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オピニオン

2006年6月

企業と国民の利益
-トン数標準税制議論を巡って-

日本船主協会 常任理事
日鉄海運株式会社 代表取締役社長
大隅 多一郎

昨年6月、欧州出張の機会を得た。当然のことながら、欧州海運界もマーケットの高騰を享受し、お会いした方々はいずれも強気の発言、明るい顔つきであった。
 その折、ドイツの海運会社の方々と会食の機会があった。時にトン数標準税制を巡って日本の国交省の方々が訪独されて、日本国内でのトン数標準税制の導入に対する議論に向けた準備のため、ドイツで意見聴取をされて帰国された直後であった。そのため同税制が話題となった際、そのドイツの海運会社の話を聞いていると、経常利益と税引後純利益が殆ど同じ数字であるのに驚き、思わず間違いではないかと聞き返した。彼等は、「欧州の他国でも同様な税制が導入されており、それらと比較して我々はドイツにおいて不利な税制を我慢するつもりはない。仮にドイツ政府が同税制を変更するようなことが生ずるならば、我々はドイツを出て、足下享受していると同等の税制の国へ直ちに移転する」と言い切った。これを聞いて私は、思わずはっとして相手を見つめてしまった。彼等が行っている企業活動は自分達の企業の利益の為のものであり、ドイツの為或いは自社が属する地域共同体の為とか言う気持ちはほとんど意識されていないのかと、考え込んでしまった。
 我々が進めているトン数標準税制の導入にしても、個々の日本企業が、この税制の恩恵を受けている諸外国の同業他社に伍して、より強靭な経営体質を築いて行く必要条件のひとつとして主張している面はあるが、それが実現しないとしたならば日本海運はこの日本を捨てて外国に移転し、そこで活動するというまでの割り切りには至っていないように、私は感じている。EUの中で国境を意識しないで、個々の企業という立場でのみ考えている者と、一つの明確に区切られた国の中で、国という枠を意識して企業活動を展開している日本企業との感覚の相違は、これからどちらへ行くのだろうか。
 日本の海運界が今後とも、自社の利益と共に日本の利益或いは自社が存在する社会の利益の確保を企業目的に活動し続けることは、日本全体のためにも意味のあることと感ずる。この観点からトン数標準税制の本邦への導入が、大きな目で見て日本という我々の共同体の利益に資するのだということを、広く国民が理解してくれるように、願って止まない。

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