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オピニオン

2008年3月

「陸上職域に変化の目を」

日本船主協会 常任理事
新和海運株式会社 代表取締役社長
筧 孝彦

“配乗管理”に関する会議を終え社内を巡回してみる。船舶管理部門にはフィリピン人の海技者や商船大卒業の女性もいるが、営業をはじめ他の部門は、学校を卒業して当社及びグループ会社へ“就社”した社員を中心に日本人がほとんどである。
 しかし、海運会社の現場である外航船を訪ねると、風景は全く異なる。たまに二人から四人の日本人海技者が乗船している場合もあるが、大多数の船は外国人の全乗船である。外国人船機長を軸に、外国人を統率して安全運航・効率運航を図らねばならない状況になって久しい。
 陸上の職域が海上に比較してグローバル化していないのは、国内荷主の厚い海上物流需要に支えられ、我々は国内荷主最優先で営業してきたことによる。自社のことで恐縮であるが、当社の売上高に占める海外荷主・用船者の比率は20%台である。これも、日本の荷主向けの帰りの航海を含んでの数字である。
 少し前のことになるが、ミタルグループによるアルセロールの吸収合併、それに続くインド・タタスチールのコーラス買収は衝撃的で時代の変化を強烈に印象付けた。ドライ・バルクの太宗荷主である鉄鋼業界の国際的な再編劇は更に進む可能性がある。鉄鉱石・原料炭生産者の寡占化に対抗する鉄鋼業界再編の次の台風の目は、アジアの鉄鋼業、中でも急速に需要を拡大している中国・インドであろう。
 グローバルレベルでの再編劇はひとり鉄鋼業に限らないし、その流れにかかわっている日本企業のあり姿は様々であるが、海運会社として自明のことは、日本中心の荷動きだけに依存していては、成長率の高い世界の海運業界の中での地位は相対的に低下を余儀なくされるということである。メガキャリヤーの地位を目指す大手船社は勿論の事、当社の様な中堅船社にとっても、世界の海運業界の中でプレゼンスを確保する為には、競争力を高め、成長を求めなければならない。現状維持は世界の成長の後塵を拝することである。
 昨今の海運ブームを受け、歴史を有する海運会社のみならず、中東産油国・中国・インドを含む発展途上国の海運会社が急激に船腹を伸長させており、更に、ゴールドマン・サックス等の海運進出等々世界の海運業は大きなうねりの中に置かれている。
 その様な変化への対応は会社によってそれぞれ異なるであろうが、他の産業と同様海運業においても、成長の源泉は偏に人材である。日本に根を張る海運会社として、日本の荷主のニーズを的確に捉え、対応するべく優秀な人材の確保・育成に最善の努力をすることは当然であるが、同時に、グローバルな成長に照準を当てれば、多彩な人材の外部からの導入に向け前進する必要がある。
 陸上職域においても、同種同根だけでは無く、外国人を含む多彩な人材の交流の中から、変化に対応した成長への芽が生まれるのではないだろうか。

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