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オピニオン

2008年4月

「安全な海」への取り組み

日本船主協会 常任理事
第一中央汽船株式会社 代表取締役 社長執行役員
野村 親信

イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事件が海難審判理事所により「重大海難事件」として指定された。横浜地方海難理事所に特別捜査本部が設置され、異例の増員体制での捜査が行われるようである。これまでの報道によると、この衝突事故も不適切な見張り・航法と、船内の連絡/引継ぎ体制の不備が原因のようであるが、些細なヒューマンエラーにより尊い人命が失われるこのような海上での事故が繰り返し発生することは、誠に残念と言うほかない。
 我が商船の世界では、2007年7月にISMコードが全面強制化となり、タンカー等への事前適用を含めると10年余りが経過したことになる。サブスタンダード船およびサブスタンダード船主/船舶管理者の排除を目的とするこの規則の適用により船舶管理の適切な基準が明確化され、また、船舶の運航についても各社のノウハウがマニュアルという形で纏められ、運用されるようになり、以後の船舶の安全運航に大きく貢献して来たと感じている。しかしながら、商船の運航にあってもこれらの規則の施行により事故が顕著に減少し、今後も安全運航の確保が安泰であると言う訳ではない。実際に昨年度、今年度のP&I保険料は大幅なアップとなった。船舶の大型化によるクレームの大規模化、賠償貨物の価格の上昇、異常気象などが原因として挙げられているが、船員の技量不足によるヒューマンエラーの増加も直接的な事故増加の原因となっている。
 日本では、様々な業界で、団塊の世代の2010年をピークとした市場から退場および少子化による労働力の減少/熟練者不足に対する懸念が、いわゆる2010年問題として取り沙汰されてきた。
 我が海運界においても、2010年をピークにした新造船の大量竣工に伴い、必要とされる優良船員の確保/船員教育が、正に今後の安全運航を左右する切迫した問題として捉えられている。我々が事故を防止し、安全運航を維持するためになすべきことは、従前と変わりなく、ISMコードに基づいた徹底した船舶管理と各社ノウハウの詰まったマニュアルをしっかり教育してゆくことであろう。
 1960年代後半に登場した仕組船は、厳しい国際競争の中で生き抜くために日本海運にとって不可欠な存在となった。70年後半より仕組船の隻数は増大し、我々は安全確保のため様々な外国人と付き合い、船員のキーマンとして育ててきた。この30年余りの経験/実績を活かして2010年をピークとする船員問題をクリアーし、安全な海を守って行きたいものである。

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