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オピニオン

2006年8月

定航における独禁法適用除外制度の必要性

日本船主協会 副会長
日本郵船株式会社 代表取締役社長
宮原 耕治

外航海運同盟への独禁法適用除外制度を廃止せよ、という報告書案が、公正取引委員会の諮問機関である「政府規制等と競争政策に関する研究会(規制研)」から唐突に出された。当協会が挙げた外航海運市場の特殊性の全てを、「カルテルを認めねばならない特別な事情は認められない」と一刀両断に退けた上で、「合理性を欠く運賃修復及びサーチャージ料金の適用等によって荷主の利益を阻害している」として、「適用除外制度は廃止することが適切」と結論付けている。幸い国土交通省からは、慎重に検討する事を強く求める旨のコメントが即日出された。現在、公取委は本制度そのもののあり方につき、広く関係者から意見を求める為、パブリックコメントを募集中である。かかる状況下、当協会としても、関係者に対し、外航定期海運の健全な発展の為には適用除外制度は必要不可欠である事を繰り返し説明、制度存続への諸方面の理解を求めて努力を重ねているところである。
 規制研が僅か4回の会合のみで現行制度は廃止すべきとの結論を出している事は、余りに拙速であると言わざるを得ない。また、報告書案中には、現行制度が定航サービスの安定化にどのように寄与しており、制度を廃止した場合にわが国経済にどのような影響を及ぼすか、と言った非常に重要な点について、殆ど検証がされていない。四方を海に囲まれたわが国にとって、外航定期海運は国民生活におけるライフラインであり、かつ貿易立国を支える社会的インフラである。外航定期海運の実態を無視し、競争至上主義の旗の下で安易に適用除外制度を廃止する事は、寡占化や運賃の乱高下をもたらし、ひいては国民生活および日本の貿易産業界全体へ取り返しのつかない損害をもたらす恐れがあり、規制研および公取委に対しては、単に競争原理のみでは無く、広く国益の観点から実態に則した慎重な検証を求めたい。
 外航定期海運の最大の特徴は、その商品が船の「スペース」であり、定時運航を求められることから商品の在庫が利かない、という事にある。一旦需給が緩むと、破滅的競争に陥る事は歴史的事実であり、定航海運業の健全な発展の為には、一定の秩序維持システムは必要不可欠である。海運カルテルの下でも船社が十分に激しい国際競争に曝されている事は、かつては12社あった日本の定航船社数が現在は3社まで激減している事実が雄弁に物語っている。今日の同盟制度は、必要最小限のカルテル行為を届出制度という国の監督下で行っているものであり、適正な競争状況を維持しつつ定航海運の健全な発展を可能とする、極めてバランスの取れたシステムであると評価すべきものであろう。
 最後になるが、外航定期海運への独禁法適用除外制度は、わが国だけではなく、国際的に認められている制度であり、最近ではシンガポールが競争法導入と同時に外航定期海運への適用除外を決めた事が記憶に新しい。アジアにおいてわが国のみが除外制度を廃止する事は、日本のマーケットだけが需給バランスのみで激しく乱高下する状況を生み出し、船社の日本離れが起こる可能性が高いが、これは日本の輸出産業にとって著しいハンディキャップとなる事が懸念される。総合的な判断が必要なテーマと思う。

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