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オピニオン

2007年2月

駆け込み発注に思う

日本船主協会 常任理事
新和海運株式会社 代表取締役社長
筧 孝彦

昨年自宅を建て替えた。木造・築25年の使い勝手の悪い家ではあったが、躯体はしっかりしていると素人なりに判断をして、建て替えるつもりは全くなかった。ところが、2年程前に横浜市の耐震診断を受けたところ、「大きな地震の際には倒壊の危険がある」という結果が出た。建て替え前の家は、昭和56年に建て売りの物件を購入したものであったが、この年は建築基準法の改正があり耐震基準が強化された年で、調べてみると、私が購入した家は基準強化前の駆け込みの物件であった。この問題については、迂闊にも当時はまったく認識せず、世間もあまり騒いでいなかったように記憶するが、耐震診断の結果が引き金になって、建て替えを行った次第である。
 私事はさておき、ある新聞を見ていたら、「2006年の新造船の受注量が1億総トンを超えた可能性がある」と書いてあった。過去の受注量は2003年の約7,700万総トンが最高であったと記憶するが、2006年はそれを大幅に上回ることになる。海上荷動きは、貨物の種類を問わず右肩上がりで増加しており、当面大きな不安要因も見当たらないことから、船主・運航者等の建造意欲が引き続き旺盛であることは理解できる。
 これに加えて、それぞれの判断から、構造要件・塗装要件等の強化という流れの中で、「改定前のルールが適用される船を建造した方が得策」との意識が、発注者側にも造船所側にもあって、竣工が随分と先であり、また歴史的に見れば(この言葉は最近の海運業界内で大声で言うのははばかられるが)船価が高い水準にあるにもかかわらず、いわゆるストック・ボートを含む「駆け込み発注」の部分がかなりの量に上り、1億総トンという大きな数字になったのではなかろうか。
 少し前の事例では、タンカーのダブルハル化の問題があった。この時も、一部にシングルハル・タンカーの駆け込み発注があり、船価も高い時期であったため、結果的に船主経済への負担が残り、またその後起こったフェーズアウトの問題に直面することとなった。
 あれこれと思いを巡らせながらも、駆け込み発注を含んだ昨年の大量発注が、海運業界およびその関係者にどのような影響・結末をもたらすのか、関心を持たざるをえない。

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