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2005年9月

グローバル化時代の海運政策のあり方

日本船主協会 副会長
日本郵船株式会社 代表取締役社長
宮原 耕治

海運政策がなぜ必要かという論拠は、時代とともに変わってきた。戦後初期には、自立の達成と重要物資の安定供給という観点から海運が論じられた。1960年代には、国民所得倍増計画の中での資源輸入、製品輸出達成のための必要船腹量という視点がでてきて、その時代の10年間、日本開発銀行融資の3割以上が海運に投入された。規模の経済性を追求した海運再編成もあった。その後は、規制緩和や日本籍船の船単位の国際競争力低下への対策がテーマになったが、特に1985年のプラザ合意後は、個々の企業による「グローバル化」の進展と共に、海運業あるいは海運政策の意義といった捉え方は影が薄くなってきたように思う。
 一方、欧州諸国ひいてはEUでは、この10年来トン数標準税制など積極的な海運業振興政策が展開されて来た。注目すべきは、これら政策のポイントは個々の船の競争力と云うよりも、産業としての海運業の国際競争力をどう強化させるかにあった事である。
 欧州諸国の嚆矢となったオランダで出された「オランダ海事国」論(1994年)や、ドイツ運輸省の高官ヒンツ氏が、5年ほど前日本で行なった講演などを読むと、国情の違いはあれ、今なお多くの示唆に富んでいる。オランダでは、政府が自ら「世界で抜群に海事に強い国」であり続けるための政策を模索した。「海事」とは、外航/内航海運、船舶管理、造船、傭船ブローカー、倉庫、港湾運送などの総称で、海運業を育成することでこれら関連事業者の雇用も利益も増大するとした。
 また、ドイツ運輸省高官ヒンツ氏は、その講演の中で、ドイツを含むEUが1997年ガイドラインでTonnage Taxや船員の所得税軽減策を推奨した理由として、明快に次の3点を挙げている。

   1)海上のみならず陸上での雇用確保
   2)蓄積された海事ノウハウの散逸防止
   3)海上安全の高揚

 また、同氏はFOC船にも制度上の恩恵を与える理由として、これも明確に「EU内の経済と雇用に貢献している限り、これを排除する理由はない」としている。
 今、気が付いて廻りを見れば、Tonnage Tax或いは海運軽課税制度に無縁なのは、世界中の主要海運国では我が国くらいになってしまった。このままでは、5年後、10年後には日本外航海運産業は、他国海運産業に敗北する。資源食糧の安定輸送を必要とする島国「ニッポン」がそれでいいのか、より国民レベルの議論が必要だ。

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