのものがマイナスの評価を負いかねない。

新型コロナのワクチン開発は、世界の英知を集めてかつてないスピードで実現した。私たちの業界においても、あらゆる英知を集めて脱炭素化への動きが加速化しつつある。川崎汽船では航空産業の知見を生かした風力推進システムを海運に生かす検証を進めているが、今後は産業を越えた協業や知見の活用、AI・ビッグデータなどデジタル技術の取り込みが、早急な対応を迫られる気候変動対策を推し進めるためには欠かせない。

コロナ禍は、海運という社会インフラが人々の生活に欠かせないライフラインであるということも認識させてくれた。ライフラインとしての物流を絶えさせることなく、且つ低炭素化、脱炭素化を推し進めていくこと。言いかえれば、自然の一部である人間の生活を支えつつ、青い海、青い地球を次代につないでいくことが、私たちの大きな責任だろう。

以上
※本稿は筆者の個人的な見解を掲載するものです。

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