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オピニオン

2008年2月

次世代エネルギーへの取り組み

日本船主協会 副会長
飯野海運株式会社 代表取締役社長
杉本 勝之

環境問題への国際的な取り組みは、船会社の経営に大きな影響を与える。船体構造への規制という形での影響だけでなく、より環境負荷の少ない燃料の使用を義務付ける動きも厳しくなってきた。しかし一番大きな影響は、運ぶ荷物が増大する中で、石炭・石油・ガスが単に燃料としてではなく、工業原料としての物流に徐々に変わることであろう。また、前述のような化石燃料への直接的規制は、既存の化石燃料の物流を変えることだけでなく、バイオ燃料というこれまでになかった物流を生む。バイオマスを農作物由来でつくるのであれば、その輸送の流れも変わる。例えば、インドネシアやマレーシアはバイオ燃料等の利用増加を見込みパームオイル・プランテーションを倍増させる計画があるが、それはつまり原料のままか、燃料用エタノールで輸出される可能性を意味する。

CO2の排出と吸収のバランス収支がゼロとなる性質を、カーボンニュートラルという。バイオ燃料はカーボンニュートラルの特性を持つ新エネルギーとして着目されてきた。しかし、その製造過程や利用の段階で副作用があることも分かってきた。バイオ燃料は、現在の技術では、主に穀物から炭水化物を取り出すため、食料とも競合している。その結果、穀物価格の高騰を招き、燃料用に遺伝子が組み替えられた農作物が、食料危機や食の安全を脅かす。今後10年間、多くの農作物は過去にみられないほどの高価格が持続すると予測する人もいる。

しかし、バイオ燃料をはじめとする代替エネルギーの開発への挑戦や、環境問題への取り組みは、止むことがない。環境問題の解決の鍵は、規制により時間稼ぎをしながら、如何に短時間で採算性の見込める新技術開発を行えるかにかかっている。急成長する中国やインドのような新興大国の経済的発展を支えるには、化石燃料を由来とするエネルギーの投入だけでは環境に与える影響が大きすぎる。ここにきて世界の経済発展を持続可能ならしめるには、食物と競合しない環境にやさしい低コストの新代替エネルギー開発が急務となっている。

経済発展と環境保護とを両立させるのは難しいが、高度な環境基準は、船社に新技術水準の船への転換需要をもたらし、経営手法や会社組織の変革を促す。我々海運業者も個々の立場から、その役割をもう一度見直す時期に来ているのではないだろうか。

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