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オピニオン

2005年10月

燃料費高と環境保全

日本船主協会 副会長
川崎汽船株式会社 代表取締役社長
前川 弘幸

燃料費の高止まりが続いているが、最近の原油価格市場の動きには不可解なところがある。市場経済におけるマーケット価格の変動であるので止むを得ないのであろうが、個人的には非常に不愉快にすら感じている。昨年来、新興国の経済発展による石油需要の拡大を背景としつつ、ナイジェリアの原油生産施設でのスト、中東の不安などを材料に高騰を続け、ニューヨークの原油市場でWTI*は8月30日に一時70ドル台をつけた。ここまではわからないでもないが、この夏のハリケーン「カトリーナ」がニューオーリンズを直撃すること必至となった時点では、大方は原油価格の更なる高騰を予測したと思うが、実際はIEAの呼びかけで各国が備蓄原油の放出を決めた途端に原油市場は一転して弱含みとなった。また、別の見方として原油在庫需給状況の指標として見られる米国の原油在庫は、水準点の3億バレルを年初より上回っており、実態は供給過小に陥っているとは見られない。それなのに何故か原油価格だけは高止まりしている。投機マネーが入っているといっても実需給との乖離が大き過ぎる。
 一方、欧州諸国ひいてはEUでは、この10年来トン数標準税制など積極的な海運業振興政策が展開されて来た。注目すべきは、これら政策のポイントは個々の船の競争力と云うよりも、産業としての海運業の国際競争力をどう強化させるかにあった事である。
 このまま燃料価格が高止まりしてしまえば、船社としても最適な運航スピードの見直しを迫られる。例えばあるレンジでは10%スピードを落とせば約30%の燃料消費が削減できる。これは温暖化ガス(CO2)、NOx、SOxの排出削減にも繋がるだけに検討に値する。
 思えば先の石油ショックのあと、約20数年前の掃気方式の変更や高効率過給機の採用に始まり、ロングストローク化の開発なども続いて主機関の燃料消費率は150g/h・ps台から120g/h・ps台と約20%の削減を果たしてきたが、主機関連では近年更なる改善が出来た事例は無いに等しい。主機以外では最近二重反転プロペラが一部の船で採用されており、その省エネ効果は約10%といわれているが、イニシャルコストが非常に高いことから拡大していない。
 勿論、海運業界にあっても、造船およびその関連業界にあっても日々燃費改善努力はなされているが、上記ほどのドラスチックなものには到達していないのが実状である。
 過去には急激な設計変更のあまり大きな機関損傷も経験してきただけに無茶な開発競争は避ける必要はあろうが、主機、船型といった広範な分野で造船および船舶関連メーカーの省エネ開発が望まれる。
 この原油価格高騰は経営にとっては重荷であるが、これが更なる省エネ技術開発の呼び水となり、環境保全に繋がる何かを生み出すきっかけとなれば不幸中の幸いであろうか。


*WTI: West Texas Intermediateの略。世界的な原油価格の指標。

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