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2005年6月

「安全」雑感

日本船主協会 常任理事
第一中央汽船株式会社 代表取締役社長
野村 親信

JR西日本宝塚線の脱線転覆事故は海外でも大きく取り上げられ、日本の鉄道における安全神話の崩壊として報じられた。事故要因としてハード面、ソフト面それぞれに問題点が指摘されているが、再発防止に向けての具体的な取り組み作業が始まっている。また時期を同じくして、航空業界においても、トラブルが次々と発生している。羽田空港での管制官による航空機の誘導ミス、小松空港での管制官からの離陸許可なしでの滑走開始等、大惨事につながりかねない事実が明るみに出ている。
 これら一連の事故やトラブルを見ると、やはりヒューマンエラーの要素が多分に見られる。安全を担保していく上で、そこに携わる人間の「心身の平穏」が不可欠であることは論を待たないが、事故のたびにこの部分の欠落が指摘される。体調を良好に維持すること、気持ちにゆとりを持つことが異常の早期認識、適確な回避動作に繋がることが承知されていても、現実にはなかなか徹底出来ない。
 この背景として、IT化が急速に進んでいく中で、人間の感性が十分にはIT化に追いついて行けず、世の中全体で以前に比して心のゆとりがなくなってきている面があるのかもしれない。さらに日本経済が低迷期と言われた空白の10年を経て、再生の道を歩み始めた今、「より早く、より安く、より安全に」を基本とした厳しい競争原理の中で、疲労、焦り、不安等が生じている面もある。また一方で生活様式が豊かとなり、恵まれた環境の中で、かつての日本人が持っていた勤勉性、実直性といったものが希薄になり、気持ちの緩み、所謂“たが”が緩んできているとも言える。
 トラブルは陸や空だけではない。海運においても安全運航は永遠の課題である。もともと外航海運は国際競争にさらされたグローバルでボーダーレス化した中で活動してきた。船員を含めた各スタッフも以前から多国籍の陣容で構成され、ソフト面の充実が図られてきた。また海難事故が起こる度に国際規則の改廃が行われ、安全についての様々な規則が整備されてきているが、最近の世界的な環境保全の高まりの中で、安全に対する要求はさらに強くなっている。発生した様々なトラブルを真摯に受けとめ、そのトラブルの中に潜む小さな事故の芽を摘み取り、地道に安全対策を重ねていくことが肝要であろう。
 この冬、鋼材運搬船において大シケの中での荷崩れ事故例があった。原因は貨物のコイルを繋ぎとめているフープラッシングが緩んで切れたことによる。フープとはまさしく“たが”である。われわれも“たが”を締め直して、安全運航を再確認したい。

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